第65話 コア

 あの日を境に、吹っ切れた気がする。


 言いたいことを言うのって、気持ちの強い人の特権っていうか。物怖じしない人とか、自分の意見を通したい人がすることだと思っていた節がある。

 でも、そうじゃないんだよね。お互いにとっていい道を選ぶには、自分の気持ちを思っていることを、なるべく正しく伝えるのが、一番いいと思える。

 わたしはそれはアンちゃんとダレン君から学んだ。ふたりは幼くても、いつもきちんと思っていることを述べた。それは自分の我を通そうとしてとかそういうことではなくて、必要なことだったんだなって思う。

 わたしはきっと自分の意見を通そうとしていると思われるのが怖くて、言葉にしてこなかったんじゃないかと思う。


 健ちゃんに言われてわかった。

 わたしは自分で装っているのを知っていた。

 だから〝いい子〟って言われるのが嫌だった。

 装うというのは、本当はそうではないことだからだ。


 わたしは家族が仲良しでいて欲しかった。別にベタベタ甘えているのがいいわけではなくて、喧嘩もたまにならいいけど、いつも汚い言葉や大きな声で怒鳴られたり、怖い言葉を使われるのは嫌だった。

 だから、わたしが潤滑油になれればいいと思った。

 でも、自分の気持ちも伝えられないようなのが、潤滑油になれるはずもなく。

 わたしはいつも家族の顔色を窺って、いじけて、挫けてた。

 そんなぺしゃんこな状態なことも、自分が見えてなかった。

 家族と離れ、全く違った生活を送り、わたしはようやくそのことに気づいた。


 思いを伝える、とはちょっと違うけど、集団で戦うときには、声をかけあったりする。自分の状態を伝えたり、相手のことを短い言葉、情報で、推し量ることもある。そういうのが、自分を伝えることの訓練になったのかなとも思う。


 わたしたちは冬になる前に、何度もダンジョンに潜った。黒狼がダンジョン好きなので、わたしたちを誘いにくるのだ。黒狼に乗せてもらえば、4日も掛からないので時間短縮になるし、他の村人たちもダンジョンに行きたがっているので、メンバーを変えて参戦した。子供たちも連れて行った。

 みんな勇敢で、すぐに魔物を倒せるようになっていった。

 ダンジョンに潜れば必然的にドロップ品も貯まり、憂いなく冬を越せる言っていた。


 ダンジョンで鍛えると、森の獣も難なく狩れるようになっていた。冬前で獣じたい姿が見えなくなっているのに、しっかりみつけて狩っていた。


 そんな〝元気〟が村人たちに伝染していき……村の大人たちは気持ちが前向きになった。

 亡くなった薬師さんを手伝ったことのある人たちが、作ったことのある薬を自分たちでまた作るようになったり。

 年配の方々は保存食作りがうまかった。

 蓄えるようなものが、今までなかったから、作れてなかったらしい。

 冬が終わったら、ダンジョン産の野菜を植えると言っていた。

 笑顔が増えて、アンちゃんダレン君をはじめ、子供たちが楽しそうになった。


 仲良くなった黒狼からは、情報をもらった。

 ここのエナジーだけでは、元の世界に帰れないかもしれないと。

 わたしたちががっかりすると思って、言いづらかったみたいだ。

 聞いて息を飲んだわたしたちに、黒狼は待ったをかけた。

 

 昔、神王と精霊王が喧嘩して大陸を割ったそうだ。ダイナミック!

 割れた時に、大陸に乗っていた神や精霊も散在してしまったそうだ。その神力や聖力がバラバラに在ったので、地のバランスが悪いらしい。

 この村のある大地は、聖霊の数が少なかったので聖力がもともと少ないという。

 ならどの土地が一番力があるのかと聞いてみると、二つ海の向こうのツワイシプ大陸だそうだ。

 その北の端に、とてつもないパワーが秘められているという。

 黒狼はわたしたちをその大陸まで連れて行ってもいいと言った。

 

 わたしたちは元の世界に帰るために、なんでもできることはするつもりだ。

 ただ、マスターさんにも相談することにした。

 話すと大興奮。わたしたちが帰れるかもしれないということを非常に喜んでくれた。けれど、話していて、どこかなんか噛み合ってないような気がして、よくよく確かめてみたら、マスターさんも一緒に行く気満々だった。

 ダンジョンって移動できるの?と尋ねれば、ダンジョンコアなるものをわたしたちが運べば問題ないという。エナジー溢れるところに行きたいらしい。

 それに、わたしたちが転移したのがダンジョンの中だったから、恐らくその条件も入るはずだと、声高になる。


 移動中エナジーの確保は大丈夫なのか聞いてみると、多分コアになっている時は大丈夫だとのこと。

 始まりの村はこのダンジョンの恩恵を受けていた。それがなくなるってことは……と思っていると、これからも定期的に人が入って魔物を倒し活性化させて入れば、ダンジョンの1階から5階ぐらいまでは、保ったままでいるだろうとのこと。核がなくなるから、元の世界のロストダンジョンみたいなものになるようだ。コア=核がないダンジョンも、魔物を倒して多少の活性化をさせていれば維持していけるんだね。確かに元の世界でもそうだった。


 わたしたちは春になったら出発することを決め、村の人たちにそのことを伝えた。

 アンちゃんたちはいっぱい泣いたけれど、わたしたちが家に帰るためだと、家族に会いに行くことをわかって、寂しいけど、帰れるように毎日祈ると言ってくれた。


 出ていくことを決めてから、村のためにできることをした。

 ダンジョンには潜っていたので、魔物を倒し、魔石もいっぱい出たから、それをお金に変えることができた。そのお金で、村の人たちが穏やかに楽しく暮らせるよう、思いつく限りのことをした。バンバン異世界物を配置しておいた。

 ダンジョンももっと改良して、3階に異世界のものがドロップするエリアを作っておいた。


 あっという間に冬はさり、何もかがピカピカしている春がやってきた。

 旅立ちの朝がきた。




<第3章 異世界に来てみたら・完>




ここまでお読みくださり、ありがとうございます!

次章はかの国に参ります。

次章までしばらく間を置きますが、またお付き合いただけますと嬉しいです。

ここまで読んでくださってありがとうございました!

御礼申し上げます!

seo 拝

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