あなたが分からない

森 三治郎

第一話

 私には、鈴木和夫が良く分からない。

解明しなきゃ。



 鈴木和夫は若い女と前を歩いている。よくもまあ次から次へと女が引っ掛かるものだ。


無理もない。若い、イケメン、仕事が出来る、優しそう、金持ち、持てない要素を探す方が難しい。


しかしだ、彼女たちは鈴木和夫の正体を知らない。鈴木は全女性の敵だ。


彼は普通の人ではない。非常にドライなのだ。それも、人非人的に。何かの弾みで「私たち合わないかも」なんてにおわすと、それが思わせ振りの一つの手段であっても、もっと積極的に攻めて欲しいの意思表示であっても、気付いたら大きなミゾとなっていて鈴木ははるか遠くなっていて、二度と振り向かない。始めから無かった存在になってしまう。


対面しても顔さえ憶えていないのだ。こんな事って、あるのかとショックを受けプライドをズタズタにされ多くは去って行く。乱暴な行動、言動があるわけじゃない。心が乾いているのだ。普段の何気ない一言が、決定的な破局になってしまう。これって、どうなの。アンドロイドのような感じがするのだ。機械だってアソビは必要だ。潤滑油は必要なはずだ。


彼女たちは、心ならずも関係は解消に向かう。




 中には納得が行かず、ストーカーまがいの行動に走る者もいる。かく言う私がそうだ。


納得が行かないのだ。私が嫌いになった明確な理由を知りたいと思うのは、当然のことと思う。私は知りたいのだ。嫌いなら嫌いで良い。この男との関係は忘れて、新しく人生を生きて行きたい。未練を断ち切るためにも、ちゃんとした、決着をつけたい。


私は彼の正体を知りたいのだ。




 私は鈴木を待ち伏せ、背後からスタンガンを押し付けた。鈴木はあっけなく気絶した。


意識を失った鈴木は重い。私は苦労して、鈴木を軽の後部座席に押し込んだ。


「さあ、モーテルへ直行だ」


私は勢い良く、軽を発進させた。


「思い知らせてやる♪」






「あれ~、何ですか。何をするつもりですか」


「ふふふ、やっと気付いたわね。鈴木和夫さん」


「何のつもりですか、これは犯罪ですよ。とにかく、この縄を解いてください」


鈴木和夫を、イスに縛り付けた。足首にもロープを巻いた。


「ふふふ・・・・・正体を現しなさい」


「何言ってるんだ。あんた、頭おかしいんじゃないか。俺は鈴木和夫、普通のサラリーマンだ」


「いや違う。あんたは、アンドロイドかもしくは宇宙人だ」


「そんな事、あるわけないだろ~。とにかく、この縄を解いてくれ」


「ふふふ、あなた私を誰か分かってますか」


「・・・・・女の人・・・・・」


「だけじゃないんだな」


「う~ん」


「分からないの、元彼女よ。普通は一緒に暮らした女とか寝た事のある女は、多少は憶えているものなのよ。多少はその関係の感情はひきずるものなの。それが人間なの。あんたは、その記憶が全部リセットされている。それは、人間じゃない。最初は病気かと思ったけど、そうじゃなかった。あんたは人間の心を持ってない。アンドロイドか宇宙人なのよ。ちなみに、私が誰だか判る?。何度か寝たし、一緒に暮らしたこともある女よ」


「う~ん」


バシッと和夫の頬がなった。


「竹本梨央よ、竹本梨央。いったん消去したら、元に戻せないの。仕方ないわね。正体を暴いてやる」


梨央はテーブルにあったナタを取った。


「何をする気だ!。止めろーキチガイー!」


「うるさい!」


振り落としたナタは、鈴木和夫の額に命中した。「ギャー!」という獣じみた悲鳴が上がり、額が割れ、血が吹き飛び、鈴木和夫は失神した。


私はノコギリを取り、鈴木の後ろにまわるとギコギコと頭蓋骨を切った。再び鈴木が「ギャーギャー」と叫んだが、構わず切れ目を入れ両手で頭蓋骨を割った。血にまみれた脳みそもようの乳白色の大脳が剥き出しとなり、ぷるぷると震えて湯気を立てている。鈴木に間欠的な痙攣がきた。


次に菜切り包丁で大脳を二つに。ねっとりとした抵抗をもって、大脳は二つに開いた。


割って底を見ると、白っぽいやや硬いものがあった。


「これだー!」






「もしもし、大きな悲鳴が聞こえたのですが、何かありましたか~。もし~大丈夫ですか。救急車を呼びますか~。開けますよ~」


モーテルの従業員がドアを開けた。


「・・・・・?!」


血塗れの髪を振り乱した女が口角を上げ、手に血塗れの白い塊を持っていた。その後ろには、頭が二つに割れた人が、血だまりの中イスに縛り付けられていた。


「キャー!」


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あなたが分からない 森 三治郎 @sanjiro

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