第2話 日常
その日は、何ら変哲のないただの日曜日だった。
10時46分という朝なのか昼間なのか曖昧な時間に目を覚まし、ほんの少しの気怠さと頭痛を感じながら起床する。
ほぼ残っていないであろうチューブから歯磨き粉を無理矢理押し出しゴミ箱に捨て、スマホを床に落とし絶望する。
画面が割れたスマホを開き、密かに推していたアイドルが引退するというニュースを見て再度絶望する。
短時間で受けたショックの大きさにショックを受けながらテレビをつけ、面白くもない子供向けアニメを見て時間を浪費する。
そうしているうちに時間はあっという間に過ぎた。
時刻は23時58分。
うとうとしていた男はソファから起き上がり、テレビを消した。
…せめて外に出ればよかったな。
そんなことを思いつつベットに入ると、すぐに眠気が襲ってきた。
1日何もしてなくても人間、案外寝れるもんだ。
だんだんと意識が薄れはじめ、男は目を閉じた。
——翌朝。
10時46分という朝なのか昼間なのか曖昧な時間に目を覚まし、ほんの少しの気怠さと頭痛を感じながら起床する。
ほぼ残っていないであろうチューブから歯磨き粉を無理矢理押し出しゴミ箱に捨て——
「…………あ?」
男は手にしていたスマホを見る。
2023年4月23日10時52分、日曜日。
ヒビひとつない綺麗な画面に、人気アイドルが引退するという速報が通知される。
男の額に汗が滲み出る。
時間は、ループしていた。
——————————————————
「…なるほど。つまり君はこう言うんだね、『時間はループしている』と」
「はい…」
警官の問いかけに、男は力なく同意する。
(俺が言ったこと繰り返しただけだけど…)
うんうんと自慢げに頷く警官を見て、男…佐々木賢一は俯いた。
彼は病院で看護師に暴力、医師に公務執行妨害を与えたという理由で警察署に連れて来られていた。
「信じてもらえませんよね、こんな話。
…すみません、やっぱり俺がおかしいみたいで」
「信じる」
「え」
耳を疑う返答に賢一は目を丸くした。
警官はそれを見て、形の整った唇をつりあげる。
「信じるよ。君の行った暴力は見逃せないがね。実は……うん、我々も今君と同じ問題に頭を悩ませているんだ」
「同じ問題…?それって」
「君もさっき言っていただろう?
“時間がループしている”と」
「っやっぱり、これは俺の勘違いじゃないんですね!」
警官はまとめていた髪の毛を解き、立ち上がって賢一の手錠を外した。
「勘違いじゃないさ。君は正常だよ。
困ったよねえ、もう3回も時間が巻き戻っているのにも関わらず、人外しかそのことに気付いていない。人間にどれだけそれを説明したとしても精神異常だと鼻で笑われて終わりだ。あーやだやだ、ほんとに脳のない人間どもは全く。
…しかし、それに相応する収穫もあった」
「人外…?収穫…??」
男は訝しげに警官を見た。
この不可思議な現象が自分の勘違いでないことには安心したが、あまりに彼女の言動に追いつけない部分が多かった。
警官はつけていたサングラスを外し、少しドキッとするような笑顔を賢一に向けた。
「詳しいことはあとで説明するよ。とにかく、えーと、サトウくん」
「佐々木です」
「ササキくん。これから君は我々と一緒に動くことになる。選択肢はないよ。申し訳ないけど、“こちら側”の生き物になった以上君にもう人権はない」
「ど、ういう……」
警官の持つ吸い込まれそうな笑顔から目が離せないまま、賢一は彼女に手を引かれた。
「わたしと君は仲間ってことだ。これからよろしく、サトウくん」
パチン。
警官が指を鳴らした瞬間、彼女の真っ暗な髪の毛はみるみるうちに綺麗な白髪に、目は赤色に変化した。
警官と賢一以外誰もいないと思っていた部屋にはいつのまにかさっきの医者が立っていて、こちらを睨みつけている。
「ふふ、びっくりした?」
呆然とし棒立ちしている賢一に警官は顔を近づける。手は離してくれない。
「…俺は反対だ」
仏頂面をしていた医者が放った言葉に、警官は口を尖らせる。
「碧ー、その性格なんとかしないとマジで彼女できないよ?」
「いらねえよそんなもの!」
「もー照れちゃって全く」
ごめんねあの子反抗期で…オホホと笑う警官に、賢一はぐったりして呟いた。
「俺、佐々木です………」
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