第159話 散歩とパンと秋の空②
「ん〜〜!」
もぞもぞと動くひよりに起こされる。そうだ、この温かい食欲モンスターを湯たんぽにして寝てしまってたのか。
「散歩行こ、あとパンも買う」
ふらふらと立ち上がって歯を磨く。これだけで目が覚めるんだから人間って単純だ。
髪は……セットしなくてもいいだろう、誰かに会うわけでもないし。
「寝起き有くんの髪型だ〜おもしろいし写真撮っていい?」
やっぱり髪はセットしよう。
「いいわけないだろ、ほら準備して外行くぞ」
ドアを開けるとざぁっと吹き込む風。12月にもなると、朝晩は肌を刺すような冷たさが身に染みる。
「うわ、さむっ」
そう言うとひよりは俺の腕をとる。モコモコのアウターが俺のダウンと擦れて、ぱちんっと音を鳴らした。
「おい、今静電気すごいから直接さわ……」
触るな、と言いかけたところで悪い顔をしたひよりは手を俺の頬へ。
「「いたっ!」」
案の定ひりひりした痛みが俺を襲う……いや、お前も指痛いだろうが。
「なんで分かっててやるかなぁ」
「お決まりというかなんというか……足痺れてたらつんつんしたくなるじゃん?あれと一緒よ」
訳の分からない言い訳をしながらも彼女は俺の腕を離さない。
食欲モンスターを引っ張って道を歩く。しっかりと色付いた木々が風に揺れている。
坂道に差し掛かったところで、その色とりどりの道に思わず目を見開いた。
「綺麗〜!」
休日の朝、まだ人が踏み荒らしていない道は、風で飛ばされて来たであろう葉で覆い尽くされていた。まるで絨毯を何重にも敷いたような、アスファルトが見えないくらいまで積もった赤や黄色に飛び込みたくなる。
俺ですら飛び込みたくなるということは……刹那、腕に力を込める。
「どしたの、有くん。寒い?」
機敏に腕の変化を感じ取った秋津がこちらへ身を寄せながら囁く。
「いや、お前なら走ってあの積もった葉っぱに突っ込みそうだなぁと」
「ま、ま、まさかぁ……ねぇ?」
うずうずしてたのを俺は見逃さないからな。いい大人が子どもみたいな発想しやがって。
まぁ同じ想像した俺も同類か。
「でもせっかくだから近くで見たいかも、いい?」
こてんと傾げられた首に首肯以外の返事ができるわけない。こういうところ、ずるいよな。
「はいはい、でも走るなよ」
少し引っ張られ気味になりながらも、俺は彼女に歩幅を合わせた。
◎◎◎
こんにちは、七転です。
いよいよ明日、本作の書籍が発売されます!
みなさまに少し早い心ばかりのクリスマスプレゼントを用意したので、明日はメールを見てみてくださると幸いです。
もしよろしければ、本屋さんで秋津を探していただけると嬉しいです。
ではまた!!
営業課の美人同期とご飯を食べるだけの日常 七転 @nana_ten
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