黒魔女ラストワン_4〈完〉

「おや、あれは……?」

 結局海岸までやってきた黒魔女は浜辺で子供たちが何かを取り囲んで騒いでいるのを見つけた。

 もしやと思い、近づいて行くと子供たちが取り囲んでいたのは大きな亀であった。

 黒魔女は慎重に子供たちに近づいていき、出来るだけ穏やかに話しかける。

「こらこら、あなたたち亀をいじめてはいけませんよ」

「なんだよババア。いじめてなんかねえよ」

 黒魔女の実年齢は数百歳を超える。しかし今は魔法の薬で若返り幼女の姿をしているのだが、子供たちはその幼さゆえの一切先入観のない直感で黒魔女が実はババアであることを把握していた。

「そうだよ、俺らこの亀を使って面白動画作ってバズろうって考えてたところなんだから邪魔すんなよ」

「おやめなさいおやめなさい、生き物を何だと思っているのですか、下手なことをすると炎上しますよ」

 黒魔女はあくまで穏便に応対する。強引に亀を奪い去ろうかとも考えたがこの中の誰か、もしくは全員が実は転生者で以下略。

「その亀は私が保護しますので、渡してください」

「なんだよババア! 横取りする気か!?」

「そうだぞババア! 俺たちが見つけたんだから、もう俺たちのもんだ! 俺たちの所有物だ!」

「舐めんなよババア! 子供だからって侮ってんじゃねえぞ!?」

「3万払うんで」

「ありがとうお姉さん!」

「きっとこの亀もお姉さんと一緒の方が幸せだね!」

「この亀の事よろしくお願いしますお姉さん!」

 子供たちは黒魔女の差し出した3万を受け取り仲良く一人1万円ずつに分けると

スキップしながら帰って行った。

「ふう、思ったより安く済みましたね。ペットショップで買うより安いんじゃないですかこれ」

 そう言って黒魔女は亀を抱き上げる。

「このサイズなら問題ないでしょう。やっと一段落ですね。とはいえ油断は禁物、

気をつけて帰らないと」

黒魔女は来た時よりいっそう注意を払いながら帰路につく。


 一方その頃。黒魔女亭では。

「普通に水に混ぜればいいんじゃないですミかね?」

「これで良いのかなー?」

うさみとヘル子はケンから貰った超強力推進剤を使ってのペットボトルロケット制作を続けていた。

「よーし、じゃあこれでやってみよう」

ヘル子がそう言ってペットボトルロケットをセットし発射準備をすると、ペットボトル内の超強力推進剤を混ぜた水が光を放ち出す。

「あっなんか光ってるよ!」

「行けそうですミ! 離れますミ!」

 ヘル子とうさみはキャッキャとはしゃぎながらペットボトルロケットから距離を取り、様子を見守る。


 丁度、時を同じくして黒魔女が亀を小脇に抱え黒魔女亭に帰って来た。

「はぁー。やっと家に付きました。ホント神経すり減りましたよ」

門を通り、住み慣れた我が家を前にホッと一息つく、この瞬間、黒魔女は確かに油断した。

「ん?」

 直後、黒魔女は庭にうさみとヘル子の姿を捉える。そして地面に設置してあるそれに気付く。が、気付いた時にはもう遅かった。

 先行を放ち発射されたペットボトルロケットが黒魔女の胸部を貫く。

 さらにそのまま黒魔女亭の外壁をぶち抜くと奥にある森の木々を次々と貫通して進み、数百メートル程進んだところにあった大木を中央まで抉ったところでペシャンコにひしゃげて止まった。

 黒魔女の胸にはペットボトルの直径と同じおおきさの穴が開き、一直線に森の向こうまで見渡せた。

「まさ…か…こんなところで…とは…ね…ゴファッ」

 黒魔女は脇に亀を抱えたまま地面に崩れ落ちる。

「お館様ミ!?」

「うわー!? ごめんなさいおばさん!! 大丈夫!?」

 気付いたうさみとヘル子が慌てて駆け寄る。

 しかし。

 ティウンティウンティウンウンウン…

 黒魔女は死んだ。


黒魔女 残機×00


 ペットボトルロケットを作り出したヘル子の行動力。

 それを支え、友のために場所や道具を提供したうさみの友情。

 魔法で作られた超危険な材料を深く考えず子供たちに提供するケンの寛大さ。

 3人(?)の力が合わさり、それはついに黒魔女を穿ったのだ。

「どうしよーうさみちゃん? おばさん死んじゃった?」

ヘル子はオロオロしながらうさみと黒魔女が消えていった空間を交互に見る。

「大丈夫ですミよ。ヘル子ちゃん、お館様は無限の命を持っているのですミ。

この程度の事、腹パン一発貰ったようなもんですミ。気にすることは無いのですミ」

 ヘル子は人ん家のおばさんに腹パンかますのは結構な罪では? と、思っているとすぐに上から黒い塊が振ってきた。それはすぐに黒魔女の形を成す。

「こ……これは……!? 私はまだ生きている……?」

 黒魔女はしばらく驚いた表情で自分の両手を眺め、ハッと顔を上げる。

「あっ、そうか!」

 黒魔女は仕様を勘違いしていたのだ。ゲームオーバー、すなわち真の死を迎えるのは、残機1の時ではなく残機0の時に死んだ場合だったのである。


「とにかく、助かったっ!!」

 黒魔女は地面をのそのそと歩いている亀をすぐさま拾い上げる。

「ペットボトルロケットは危ないから庭、いやこの家の半径1キロ以内ではやらない様に! もっと広いところで遊びなさい!」

 黒魔女はそう叫びながら館の中へ駆けてゆく。

「怒られちゃった~」

「じゃあ公園で別の遊びしますミ」

 うさみとヘル子はそう言いながら家を出て公園に向かう。


 その後黒魔女は無事、夢幻衣血亜津譜を成功させ、これまでよりたくさん残機を増やしておいた。



黒魔女ラストワン 編〈完〉



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黒魔女亭の怪物(クリーチャー) 夜むら @HHyamula

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