それでも前に進まなければいけない
第7話「思い出せない宝物」
「柊、くん…って誰…?」
名も、声も、顔も知らない彼の名前を私は呟く。隣で身支度をしている母は手を止め、少し悲しげな、何か言いたげな顔をしてこちらを数秒見つめ、肩を下ろして身支度を再会する。
「…莉菜。あなたは記憶喪失になったの。疑うなら過去の記憶を思い出しなさい。柊優というのは莉菜の恋人よ。そこの箱に色々あるから見て。じゃ、私は仕事だから。」
少し冷たい態度で母は外へ出る。
記憶喪失なんてまさかと思ったが、まるで記憶にノイズがかかっているように過去の記憶が何も思い出せない。
「あ、そーいえば箱見てって言われてた。これかな?」
可愛らしいピンクの箱を開けてみると、一番上には折り畳まれた1枚の紙が入っていた。私は紙を開いて読んでみる。
莉菜へ
まずは手帳を見なさい。
詳しいことは書いてあります。
写真は記憶喪失になる前の写真です。
優くんと莉菜の写真だよ。
毎日見ること。
母より
母の綺麗な字体で書いてある手紙の通りに、黄土色と茶色を使った布製のカバーのついた手帳を開く。1ページ目には手紙と同じ字体で何か書いてある。
これは莉菜の日記帳。
その日起こった出来事をなるべく詳しく書くこと。
そしてここに書いてある出来事は、信じてあげなさい。
次のページには優くんのこととか、莉菜の友達のことが書いてある。
外見とかは写真をみてね。毎日ちゃんとみるんだよ。
母より
母の書いたものだ。次のページには柊さんのことや、友達?の『
外見が気になると思い写真を見ると、1枚1枚に数個の矢印が書いてあり、矢印をたどると名前が書いてある。多分これは私がわかりやすいように母が書いてくれたものだろう。
柊さんは優しそうな見た目だった。でも日記帳には「難病持ち」や「難病で亡くなる」などと書いてあったり、写真でも私がいる病室とほぼ同じようなところで撮られたものがある。
朝日乃蘭さんは、ギャルって感じで明るい人そうだけど、日記帳には「実は真面目」、「仲間思い」などと書かれている。見た目による偏見ってこう言うことなのか。
鈴木龍馬さんは身長が高く、頼れる、そしてたくましい感じがした。日記帳には「力持ち、成績優秀」、「乃蘭さんの彼氏」などと書かれている。この二人恋人だったんだ。お似合いだと思う。
100枚くらいの写真があって、まだ半分も見ていないが、何より私が思ったことは、みんなも、そして私も、とても楽しそうな笑みを浮かべている。
私は近くにあった鏡が目に映り、なんとなく自分の顔を見てみる。なぜか泣いたような感じで少し目が腫れているのはおいておくとして、無表情って感じがする。
しかし写真の私は、言葉には表せないくらいの楽しそうな笑顔をしている。この人たちといる私は、とても輝いている。
柊さん、乃蘭さん、龍馬さんについてもっと知りたい。私の知らない私を、記憶喪失になる前の私を知りたい。
私は日記帳に自分の思いを、新しく知ったことを書き
「…い!おーーい!」
いきなり耳元で聞こえた声に私は思わず声を出して驚く。
「やっと気づいたー!何回言ってもなんか書いてて私の声聞かないんやからー!」
「俺らずっと呼んでるのになぁ!」
目の前には、いつ来たのかもわからない男女二人が私の前に立っていた。
哀感の1ページ のえたそ @noel-afreet
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