エピローグ

 あれから、5年の歳月が経った。


 高校を卒業して、そのまま私は皇帝と結婚した。


 皇帝は私達の世界に存在する某国の国王として存在していた。


 その国は膨大な富を持ち、そして世界でもそれなりの評価を得ていたから、日本のマスコミだけでなく世界のメディアでも単なる高校を卒業したばかりの私との結婚はロマンスとして大騒ぎになった。


 私の夢見ていた幸せの大学生活は、今や幸せの結婚生活になっていた。


 もちろん、それでも世界の地道な洗脳は続けていた。


 徐々に私の中に帰ってきたイリアンの力も使いながら、裕福な国の国王に選ばれた妃として、世界のあらゆるトップランクの人間に会える以上、それは簡単だった。


 その結果、この世界も異世界も主要な部分は私の洗脳下にある。


 そう、異世界もこの世界と貿易する事で、新しい時代に踏み出したのである。


 その仲を取り持ったのが、私、浅野日葵だと言う事になっている。


 それで、その絡みで国王に見初められてと言う話にしていた。


 そうでもないと、他国の国王と日本の一般庶民の娘が結婚なんておかしいし。


 何故か私の近くに長くいたせいで、私の洗脳を受け付けず、何かがおかしいと私の行為を反対している身内の連中を除くと、ほぼ全世界を掌握したと言っていいと思う。


 何かがおかしいと騒ぐ連中は、パーティーメンバーだった時の記憶から来る私への先入観が邪魔しているのと、志人兄がどうも私の彼らへの洗脳を邪魔しているような気もする。


 まあ、女神のイリアンが帰ってきて最初に実は……と私が知らなかった事を話したのだが、志人兄は私達の謀に気が付いてしまったので、仕方なく一部の記憶をリセットする呪いをかける為に一度は殺したのだそうだ。


 そして、そのリセットして消したはずの記憶の何かが私達を邪魔しているのでは無いかと言う事だった。


 まあ、志人兄が生き返るのはちゃんと知っていてやったそうだし、結果が好きな人との結婚で、終わりも良かったので私はイリアンを許した。


 それにしても、その後もチクチクと悪しざまにクルトルバのクオ達は私を貶していたが、悪名とは素晴らしいものだ。


 誰もクメンの魔女を恐れて皇帝の側室になろうとしないのは良い事だ。


 そうして、その日、私は父母と志人兄達にある報告があって、結婚後はずっと電話だけだったが皆に会う為に帰る事になった。


 もちろん、お忍びである。


 皇帝である国王は後日、専用機で来日する予定で、その時も一緒に私も来日するのだが、私は先に最後の問題を排除しに戻った。


 そう、颯真である。


 大翔兄が馬鹿だから、私のやったであろう事の想像を全部、皆に話したらしい……まあ事実だけどさ。


 それで、颯真の雰囲気が変になったとか。


 悪は許せぬと。


 もともと、そういうキャラだったしな。


 それで、あの志人兄が住職になっている思い出の寺で皆と会う事になった。


 私の中にいるイリアンも凄く颯真を警戒していた。


 ヒガバリの中のヒガバリで代々の皇帝すら直接に戦えば負ける怪物なんだそうな。


 いや、良くもまあ、そんな怪物にクオですら転生して復活できなくすると言うヒガバリの至宝である<忘却の剣>を渡したな。


 イリアンは仕方なかったと言うけど駄目だろうに。


 だが、あれだ……私も全部やった事は仕方なかったで済ます性格なので、その結論はしょうがない。


 そうして、懐かしい大聖寺の女神の御堂の中に私がテレポートした。


 ヒガバリの護衛は無しだ。


 颯真だけはケリをつけておかないと駄目だからだ。


 あれから五年経っているが、懐かしい面々がそこにいた。


 志人兄、大翔兄、魔法使いの爺さん、優斗と一真と、そして剣を構えてこちらを見ている颯真だけだ。


 すでに<忘却の剣>を出していると思わなかった。


 これはヤバいわ。


 一応、志人兄と大翔兄は颯真を遮っているものの、颯真が本気になれば平気で突破して来るだろう。


 魔法使いの爺さんと優斗と一真は止めもせずに、こちらを睨んでいた。


 やっぱりこうなったか。


 こいつら遠慮が無いからなぁ。


 予想はついていた。


「久しぶり会うのに、随分と物騒な面構えだな」


「記憶が戻ったからな。ヒガバリは皇帝の剣なだけではない。クルトルバと世界の調和を守るのが本当の使命だ。だからこそ、お前の話が聞きたい。お前の歪んだ恋の為に世界が破壊されたのでは無いか? 最初は俺も否定していたが、お前は世界のあらゆるものに洗脳を今も続けているのだろう? 」


 颯真が私を睨む。


 そして、ちらと大翔兄を見たら、困った顔で両手を前に合わせて、こちらに頭を下げていた。


 何で喋るかなぁ。


 まあ、洗脳を続けている事から類推すれば、全部やらせの結論は出るよな。


 それで、私がため息をついた。


「しょうがない。説明をしょう……」


 などと手に持っていたボードを見せる。


 そこには世界の紛争がどれだけ減ったかがグラフになっていた。


 そして、世界の食料生産と世界の経済の動きも載っているのだ。


「見たまえ。私が洗脳したおかげで世界の紛争は収まって、劇的に戦争は減り、食料生産は復活し経済も上がっている」


 そう私がボードを掲げて説明する。


「つまり、だから正しいと……」


「全部がやらせなのを認めてるじゃん」


 優斗と一真が呆れたように呟いた。


 いやいや、正しいだろ? 


 現実はこうしないと良くならないんだからっ!


 だが、颯真の目が鋭くなった。


 私が皆を騙したとはっきり自覚したらしい。


「まあ、でも、戦争が無くなって、貧富の差も減り、世界が良くなったのは確かだしなぁ」


 志人兄がそう呟いた。


「確かに、最初にわしが会った時に女神は世界の戦争を終わらせて、貧しい人を救いたいと言っていたからな。まあ、その手段が問題じゃが」


 そう魔法使いの爺さんが余計な事を言った。


 手段が問題だと? 


 こんな方法しか実際にはできねぇのに!


 現実を見ろやぁ!


 独裁者なんか洗脳しか止めれないよ!


 世界なんてそんなもんだ!


 などと思うが、颯真の顔を見て、状況がヤバいのを再度自覚した。


 顔が相手を殺す時の表情になっている。

 

「辞めなさい! 」


 その時に呼ばれて無かったはずの倉吉先輩が来た。


 お堂に入って、颯真に叫ぶ。


 そして、私の前に私を庇うように仁王立ちで立った。


 私の愛する旦那様のように。

 

