第158話 散歩とパンは秋の空①

「秋だ!!!」


 まだ太陽も欠伸をしている頃、薄くカーテンから差し込む光に目を擦っていると、隣の食欲モンスターが騒ぎ始める。

 今日は土曜日、社畜に与えられた(たまに剥奪される)正真正銘の休日である。


 なんだってこんな時間に起こされるんだ。

 普段はのそのそと起き上がってくるはずのひよりは、俺の布団をばしばし叩いている。


「おい、寝かせてくれ……昨日も遅かったの知ってるだろ……」


「知ってるわよ!晩御飯作ってたのに22時過ぎて帰ってくるもんだから!」


 彼女の料理が食べられるのは嬉しい話なんだが……先にご飯を食べたはずのひよりが、俺と一緒にご飯食べるって聞かずに、結局同じくらいの量食べてたからな。

 無限の胃袋。


「お前あれだ……食べ過ぎ」


「うるさいわよ」


 うつ伏せになって現実から目を逸らす。俺の味方はこの胸の下にある枕とほっかほかの掛け布団だけだ。


「ほら、起きるわよ!」


 そんな二大味方のうちのひとつ、掛け布団をあえなく引っぺがされる。


「やめてくれ……まだあと5時間は寝かせて」


「お昼になるじゃない」


「そう、昼まで寝たいんだ」


 彼女は俺の下の枕まで引っこ抜くと、再び背中をばしばしと叩く。


「いーやーだーせっかく朝起きられたからお散歩行くの〜!」


 そのままこてんと身体を横に倒す。

 突然綺麗な瞳と視線が合う、こういう顔に弱いんだよな、俺。


「それでね、近くの美味しいパン屋さんでパン買って朝ごはん食べたいの」


 数秒の沈黙。

 うちのお姫様はお腹が空いているらしい。それなら仕方ないか。

 直後、きゅうっとかわいい音が彼女のお腹から聞こえた。


「ほら、私のお腹もそう言ってる」


 そこは普通恥ずかしがるところじゃないのか。それより。


 横になった彼女の上にも布団をかける。こうやってゆっくりするのも久しぶりなのだ。


「あと15分だけこのままで」


 そう言ってるひよりを引き寄せる。

 彼女はしぱしぱと瞬きすると、にっこり微笑んだ。


「15分だけね。私が湯たんぽになってあげる」


 腰に回される手、さらさらの髪が頬を通り過ぎていく。

 じんわりと心地よい熱が身体に伝わっていく。


「それは……大きな湯たんぽだな。気に入った」


 それからの長くて短い十数分間、俺は食欲モンスターの形をした大きな熱源をもふもふと撫で続けた。

 







◎◎◎

こんにちは、七転です。

少し落ち着いたので更新を。

『営業課の美人同期とご飯を食べるだけの日常』、書影公開されました。どうしま先生の描く秋津たち、本当にかわいいです……!

Twitterやらでご検索いただけますと幸いです。発売は12/10です!


それとですね、もし私の文章に忌避感が無ければ……というお話で、別作品も載せときますね。

良かったら覗いてみてください。


・『ただ、向かいに住む後輩とベランダで』←きりのいいとこまでいってます。

・『合コン行ったら魔法使いがいた』←気が向いたら更新します。

・『街を歩くなら君とがいい』←毎日更新してます。ぎりぎり!

・『???』←私の時間が許せば12月頭くらいから書き始めます……。



ではまた!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る