星空の約束 3
「……ほんとうに、きみは、不思議な人だね」
いや、俺からしたらあんたのほうが不思議なんだが。
「僕が占い師だって言うとね、大体の反応は二つに分かれるんだ。興味津々になるタイプと、頑なに占いを否定するタイプ。前者は女性、後者は男性に多いかな。でも、共通してることもあってね」
「どちらも、『さあ、言い当ててみろ』って感じで黙り込むんだ。きみみたいに、わざわざ会話がしたいって言う人は、いなかった。そんなきみだからこそ、ここで、悪魔の逆位置が出たんだろうね」
「それは、褒めてんのか?」
「少なくとも、悪い意味では言ってないよ。きっと、僕も、きみと同じ。……対話、したかったんだ」
「ああ、そう」
「だからさ、これからは名前で呼んでもいい?」
そういえば、俺はこいつの名前知ってるけど、こいつは知らないんだよな。いつまでもきみって呼ばれるのもな~。
……ちゃんと教えといてやるか。
「ありがとう、ヒナタ」
みずみずしい声が、俺の耳に入り込む。温かいなにかが、体を包んだ。
「
こいつ……。
ああ、そうだった。俺のことなんてなんでもお見通しだもんな。
「僕の名前はわかるよね?
わけえじゃん。人生これからじゃん。それでも死ぬ必要があんのかね。
「わかってるんだったら最初から名前で呼べばいいのに」
「呼ぶ必要がなかったんだ。今までは占う相手を知るために必要だっただけで、占いが終わればもうさよならだった。……だから、誰かと名前を呼びあえるのは、うれしい」
満面の笑みを浮かべる
……こいつも友達がいなかったんだな。これから俺がめんどう見てやるか。なーんか全体的に世間知らずっぽいし。
「そうと決まれば、どこで占いやるか決めないとな。女がよく来るような場所で……人通りが多くて入るのに抵抗がなくて……ってなると、結構金がかかるぞ~」
「確かに、僕たちの所持金じゃ足りないかもね」
言いながら、
「おまえ、それ……」
おそるおそるハイブラの財布を指さす俺に、
「そう。さっき報酬としてもらったんだ」
「誰から?」
「さっきのおじさんから。財布がなくなってることにはまだ気づいてないだろうけど」
「盗んでんじゃねえかよ」
「違う。ちゃんとした報酬なんだ。僕が受け取ってもいいやつなんだよ」
「いやいやいやいや、どうすんだよ。あのおっさんが気付いてまた襲ってきたら」
俺の心配をよそに、
「大丈夫だよ。あの人を救ったお礼、なんだから。これをもらってなかったら今頃もっと悲惨なことになってるよ」
「中身は、五万くらいだね。財布はいつか返すから売れないけど」
もはや透視じゃん。……っていうか。
「俺に比べておっさんからもらう額えぐすぎないか? ってか、そっちのやつはなに?」
もう片方の手にあるお菓子のパッケージを指さす。
「え? ああ、こっちは違うよ?」
「これは昨日の報酬」
「あ? 昨日?」
「そう、昨日。きみとゴミ捨て場で会ったとき、ぼくがホストのお兄さんに助言してたでしょ? その報酬を今日もらったってわけ」
「え? ああ……」
なんか、そんなことしてた気も……? あのときもボコボコにされてて、よく覚えてねえなぁ。
「言ってたんだよ、あのお兄さんに。寝取られた分を取り返したいなら女の子に連絡しろって」
「それで百万?」
「さっきみたいに僕が助言をして、いい未来が確定したときに報酬をもらう。未来が変わる度合いが大きいほど、必然的に報酬は高くなる」
「まあね。あのホストのお兄さんがこれからも女性たちから金を搾り取れると思えば、百万くらい大したことないでしょ」
「……なるほどな」
こいつ、思った以上に金になるかもしれない。
「今すごい本音が聞こえたけど?」
「そんなことより、それどうやって手に入れたんだよ。あの茶髪野郎が素直に払うとは思えねえし」
「あ、無視したな」
「ホストのために客が大事に握りしめてるやつだぞそれ。金がふってわいたわけでもないだろ?」
「その表現はあながち間違ってないよ。きみにご飯をごちそうしてもらったあと、歓楽街をうろついてたら目の前でこれを落とされたんだ。女の人は気づかずに昨日のホストとデートしてた」
「いや、だからそれは窃盗……まあいいか。あの茶髪野郎が今頃どうなろうと知ったこっちゃないし」
「もう少ししたら、ホストのお兄さんも女の人も大パニックだろうね。でも、今日だけだよ」
そろそろ、ホストクラブが開く頃合いだ。
ホストも客も、売り上げをたたき出すつもりでクソ高い酒を下ろすはず。さんざん盛り上がった結果、大事に持ってきたはずの金がないとなると……。
あのクソ茶髪ホスト野郎による断末魔の叫びが、今からでも聞こえてきそうだ。
「報酬はね、大体は運命みたいに自然と手に入るものなんだ。でも中には、それを無理やりねじまげてでも、支払いを拒絶する人がいる」
「これもまた、需要と供給のバランス。莫大な報酬をしぶれば、最悪、命が代わりとして奪われる。……まあ、でもヒナタのことだから、報酬の未払いを見過ごすことはないだろうけどね」
その表情は、信頼のある笑みに変わる。
瞳から放たれる紫色の光が、あまりにも謎めいて、キレイで、おそろしい。こんなやつとこれから一緒に過ごすのだと思うと、なかなかに興奮してきた。
俺は、今、人生で一番、生きがいってものを感じている。
死にたがり予言者と迷える子羊たち 冷泉 伽夜 @ritsureisen
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。死にたがり予言者と迷える子羊たちの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます