第25話 前に進みたい

「トーヤの手を握っていると、魔力の操作ができなくなるみたいなんだ。・・・これは、一体・・・」




先生が僕を見ながら言います。




「・・・レーネ、君も試してくれるかい?」


「そうですね、こんな事は初めてです・・・もしかしたら私なら出来るかもしれないですし、やってみましょう」


「だ、大丈夫なのかな?」


「トーヤ、魔法、使えない・・・?体、悪いの?」




レーネさんが入れ替わりに隣に立って、僕の手を握ります。




「す、すいません、どうなっているのか・・・わからないのですが・・・」


「トーヤ君、落ち着いて。大丈夫よ。私やアイン先生、それに皆さんもついていますから」


「は、はい・・・わかりました、ひとまず落ち着きます・・・」




焦りに早鐘を打ち出した心臓を落ち着かせる為、深呼吸をします。


先ずは目を閉じて・・・息を吸って・・・吐きます。


何度か繰り返していると、段々と心の波が収まってきました。




「良いわ、素直なのね、あなたは。その調子よ」


「はい・・・すいません、慌ててしまって」


「大丈夫、焦ってしまったときは皆そうなるもの。仕方がないわ」


「・・・ありがとうございます」




フィノ、ミル、アルさんが僕を心配そうに見ます。


(僕が焦ってちゃいけない。・・・例え魔法が使えなくったって、僕は冒険者になる、そう決めたんだから)


大丈夫、何も変わらないんだ、と自分に言い聞かせて、心を静める事に成功した僕は、言います。




「レーネ先生、お願いします」


「えぇ、わかったわ、目を閉じて。手先の感覚に集中してみて」


「はい・・・」




レーネ先生の手が僕の手を包みます。


程無くしてアイン先生の時と同様に、手がじんわりと暖かくなり、ふわふわとした様な感覚が体に中におこります。




「・・・どう?魔力の流れ自体は感じられるかしら・・・?」


「はい・・・。暖かくて、なんだか体が軽くなったような・・・そんな感じがします」


「魔力自体は感じられているのね。なら・・・今度は私も質を変えてみるわ」


「はい、お願いします」


「先ずは炎へ」


「・・・わかりました。・・・どうですか?」




レーネ先生とつないだ手から、何かしらの流れは感じますが、先程となんら変わらない感覚を返してきます。


手の温かさやふわふわとした感覚はあっても先程と同じです。




「・・・駄目ね、私も変えられないわ。こんな事普通はあり得ないのだけど・・・。魔力はね、命と深く結びついていて、血液と同じような物と伝えられているの」


「血液・・・ですか?」


「えぇ、そう。万物に宿る魔力は常に体や物体を循環する様に巡っているの。その流れを感覚的に質を変える事で魔法を起こすのだけど・・・魔力操作自体はとても簡単なの。操作の精度は人それぞれなのだけど、誰でも出来る事なのよ。でも・・・」


「でも、何ですか・・・?」


「流れている魔力に対して、その流れに逆らう様な事は出来ないの。万物のルールみたいな物ね。でも、トーヤ君に触れると魔力操作が出来なくなる。魔力の法則が通じない上に、こちらが干渉を受けている。こんな事、本来は不可能なはずなのよ」


「・・・そんな・・・どういう事なんですか・・・?」


「・・・私にはわからないわ。ごめんなさい。」


「・・・僕には魔法が使えないという事でしょうか?」




無言で首を振ったレーネ先生は申し訳なさそうに頭を下げました。


先生自体は悪くないのに、とても辛そうにしています。


その顔を見て・・・同じく俯いてしまいます。




「トーヤ」




アルさんが僕の前まで歩いてきます。


そして、僕の肩を、軽く小突きます。




「アルさん・・・」


「俯くな。俯いていても大切な人は守れない。これは確かな事だ」




アルさんの目が、お前はこんな所で立ち止まって居て良いのか、と言っている気がします。


(・・・そうだ)


フィノやミルを失う事、それを考えれば立ち止まってなど居られません。


魔法が使えなくたって、その分努力で埋めればいい。




「そうですね」


「そうだ」




俯いていた顔を上げて、僕は前を見ます。


フィノやミル、先生達へと視線を合わせ、最後にアルさんを見て。




「例え魔法が使えなくたって、僕は負けません」


「それでいい、その気持ちがあればお前は強くなれる」


「ありがとうございます、アルさん」


「俺は付き合うと決めているだけだ、気にするな」


「・・・はい」




視線を交わして微笑みあうと、アイン先生から声がかかりました。




「そうだね、大切な物を守るための方法が一つだけなんて事は無いさ。出来ない事があっても努力して、他に出来る事を増やしていけば、確実に強くなれる、これは冒険者の真理の一つだからね。ゆっくりいこう」


「はい!」


「トーヤ、かっこいいっ!!」


「惚れなおしちゃったよね、フィー?」


「うんっ!もっと、大好きに、なったっ!」


「二人もありがとうね」


「んーんっ。いいのっ。」


「フィーと同じよ、気にしないで。夫婦なんだし、ゆっくりやっていきましょ」




3人で顔を合わせて笑い合っていると、先生が。




「それに、魔法が使えないと決まったわけではないからね。ここは魔法のスペシャリストに話を聞いてみるのも良いんじゃないかな?」


「魔法のスペシャリスト・・・ですか?」


「えっ、アイン先生、まさか・・・」


「そのまさかだよ、レーネ」




思わせぶりな態度で先生は言います。




「アイン先生、魔法についてすらまだ良く知らない子達に話すのは・・・早くないですか?」


「時期尚早なのは否めないけれどね。でも、現状を把握できない状態で放置する方がリスクがあるかもしれないよ」


「それは・・・そうかもしれませんが・・・」


「何より、魔力は万物にとって、とても重要な物だ。心臓や血液と同じだからこそ・・・きっと、遅かれ早かれどうにかしないといけなくなる」


「・・・そうですね。わかりました」


「済まないね、生徒の安全や笑顔がやはり一番大事なんだ。私は」


「知っていますから、今更ですよ。フレンザ様にも話しておきますね」


「ありがとう、レーネ」




先生二人が心配してくれます・・・何のお話かはわかりませんが、終わったようです。




「えっと・・・アイン先生」


「うん、わかっているよ。トーヤ」


「・・・はい」


「トーヤ、これから精霊と対話をしてもらう事になる」























「えっと、精霊、ですか?」


「そうだね、精霊だ。魔法のスペシャリストでもあるし、僕ら魔法を使う人々の大切な友人でもある」


「えっと、精霊って・・・どういう存在なんですか?アイン先生。フィーとかからは結構名前を聞いたりはしてたんですが、私には見えないし・・・よくわからなくって」


「いずれ、授業でもやる予定だったからね。ここは少し座学の授業といこうか」




先生方二人は僕らに椅子に座る様促すと、レーネ先生が黒板に動物の様な生き物を描き始めます。


いずれも見たことの無い不思議な生き物です。




「精霊は大体こんな見た目をしているわね」


「ん。精霊、いろんな子が、いる」


「動物や人の様な子もいるのね」


「そうだね。彼ら、精霊はいつから存在しているのか、歴史をいくら読み解いても底が見えない程に昔から、存在を囁かれてきたんだ」




フィノから何度か、話をしたり遊んだりしていたと聞いていましたが、僕自身は見たことも聞いたことも無かったので想像の中にしかありませんでした。


その精霊が今、話に上がっています。


一体どんな存在なのでしょうか?




「彼らは決まった体を持たず、普段は人の認識から外れている為に見えない、と言われている。起源はわからないけれど、昔から一つだけ決まった事をするんだ」


「えぇ、そうなの。精霊は大事な事だとして、必ず決まった事をするのよ」


「それは何ですか?」




待たずして僕は聞きます。




「それはね。・・・人に興味を持ち、人と共に生きると言う事さ」


「そうなんですか?フィーが言うには優しい子も居るそうですけど、たまに喧嘩腰で話も聞いてくれない子も居るって言ってました」


「うん、そういった子もいるね。けれど、基本的に精霊は人に対して友好的なんだ。人と契約をして一緒に生活をする精霊も沢山いるよ」


「さっき、魔法を使う人々にとって大切な友人だと言ったのは、精霊と契約をすると普通の魔法とは違った、別系統の魔法を使えるようになるからなんだ」


「そう、なの?」


「そうだよ、精霊を介さない魔法を自然魔法、精霊と契約して使う魔法を精霊魔法と言うんだ」




ということは、さっき僕が使えるかどうか調べたのは自然魔法の方だったのでしょうか?


だとするなら、精霊魔法の方なら使える可能性があるかもしれません。




「どうすれば精霊魔法を使えるようになるんですか?」


「精霊と契約をする事が第一条件だね。精霊と契約できるかどうかは完全に個人差で、生涯契約ができない人もいる・・・けれど」


「けれど・・・なんでしょうか?」


「精霊魔法は自然魔法よりも、習得条件が困難だけれど、習得ができれば精霊魔法自体を育てていくことができるんだ。つまり、自然魔法とは違って、威力に上限が無いんだ」


「上位互換という事ですか?」


「魔法を行使する場所や精霊の状態によって左右されるのだけどね。けれど、最終的には精霊魔法の方が強いと言われている事が多いかな」


「もし、僕が精霊魔法を使う事ができれば」


「そうだね。きっと、冒険者稼業をする上でとても有効だ」




何故僕が魔法を使えないかもしれないのかはわかりませんが、まだ道が閉ざされたわけではなさそうです。




「まずは、精霊と対話をして、何故こういった状況なのかを聞くんですよね」


「そう。他人の魔力に影響を及ぼすなんて、普通の事ではないからね。まずは専門家に聞くとしよう」


「どうすればいいんですか?」


「私と契約してる子がいるから、その内の一人と対話をしてもらう。まずは、精霊を見えるようにしないとね」


「アイン先生、マジカイの魔法は本来、みだりに使っちゃいけないんですからね?精霊を見るという事は、それだけ大きな力と関わるという事なんですから」


「わかっているよ、レーネ。今回は事が事だし、それに黙って居れば大丈夫さ」


「全くもう・・・見習い教官という立場なのですから、もう少ししっかりして下さい。本当に危険なんですよ?」


「あははは、耳が痛いね」


「笑って言うんですから・・・仕方のない人ですね」




笑いながら言うアイン先生の奔放な一言に、レーネ先生は呆れています。




「さて、それじゃあ魔法をかけるよ」


「・・・はいっ、お願いしますっ」


「秘蹟を辿る風、彼の者らと共に隣人へ至る、混ざりし時を告げたまえ、マジカイ」




僕へと向けた先生の右の手のひらから光が出て、僕の頭を覆いました。


頭が晴れたようなすーっとした感覚がしました。




「トーヤ君の目が緑色になったっ。不思議だね、フィー」


「うんっ、トーヤ、目、綺麗。」


「ふふふ、印象が大分変るね。よし、これで精霊が見えるようになったよ。じゃあ、精霊を呼ぶよ」


「・・・はい、お願いします」




緊張してきました・・・。


人以外と話すのは初めてなので上手く話せるでしょうか・・・?




「おいで、フーラ」




中空に、湧きだすように光が集まって一つの形を作っていきます。


部屋全体に強い風が起こり、程無くして、手のひらに乗るくらいの大きさの男の子が現れました。




「ふわぁああっ、ようアイン、何か用か?」




あくびをして、目を擦りながら言います。


この子が・・・精霊?








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お金が無いッ!!人生迷子の少年、迷子のエルフと出会う 些名柄ぱんだ @racturis

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