最終話
ウラヌスを見送ったゴンゾウが、安堵の表情を浮かべながら振り向く。
すると、リネットがレイの手を握り締めて、涙を流している。その隣では、カズオも黙って神妙な面持ちをしていた。
「レイ様……本当に……行かれてしまうのですか?」
「ああ、色々と世話になったな」
それを耳にしたゴンゾウが目を見開いてレイの肩を掴む。
「おー待て待て待て待て待て! 俺はそんなこと聞いてないぞレイ!? クルタの街に帰るんじゃないのか!?」
「異世界で愛する家族が私の帰りを待っているんだ。騙すようなことをしてすまなかった」
そう謝ったレイは、唐突に腕から外したブレスレットをゴンゾウへ手渡した。
「……これは?」
「大事な剣を折ってしまった詫びだ。これからはお前が
「何だよそれ……守るったって、もう戦争は終わっただろ? ――」
眉を顰めるゴンゾウに、レイは哀しげな表情で首を横に振った。
魔王軍との戦争が終わっても、仮面騎士が存在しなければならない理由――それは、この後に『人類同士の戦争』が始まると予想されるからである。
覇権争いで勝ち残った人類は、今まで魔物と闘うことで協力し合うことが出来た。
しかし、その魔物を打ち滅ぼした後は“人類同士で土地や資源などの奪い合いが起こってしまうのではないか”と、レイは憶測していた。
「そうなれば、またこの世界に住む人々は『必ず明日が来るとは限らない』という恐怖に再び脅かされる日々が続くことになるだろう。その時、民達の心を支えるのに必要となるのは、絶対的な安心感……そう、仮面騎士という“希望の象徴”だ」
「希望の……象徴?」
ブレスレットを握りしめたゴンゾウの脳裏に――クルタの民達が笑顔を浮かべる情景が過ぎる。
「……分かったよ、レイ。お前がこの世界を去った後も、俺が仮面騎士を引き継いで必ず皆を守り抜いて見せる」
「お前ならそう言ってくれると信じていた……後は頼んだぞ、ゴンゾウ――」
元々誰かに呼ばれてこの世界に転生した訳でもない。
それでも魔王討伐という目標を掲げ、誰よりも直向きに剣の道を生きてきた。
温かな民達が集うクルタの街が大好きだった。
民達は平和ボケしてるくらいが丁度いい。
なぜなら平和ボケは“安心して幸せに暮らす”ことで生まれる副産物なのだから。
ゴンゾウにはそんな民達を愛し、いつまでも彼らの守護神として守り続けて欲しい。
全てを託したレイは桟橋の先端で優しく微笑むと、リネットやカズオと共に異世界へと帰って行った――。
ゴンゾウが街の広場に一人で戻った矢先、その姿を見たエレナが涙ぐみながら走り寄って抱きついてくる。
「ゴンゾウさん……無事で良かった……」
「……心配かけて、ごめんな」
絹のようなエレナの髪に優しく手を添えたゴンゾウは、夕焼けで紅く染まった空を見上げていた――。
その後。
世界を救った仮面騎士として国王から功績を讃えられたゴンゾウは、騎士として最高評価である男爵位を授かった。
国王はゴンゾウへ領土を与えようとしたが、彼は『戦争で行き場を失った人達のために使ってくれ』と首を横に振って、領地所有権の授与を丁重に断った。
そんなゴンゾウをクルタの街でも崇めるため、中央広場に“仮面騎士の石像”を建てることとなった。
「あ、石工屋さん……俺の石像、こんな感じに造ってくれないか?」
ゴンゾウから絵を手渡された石工屋は、何も聞き返さずに快く頷いた――。
満月が浮かぶ月明かりの下。
あの日のように、芝生へ腰掛けたゴンゾウとエレナ。
すると、ゴンゾウが懐から婚約指輪を取り出し、エレナの瞳を見つめた。
「す、すんごい結婚したいでやんす」
赤面したエレナは嬉しさのあまり口を手で覆い、少しの間を置いてコクリと頷いた。
「すんごい宜しくお願いします……でやんす――」
中央広場で装備屋のおやっさんが司会を勤める結婚式が開かれると、街の民達は総出で盛大に賑わった。
真っ白なウェディングドレスを身に纏った天使がゴンゾウに尋ねる。
「ねぇ、いい加減石像の
「そうだな……あいつはこの世界を平和に導いた、俺にとって“唯一無二の同志”だ――」
晴れてエレナと婚姻を果たしたゴンゾウは、数年後に三人の子宝に恵まれ、街の子供達に対して剣術指南をしながら幸せに暮らしたそう――。
そんな街の中央広場には。
『誇らしげに剣を空に掲げるゴンゾウ』と『腕組みをしながら空を見上げるレイ』。
背中合わせに微笑む二人の石像は、いつまでもいつまでも、街の民達を見守り続けていた――。
fin
【完結】バルログ〜悪魔をも喰らう狂魔人〜 暁 @akatuki0821
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます