第5話 Assassination

 ある日、驚く連絡が入った。彼が乗ったプライベートジェットが追撃され、落下して死亡したというものだった。犯人はわからなかったけど、どうも、彼は、かなり悪どいことをしていて、多くの人に恨まれていたらしい。特に、最近は、戦争の武器の販売に手をつけていたことがわかった。


 私は、すぐにプライベートジェットの破片が散乱する場所に行ってみたけど、ここで墜落したのなら、助かる見込みはないと思った。でも、武器商人として活動していたんだったら、危ないから別れどきだったかもね。


 結婚していたから、一生遊んでいけるぐらいの遺産は手に入った。彼との時間は楽しかったけど、もうこの世にいないんだったら、仕方がないわね。これからの人生は、ゆっくり考えてみるわ。


 お葬式が終わって1年ぐらいは喪に服すことにした。それぐらいしないと、冷たい女だとか言われちゃうし。その1年で、今後、どうするかじっくり考えてみたの。私は、まだ30歳だし、まだまだ活躍できるチャンスはあるけど、事業の才覚があるとは思えない。誰かと一緒にという案はあるけど、多分、今の状況だと、私のお金目当てで集まってくる人ばっかりだと思う。


 そんな時、インドネシアでバッタリ、月の事件の時に一緒に過ごした彼と再会した。


「あれ、健二じゃない。なんでインドネシアにいるの? びっくり。久しぶり。」

「あれ、美奈なの。僕も、びっくり。本当に久しぶり。僕は、あれから国際経済協力関係の仕事をしていて、日本政府のお金でインドネシアの経済発展に向けて調査とか、企画提案とかしているんだ。だから、今はジャカルタにいるんだ。」

「すごいじゃない。頑張っているんだ。」

「ところで、美奈は結婚してるんだね。」

「そうなの。」


 彼は、私の婚約指輪を見て結婚していると気づいたみたい。旦那は死んじゃったけど、指輪をつけていると、まだ忘れられない妻っていういい感じだし、なんか習慣でつけたままだったの。でも、旦那が死んじゃったとか説明するのも面倒だし、彼と付き合う気もないので、そのままにしておいた。


 でも、彼は、また儲からない仕事しているのね。やっぱり別れて正解だった。確かに人に役立つ仕事だとは思うけど、身なりも質素だし、給料が安いんだと思う。私が一緒だったら、多分、貧相な生活を送っていたんでしょうね。それは嫌だもん。


「あの時は、幸せだったわ。その後、ちょっとブルーになって連絡しなくなっちゃって、ごめんなさい。あたなと一緒だったら、今、幸せに過ごせていたかもね。」

「今、幸せじゃないの?」

「そんなこともないけど。誰だってあるでしょ。結婚生活って、そんなに幸せばかりじゃないのよ。」

「僕も結婚していてさ。わかるよ。」

「それは、おめでとう。人の役に立つ、素晴らしい仕事をこれからも続けてね。私、用事があるから、これで失礼するわ。」

「わかった。元気でね。」


 彼とは一緒に暮らさなくて良かったけど、学生時代のことを懐かしく思って、少しだけ涙がでた。でも、そんな気持ちはすぐ忘れ、ホテルに戻ったら婚約指輪は右手に付け替えた。出会いとか、これからないわけでもないし、そのチャンスをなくしちゃダメよね。


 その後、乳がんになった時には、再度、人生を考えさせられた。乳がん自体は、切除し、シリコンとかで元通りになったから、別に気にしていないけど。それよりも、若くても、いつでも死んじゃう可能性があるんだってこと。月の事件はあったけど、それ以降は、まだまだ人生は長いと勝手に思っていたから。


 お金を多くの国に分散して、一生、それで遊んで暮らすのがいいかもね。そのうち10億円ぐらいを、遊びも兼ねて事業してみるとかもいいかも。リゾートにホテル作って、私のスィートルームを作って住みながら、誰かにホテル運営を委託するとか。


 いずれにしても、あの事件で世の中が大きく変わったことは、私にとってよかったわ。こんなに贅沢して過ごせるなんて思ってなかった。


 その時だった。急にドアから男が数人が入ってきて、私は縛られ、何か嗅がされて気を失ってしまった。その後の記憶は定かじゃないけど、薬漬けにされて、口座の番号とか全て話してしまい、お金を失ってしまった。男達は誰かわからないけど、武器商人とか、祥一に騙された人とかでしょうね。


 そして、売春宿に売り飛ばされ、今は、薬欲しさに、毎日、誰かの性のおもちゃとして生きている。こんな生活をするとは思っていなかった。


 でも、自分で儲けたお金じゃないし、私って、このレベルの人なのかもしれない。むしろ、薬が切れて苦しくなった時に薬を飲んだ時は快感。この快感のために生きることが最近の楽しみで、悪い人生じゃない。


 お金もらってエッチができて、薬で快感を感じることができるなんていい生活じゃない。最近は、1日8時間だから、2人のお客とエッチして、そのころに薬も切れるから薬を打って4時間寝て1日が終わるというハードな毎日。考える時間もないわ。


 ところで、月がなくなったせいで、地球もさらに変わってきたと聞いた。地球の自転が早まることで、各地で強風と砂嵐が吹き荒れるようになったって。また、潮の満ち引きがなくなったので干潟がなくなり、多くの魚たちが絶滅してしまったらしい。


 人類もそう長くないかもね。聞いたことあるけど、生死に関わる事態になると、動物って生殖活動を強めるんだって。そのせいかわからないけど、お客は絶えることがなかったわ。だから、薬も買えて、快感の日々を過ごしている。


 私の人生って、外から見るとどう見えるんだろう。多分、不幸って感じかしら。でも、月の事件から多くの人が死んだし、その中で、盛大な結婚式をして、豪華な服を着て、美味しい料理とお酒も毎日だったから贅沢にも飽きていた。


 そこに、エッチとか薬とか、動物的な快楽の毎日。ダニとかいるベットで暮らしているから衛生的には少し問題もあるけど、1日8時間しかなくて、考える暇もないから、今の生活には満足しているわ。それに1ヶ月ごとにオーナーが掃除とかしてくれるし、ご飯も、硬いパンとかだけど毎日出てくるから、家事とか何もしなくてもいいし楽。


 満足していることが一番重要なのよ。私は、その都度、最高の人生を選択してきたんだと思う。そうよ、私は、今、とっても幸せなの。


 3年後、売春宿の中で薬の打ち過ぎでショック死した日本人女性が発見された。その頃には世界の荒廃も進んでいて、1人で死んだ女性の面倒を見る人もなく、その女性の遺体は、近くのゴミ捨て場に投げ捨てられた。

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月が落ちる 一宮 沙耶 @saya_love

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