黒魔女ラストワン_2

 黒魔女は館を出ていつになく慎重に街を歩く。箒で空を飛んでいくこともできるが

何らかの不調で墜落したり空中で事故にでもあったらと考え徒歩で向かう事にした。

 この街は治安も良く、道路の安全にも配慮が行き届いているので、普段は特に身の危険を感じるような事は起こらない。

 だが、この日は違った。

「あぶなーい!!」

 突然大きな声が聞こえ黒魔女は素早く周囲を見渡す。

 視線を下に向けた時、足元のマンホールの蓋が開いていた事に気付くが

止まりきれず穴に落ちる。が、咄嗟に両腕を広げて穴の淵にしがみついた。

「あ、危ない……。一体誰がこんな……」

「スンマセーン」

 黒魔女が穴から這い上がるとマンホールの点検をしていた業者っぽい男が

走り寄って来た。

「いやー、点検のあと蓋閉め忘れちゃって。ご無事で何より」

「危ないでしょうが!!」

「スンマセーン」

 業者はヘラヘラとあまりにも軽い調子で謝罪する。

 黒魔女はこいつぶっ殺してやろうかとも思ったが、もしかしたらこの男は見た目からはそんな気配は無いが実は転生者か何かで何かしらのチート能力を持っており、それによって返り討ちに遭ってしまう可能性もゼロではないと考え、思い留まった。

 とにかく今は命を増やす事が最優先だと「気を付けてくださいよ」とだけ言って、その場を後にした。

「周囲ばかり見て足元の確認がおろそかになっていたのかもしれませんねえ……」

 黒魔女はやや俯き気味に足元にも注意を払いながら道を進む。

「あぶなーい!!」

 またも大きな声が聞こえ黒魔女は素早く周囲を見渡す。

 上を見ると巨大な鉄骨が黒魔女目掛けて落ちてきていた。

「ちょおおおおおおおお!?」

黒魔女は咄嗟に前に飛び退きをギリギリで避ける。

「あ、危ない……。一体誰がこんな……」

「スンマセーン」

 黒魔女が鉄骨が落ちてきた方を見上げると工事現場の業者が

工事中の建物の柱の間からひょっこりと顔を出す。

「危ないでしょうが!!」

「スンマセーン」

 業者はヘラヘラとあまりにも軽い調子で謝罪する。

 黒魔女はこいつぶっ殺してやろうかとも思ったが、もしかしたらこの男は見た目からはそんな気配は無いが実は転生者か何かで何かしらのチート能力を持っており、それによって返り討ちに遭ってしまう可能性もゼロではないと考え思い留まった。

 とにかく今は命を増やす事が最優先だと「気を付けてくださいよ」とだけ言って、その場を後にした。

「上の方にも注意を向けないといけませんねえ……」

 黒魔女は今度は上下に注意を払いながら道を進む。

「あぶなーい!!」

 またまた大声が聞こえ黒魔女は素早く周囲を見渡す。

 後ろを振り向くと猛スピードで暴走した馬車が突っ込んできた。

 黒魔女は素早く横に跳躍しそのまま転がってなんとか暴走馬車を避ける。

「スンマセーン」

 黒魔女が起き上がりながら馬車の方を見ると御者が頭を下げるようにして振り返っている。

「危ないでしょうが!!」

「スンマセーン」

 業者はヘラヘラとあまりにも軽い調子で謝罪しながら走り去る。

 黒魔女はこいつぶっ殺してやろうかとも思ったが、もう見えなくなっていたので、そのまま見逃す事にした。

 黒魔女は今度は縦横無尽に回転し全方向にに注意を払いながら道を進む。

「ぐはっ!?」

 目を回してよろけ、建物の壁にぶつかった。

「いたた……危ない……これでは今度は自滅してしまう……」

 黒魔女はぶつけた顔面を手でさすりながらゆっくりとあたりを見回す。

 世界はこんなにも危険で溢れているのに街行く人々はまるでそれを意に介さない様にみんながみんな、呑気な顔で歩いている。

 なぜ、自分より遥かに脆弱で碌に危険から身を守る術すらもたない人間が、

たった命が一つしかないのに、こんなにも平然と、呑気に暮らしていけるのだ。

黒魔女はそのメンタルを恐ろしく感じた。

「人間こそが本当の…怪物クリーチャーなのかもしれませんねえ…」


〈続く〉

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