黒魔女ラストワン_3

なんやかんやで黒魔女はなんとか無事にペットショップにたどり着いた。

「とんでもなく長い道のりに感じましたねえ……」

 店に入り店内を探す。イグアナや蛇といった爬虫類や金魚や鯉が入った檻や水槽が並んでいるが、ぱっと見だと亀は見つからない。

 黒魔女はカウンターまで行き店員のおっさんに話しかける。

「すいません。亀が欲しいんですが」

「いらっしゃい。亀かい。亀って言っても色々あるぜ。どんな亀が欲しいんだい?」

「色は赤でも緑でもいいんですが出来るだけ踏みやすいサイズの奴を」

「おいおい、踏むってなんだい? あんた亀買ってどうする気だい?」

「ああいえ、魔法の為の道具に使うんです」

 黒魔女のその一言を聞いて店主の顔色が変わる。

「バカ言っちゃあいけねえ。うちはペットショップだぜ、ペットてのはいわば家族も同然だ。家族を踏みつけるだの道具にするような奴に、うちの亀は売れねえなあ!

帰った帰った!!」

黒魔女はここまで言われてやっと己の失言に気付く。

「ええと、いや、そこを何とか。お金なら言い値で払いますんで」

「金だあ!? そんなもんはいらねえなあ! 俺は金が欲しくてペットショップをやってるんじゃねえ! ペットを通じ、時に生活に新たな潤いを与え、時に孤独な人を癒す!そうやって人々の心を豊かにし、それによってまた引き取られたペットも幸福を得る! その手伝いをしているのさあ!!」

 黒魔女はじゃあ全部無料で配れよとも思ったがこれ以上は埒が開かないと考える。

 ならばもうこの店主を殺して力ずくで奪おうかとも思ったが、実はこの店主が転生者か何かで何かしらのチート能力を持っており、それによって返り討ちに遭ってしまう可能性もゼロではないと考え、思い留まった。

 そうでなくてもさすがにここで荒事を起こしたら自警団やら王国の自治部隊やらがやってきて交戦する可能性が高い。黒魔女の力であれば通常なら特に苦も無く撃退できるはずだが、今は残機がたったの1である。一瞬の油断が命取りになるえると、今は極力慎重に行くべきだろうと、しぶしぶペットショップを後にした。

「となると、野生の亀でもつかまえるしかありませんかねえ……しかし水辺だと溺死の可能性を伴いますが」

 そう言いつつも、現状ほかに亀を手に入れる手立てが思い浮かばず海沿いの海岸へ向かって行った。


 ところ変わって黒魔女亭の庭では、うさみとヘル子は2人でペットボトルロケットを作っていた。

「う~ん、なんか上手く飛ばないなあ。何がダメなんだろ」

ヘル子は庭に落ちたロケットを拾いながら言う。

「水と空気の分量ですミかねえ? あ、あと飛ばす角度なんかも重要かもしれないのですミ」

 うさみは庭の石の上に座りヘル子の持ってきた「無職でも作れる初めてのペットボトルロケット」と書かれた本を読んでいる。

 先程から二人で何回か実験しているがロケットは少し跳ねるくらいしか飛ばせずにいた。

「何か隠し味というか、他の材料を使ってみるのはどうですミかねえ」

「他の材料?」

 うさみの問いかけにヘル子が振り向くと、丁度うさみの後ろからおおきな袋を抱えたケンがやってきた。

「あ、ケンちゃんだー」

 ヘル子は持っていたペットボトルロケットを地面に置き、小走りでケンに駆け寄るとその頭を撫でる。

 ちなみにヘル子はケンの事をこの家で飼われているペットだと思っている。

「うん? なんだ、ペットボトルロケットをつくっているのか。窓を割らない様に気を付けるんだぞ」

 ケンは撫でられながら庭を一瞥し、何を作っているか察するとうさみに声をかける。

「窓を割れる程飛ばないのですミ。さっきから何度か試しているんですミが、ケンさん何か飛ばすコツとか知らないですミ?」

「さあなあ、ペットボトルロケットなんて作った事が無いし、あ、そうだこのお館様が魔法で作った超強力推進剤を混ぜてみたらどうだ」

 そう言って抱えていた大袋を漁るとそこから小さめの紙袋を取り出す。

「超強力推進剤ですミ?」

「ああ、丁度今日、お館様に作りすぎて余った魔法の道具や材料を処分するように言われていたのだ。どうせ捨てるんだし、使っても問題ないだろう」

 そう言ってケンはそれをうさみに差し出す。

「へえ、試す価値はありそうですミね、ありがとですミ」

「でも、ロケットの作り方に魔法の材料を使う方法なんて書いてないよ」

ヘル子が言うとうさみは指を振りながら「ちっちっち、こういうのはトライアンドエラーですミ。何度も実験して上手く使える方法を探せばいいのですミよ」

と、得意気に応え、ヘル子も「うん、そうだね!」と納得し、2人は再びペットボトルロケットの制作に取り掛かった。


〈続く〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る