第2話

 会談から数か月後。

 今日は、シャインが刑期を終える日だ。

 私は、彼女を迎えようと準備をしていた。

 イズミと朧も、その場に駆けつけてくれている。

「それで、姫。何を考えている?」

「何かを決めたという顔だな」

「イズミも朧も、何でわかるの?」

 両隣にいる王子に唇を尖らせてやると、きょとんと二人で顔を見合わせていた。

 そうして、二人でニッと笑い合う。

「わからないわけがないな」

「決まっている」

 こういう時だけ仲が良くなるな、この二人。

「ずっと、お前だけを見ていたんだ。わかるに決まっている」

 二人で声を揃えて、示し合わせたかのように言い放つ王子たち。

 本当、楽しそうですね。

「ソウデスカ」

「それで? 何をするつもりだ?」

「何でも言え。協力する」

 いやいや、この人たち、私に甘すぎでしょ。

 ま、それに甘えている私も私か。

 口角を上げて。たたっと私は、二、三歩前に進む。

 そうして、くるりと二人に向き直った。

「記憶を辿るの」

 十一年前、太陰に魔法をかけられた後に、何が起こったのか。

 どうして、私は輝夜としての記憶を失ってしまったのか。

 記憶を取り戻せたら、意識の底で泣いている私に出会えるかもしれない。

 叫びを上げている、私の知らない私に。

「胸の奥で、見捨てないでって泣いている声が聞こえるの……幼い輝夜が取り残されているのなら、私は救いたい」

 二人は茶化すこともなく、真剣に私の話を聞いてくれていた。

「だから、もっとこの国のことも、望月国のことも知りたい。どこで何があったのかはわからない。太陰への罰とは違うけれど、私のためにも、そしてこれからのことを考えるためにも、私は国を見て周る」

「決めたんだね。支援するよ。共に行ける時は同行するから、遠慮なく言うといい」

「お前は、一度決めると譲らないからな。俺も当時のことは調べていた。何かわかれば知らせよう」

「ありがとう、二人共」

「私のことも忘れないでくださいね」

「シャインおかえり――ってええ?」

 彼女の声に振り返れば、そこには神官服に身を包んだ金髪の姫が立っていた。

 その髪は、私と同じくらいの長さ――肩口で切り揃えられている。

「姫様、どうかミロワールとして、おそばで仕えさせていただくことのお許しを」

「シャイン……ううん。許すなんて言わないでよ。どうかまたそばにいて、ミラ」

「姫様……! ありがとうございます。どこへなりともお供させていただきます。暗殺者として仕込まれた腕を頼ってくださいませ!」

「本当、頼もしい!」

「姫様!」

 ぎゅっとミラに抱き着いて、私は久しぶりの親友との再会を喜んだ。


 これから、何が待ち受けているかはわからない。

 どうなるかなんてわからない。

 三国間での戦争は回避された。

 とはいえ、世界は広い。

 望月国が戦いを仕掛けたことのある諸国との関係もある。

 私一人の力じゃ叶えられないかもしれない。

 それでも願う。

 二度と戦争が起きないようにと。

 だから、そのためにできることはやりたい。

 頑張りたいと思うから。


「改めて、これからもよろしくね!」


 私は、私を生きる――

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Memory 広茂実理 @minori_h

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