第4話 After the Dooms day

 あの事件の後の世界は劇的に変わった。私は専門家じゃないので分からないけど、中国は共産党の主要な人がいなくなったので、民衆が反発し、アメリカよりも自由主義国家と言える雰囲気になっていったんだって。その中で、従来から、リスクへの抵抗感は少なく、新しいことへのチャレンジ精神も旺盛だから、どんどん革新的なものが生まれているらしい。


 アメリカはやや暴力とかが横行しがちな雰囲気になったみたい。ヨーロッパは、各国が、より閉鎖的になり、情報発信は少なくなったみたい。中東とかアフリカの情報は全く入ってこないという感じ。


 それよりも、国という概念が弱くなったみたい。これまでのようにパスポートで入国管理をするようなことはなくなり、自由に人が行き来するようになったわ。関税とかも無くなり、物が自由に運ばれるようになった。


 そんな中、シンガポールの夜から付き合い始めた祥一は、商社に入って、古典的だけど、金のトレードを始めた。そして、私は、彼の海外出張に時々ついていきながら、一緒に過ごす時間は増えていった。


 ただ、1つ問題があった。祥一には、彼女がいたの。突然、彼女という人がいきなり私の前に現れた。


「あなた、どういうつもりなの。祥一は私の彼なの。アメリカの大学時代から私が付き合っているのよ。そもそも、あなたみたいに、無能で、見た目も普通の女なんかに釣り合うはずがないでしょ。」

「誰ですか? 祥一さんは、私を選んでくれているですが。元カノですか? 自分が振られたからって、私に文句言わないでください。」

「ふざけないで。昨晩だって、祥一は私と一緒に夜を過ごしたのよ。祥一は、優しいから、あなたがちょっかい出しても、断っちゃ傷つくかなって言えないだけで、困っているのよ。だから、彼の前から早く消えなさいよ。」


 もう、こんな気狂い女と話してもダメだと思った。まず、探偵雇って、この女の素性を調べた。確かに、アメリカの大学時代に祥一と同じクラスメートで、付き合っていたらしい。多分、大変な時に同じ日本人ということで、お互いに心の支えになっただけなんだと思う。


 そして、それなりのお金持ちの親がいて、親の会社経営に参画している。だから、あんなに高そうな服着て、高そうなアクセサリーを付けていたのね。趣味は悪そうだったけど。また、お金持ちと言っても、月の事件の時に火星に行くリストに入っていなかったんだろうから、財界からは嫌われているのね。反社の人かも。


 大体わかったわ。いずれにしても、彼にはふさわしくないんだし、彼もわかっていて、でもいい人だから別れるって言えないだけなのよ。自分がそう思われている時って、相手にもそう言いがちよね。でも、彼にそんな嫌なことを言わせずに、別れさせてあげるのは、彼女である私の役割ね。わかったわ、祥一。


 まず、@takashiというコードネームを持つ女性ハッカーの美奈さんが中国政府の元でハッカーをしているということを昔から聞いていて、美奈さんを探すことから始めた。美奈さんは、月の事件の時に中国政府からは火星に誘われずに怒っていたらしく、今はフリーだと噂されていてた。


 ほどなく美奈さんは見つかり、コンタクトをとった。美奈さんは、私と同じぐらいの年齢で、とっても可愛い女性なのに、全く罪悪感というものがないところがいい。5,000万円渡したら、どうして調べるのかとか聞かずに、OKと軽く引き受けてくれた。ラッキーじゃない。


 元カノの親が経営する会社の不正を調べてもらったら、出てくる、出てくる。政治家への賄賂、脱税、反社勢力との繋がり、社長のパワハラ、いくらでも出てくる。


 これらを全部、週刊誌に提供してあげた。週刊誌は、特集を組み、毎週のようにこの会社の不正を暴く記事を出したわ。それを受けて、毎日のようにニュースとなった。そんな中で、元カノは祥一に助けを求めた。


「祥一、知っていると思うけど、ひどいことになっているの。誰が火をつけたか、おおよそ察しはついているわ。あなたにちょっかい出している美緒っていう女。」

「美緒は、そんなことしないし、そんなことできないよ。」

「あなたは騙されているのよ。助けて。今、重要なのは、うちの会社はそんなことはしないっていう第三者が出ること。それを契機に、今の批判をひっくり返すから。」

「僕は、お前と心中するつもりはない。もう、ここまで来たら、評判を取り戻すのは無理だって。」

「何言っているの。私が、これまで、あなたをどれだけ支援してきたと思っているの。こういう時に助けてもらうためでしょ。」

「そうだね。今、お前が言った通り、あくまでも、お前とはお金だけの関係だよね。しかも、お前が好きで僕にお金を渡しただけで、僕が要求したことなんて1度もない。」

「ひどい。そんな言い方って。これまで渡したお金は1億円にもなるのよ。」

「証拠ってあるんだっけ。僕が稼いだっていうことになっているんだし、もう、独立に向けた人脈づくりとかで使っちゃったけど。まあ、いいタイミングだったし。これまでお金だけの関係だったけど、もう会うのはやめよう。君と一緒にいると、僕も、不正の一味だって思われちゃう。じゃあね。これまで、ありがとう。」


 祥一は、その晩、私とバーでワインを傾けながら、私に話しかけた。


「今度、独立するんだけど、僕の秘書として働いてみない。」

「やってみたい。何をすればいいの。」

「まず、やりながら、できる仕事を増やしていこうよ。まだ1人で心細いから、ベンチャーファンドでいろいろやっていた美緒が相談に乗ってくれると嬉しいな。」

「やるやる。ところで、そこまでいったんだったら、結婚しない。」

「あれ、僕から言おうと思っていたけど、先を越されちゃったね。もちろんOKだ。こんな僕でいいの?」

「もちろん。祥一のこと大好き。これからの人生、一緒に楽しみましょ。」

「よろしくね。」


 なんか、さっくりと婚約してしまったけど、狙い通りで嬉しいわ。元カノとも別れられたのね。じゃあ、ドバイで盛大に結婚式をして、元カノとは関係ないことを世の中に公言しないと。


 結婚式も終わり、世界の金融を仕切っているロンドンで、タワマンの最上階暮らしが始った。昔だったら、想像もできない豪華な生活。私って、こういう才能はあるし、運が味方してくれているのね。


 しかも、彼はやり手で、国の境目が弱くなったことから、各国の金を中東やアメリカに販売し、ボロ儲けを続けたわ。若干、悪どい取引で、命を狙われることもあったようだけど、無事に生きてる。


 今は、大きな本社を建て、膨大な社員を集めて仕事をするという時代じゃない。信頼があって、顧客にメリットのあるしっかりとしたコンセプトもあり、顧客の心を掴めばどんどんの依頼がくる。


 この中で、彼の事業はどんどん成長していった。彼とは、プライベートでは妻として付き合いながらも、秘書という仕事を通じて、つかず離れず、それなりに距離をとった関係だったので、マンネリ化することもなく、事業を拡大するという同じ目標に向かって、仲良くやれた。


 でも、そんな幸せの時間は続かなかった。

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