第3話 特別科学警察研究所

「ここは特別科学警察研究所。通称—特科ととっかだ」

ミコト—そう名乗った警官に連れられ、賢一は警察署内を案内されていた。


「ここでは主に、現代科学では説明がつかない人智を超えた現象における事故や事件を防ぐことをしている」

「はぁ、人智を超えた…」


…察してはいたが、もうすでに自分は今までの”常識”が通じない世界にきているらしい。

一気に色んなことを質問したくなる衝動をぐっと抑える賢一に見向きもせず、ミコトは口を動かし続けた。


「君もよく聞くだろう、霊とか呪いとか。

実はね…人間が一般的にそう呼んでいるものはほとんど人間の脳から生まれているんだ」

「幽霊の正体見たり枯れ尾花、みたいなことですか」

「難しい言葉知ってるね〜。それもあながち間違いではないけれど、私が言っているのはそういう比喩的な表現ではなくてね。

人が頭で何か考えるとき、微量の電気エネルギーが脳で発生する。それによってたまにちょーっとおかしなことが起こったりするんだ。

それが俗にいう“心霊現象”ってやつさ。考えれば考えるほどその電力は強くなり、影響も大きい」

「…じゃあ今時間がループしてるのも…」

「うん。誰か原因となる人物がいる。…とはいえ、本来“時間”を操るなんて滅多にできることじゃない。よほど強い願望なのか、それとも……」

「……?」


ミコトは少し考える様子を見せ、再び賢一の方を向いた。


「—いや、なんでもない。こっちの話だ。とにかく、話を再開するよ」


細かいことはともかく、大体のことは把握できたと賢一は思った。

授業で聞いたことがある。たしか人間の消費するエネルギーは20ワット…蛍光灯を薄暗く灯せる程度、だったか。


「…さて、話が長くなったけど、君も上手い具合に飲み込めているみたいだしそろそろ“みんな”を紹介しようかな」

「みんな?」

「私の仲間さ。——みんな、帰ったよ!」


ミコトはいつのまにか目の前にあったドアを思い切り開いた。

中にはごちゃごちゃした部屋に数人の老若男女がおり、全員がこちらを向いている。

賢一は口を引き攣らせた。その光景があまりに奇異なものだったからだ。


血だらけになっているガラの悪い中年男に、同じく血だらけの白衣を着た小学生くらいの女の子、画面が割れているテレビに張り付きなにやらぶつぶつ呟いている老婆に、目をこちらに向けながらも目で追えないほどの速さでコンピューターにタイピングをするアフロの若い男…


情報量の多いその景色に、賢一は無言でつい目を逸らした。この数秒で眼精疲労が酷くなった気がしたからだ。

ミコトはそんな賢一を見て慌てる。


「ちょちょちょ、ケンイチくん。なんだその反応は!挨拶くらいしなさい!」

「……こんにちは」

「声ちっさ。体にあった声出せや声ェ!」


「—それくらいにしてやりな、ミコト。誰だってこんな状況みたら動揺するだろ」


救世主のように思えた声の正体は、血だらけの少女だった。

あまりに噛み合わない組み合わせに、賢一はついついその風貌を凝視してしまう。

少女はミコト同様にとても端正な顔立ちをしており、よく手入れされた長い髪の毛は両サイドで2つに纏められている。

つまり——言うまでもない美少女。

だからこそ、血に塗れた白衣とのアンマッチさが余計に賢一の目にはおかしく写った。


少女は賢一に手を差し出して笑う。


「驚かせて悪かったな、賢一くん。私はりん、特科の一員だ。この格好はどうか気にしないでくれ…これからよろしく」


見た目に反し、ずいぶんと大人びた立ち振る舞いだ。

賢一は少し安心しその握手に応じた。


「よろしくお願いします……ん?これからよろしくって、どういう…」

「?ミコトから聞いていないのか?これから君はここで一生働くことになるんだが」

「…は?!」


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だから、死ぬ @satoru_1127

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