 それで颯真が流石に無視できないらしい。


 何しろ、二人が付き合っているのは知っていたから。


 五年経っていろいろあって婚約まで行ったらしい。


 全然、そんな浮いた話の無い優斗と一真とはえらい違いだ。


「おい、何か言いたそうだな! 」


「ふざけんなよ! 」


 優斗と一真が私の視線を見て毒づいた。


 だが、とりあえず、颯真が斬りかかってて来るのが止まった。


 流石に倉吉先輩の命がけの言う事は聞くのだな。


「……ああ、それ、保険か? 」


 そうしたら最悪のタイミングで大翔兄が気が付いてしまった。


「そうか……倉吉さんにはあまり洗脳避けはしてなかったな……」


 志人兄までそう言っちゃった。


 あーあーあーあー、愛する人を洗脳されたと知った颯真が怒髪天を突く。


 私の心臓がバクバク言ってる。


「やはり、お前は悪だ。クルトルバの者として、世界を破壊するものに世界を預けれない」


「いや、世界は良くなっているぞ? 」


 私が必死で言い返す。


「だが、クオの怪物と怪物が子供を産むと、恐ろしい者が産まれると言う話は止めねばならない」


 颯真に話が通じない。


「いや……その……もう……お腹にいるのだが……」


 私がぽつりと呟いた。


 それで志人兄と大翔兄が驚いた。


 それと同時に颯真へのブロックが弱くなる。


「生かしてはおけぬ」


 倉吉先輩を一瞬にして颯真が弾き飛ばして斬りこんできた。


 私が目をつぶった。


 ヒガバリを連れてこなかった事、その為に皇帝にも伝えていない事。


 赤ちゃんが私に出来た事も実はまだ誰にも話していなかった。


 だから、これはしょうがない。


 その為に問題の処理に来たのだ。


 あの優しい人が悲しむだろうが、これは私のやってしまった事だから、私が終わらせないとと思ったのが悪かったか。


 全部を諦めて目をつぶった。


 その瞬間、颯真が弾き飛ばされる。


 私のお腹から凄まじい光が出ていた。


「え? 」


「怪物が産まれてしまったか! 」


 弾き飛ばされながらも颯真が呻いて再度剣を構えた。


『予はクオにだけ伝わる言い伝えの世界を新たに導く聖天子なり! 我が剣よ! 我を傷つけるなかれ! ヒガバリにもその伝承はあるはず! 』


 赤ちゃんの強烈なテレパスが響く。


 颯真の顔がそれで唖然としていた。


「ば、馬鹿なっ! いずれ世界を変える神子が、なぜ、そんな場所でっ! 」


 などと颯真が今までで一番むかつくことを話す。


 そんな場所ってなんだ?


 私のお腹がそんな場所なのかっ?


『予が産まれるためには善だけでは駄目なのだ! 悪もまた必要なのだ! それで長い間に産まれてくることが出来なかった! 善の血と悪の血が混ざる事で始めて予が産まれる事が出来るのだ! 』


 そう、赤ちゃんが叫んだ。


 どうやら、男の子らしい。


「真の聖王様であらせられるか? 」


『無論である』

 

 その言葉で颯真が剣を置いて私のお腹の前に跪いた。


 確かに聖王の誕生はクオの伝承でも語られている。


 でも、私はちょっと……えええ?


「どうした? 」


 私の顔が歪むのが気になったのか、魔法使いの爺さんが聞いてきた。


「自分の事を予とか言う子供はちょっと……」


 小市民として育った私には辛い。

 

 いやいや、トンビからタカが産まれてくるなよ。

 

「普通で良いのに……」


 などと言ったら、あからさまに私のお腹の赤ちゃんがしょげた。


 それが全員にテレパスで伝わる。


「貴様っ! 聖王様になんてことを! 」


 などと颯真が叫ぶ。

 

 だが、お腹の子供が聖王である以上、剣で私を斬る訳にもいかず、颯真がぐちぐちと怒っていた。


「ええ? うちのクメンって悪なの? 」


 大翔兄は衝撃を受けていて動かない。


「いや、悪を知ってって……キ〇イダーじゃないんだから」


 などと古い古い特撮オタクの志人兄が呻いていた。


 それで、流石に私に赤ちゃんがいるって言うので、魔法使いの爺さんや優斗や一真が颯真をなだめてくれた。


 後で倉吉先輩にかけた洗脳は解かさせられて怒られたが、そうして私の人生最大の危機は終わった。


 後で皇帝と正式に神子の誕生を祝ったが、もうちゃんとした子供になるまで皇帝である旦那様と私の赤ちゃんの聖王は話すことをしなかった。


 私の発言が余程のショックだったらしい。


 こうして、我が子は産まれて世界は<聖王の時代>に入った。


 おかげでのちの世まで、歴史に悪として必要だった母とされるのがさらに嫌だった。

 

 私は世界を平和にしたのに、結局、悪になるのかよ!


 追伸 ゾンビの警部補達もポチも元気です。



                          終わり

 ***********************************************************************************


 これで終わりです。


 最初から最後まで読んで、ずっと応援していただいた@ezynox様に感謝を


 そして、稚拙な作品をずっと最後まで読んでいただいた方にも、心から感謝を


 おかげさまで完結することが出来ました。


 皆さまのおかげでございます。


 本当に本当にありがとうございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダブりの自称勇者はホンモノだった……聖女に選ばれた私は悪役令嬢みたいに言われてたけど最後は知らないうちに愛が勝ちました。(改題) 平 一悟 @taira15

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