第64話 黒狼さまとダンジョン⑤いい子
面白いな。ネズミ型の魔物なのに、ドロップは牛肉だ。
牛型を倒したと思ったら、出てきたのは鉱物!
自分相手で戦うのは神経がすり減ったけど、それからすると、普通の魔物に対して戦うのは、とても楽だった。
《アリスもクマもつえーな》
《黒い狼もとんでもねーぞ》
自分の弱点を気にするようにしていたら、変なところに力が入るのか、あちこちがすぐに痛くなった。重心がずれて体勢が傾いて、本当なら魔物にやられていておかしくない場面もあった。そうならなかったのは布団叩きにプペが張り付いていたからだ。
「プペ、ありがとう」
お礼を言えば「プペ」っとかわいく返事が返ってくる。
黒狼もひと暴れして気がすんだみたいだ。毛繕いを始めていた。
ドロップ品を集め、収納し、海の階へとショートカットする。
みんなもいっぱい戦い戦利品を集めたようだ。
あとは1階で野菜を収穫して帰ろうということになった。
野菜をいっぱい採ってから外に出ると真っ暗。夜になっていた。
暗い中、黒狼に飛んでもらうのは危ないので、テントを張り休むことにした。
黒狼はお酒好きらしい。成人組とこれから飲むというので、そちらのテントに行った。わたしと健ちゃんは、ダレン君、アンちゃんと一緒にわたしたちのテントへと入る。
疲れたのだろう。食事をしたあと、子供たちがうとうとしだした。
ベッドに寝かせてから、共有部屋に戻ってきて、健ちゃんとお茶を飲む。
「俺たちも早いけど、寝るか?」
健ちゃんが大きなあくびをした」
「あのさ、健ちゃん」
「なんだ?」
「ダンジョンに気づいた日。公園で、健ちゃん言ったでしょ。わたしにイライラするって」
見上げると、健ちゃんがじっとわたしを見た。
「ああ、言った」
「誤魔化して逃げるって。わたし、ちょくちょく思い出して、考えていたんだけど、どうしてもわからなくて。わたしは何を誤魔化しているって思うの?」
「お前、あれからずっと悩んでたのか?」
「いつもじゃないけど。時々思い出して」
「お前、真面目だよな」
「……そういう部分はあると思う」
「俺さ、滝沢が嫌いだったんだ」
「滝沢君?」
小学校の同級生だ。健ちゃんと仲がよかったはず。
だった、ってことは、だったけど、友達になったってことかな?
「滝沢はさ、お前が気になってたんだよ。だけど、俺と真由としかお前は話したりしないから、それが悔しくてあんなこと言ったんだ」
「あんなこと?」
健ちゃんはフッと笑う。
「お前、いい子ちゃんって言われるの、一番嫌いだろ? 小2の時、あいつが言ったんだよ、お前に。優梨はいい子ちゃんだからってからかった」
え、そうだったけ?
「お前、手がつけられないくらい泣いてさ。泣き続けて。俺、滝沢と絶交したんだ」
「ええっ?」
「でも少し経ってからよく考えたら、俺は滝沢を許せなかったんじゃなくて、大泣きしている優梨を泣き止ませることもできなくて、何もできない自分が嫌だったんだ。それを気づかせることをした滝沢を、嫌いなんだと思い込もうとしていたんだな」
「……健ちゃん」
「そう気づいた時に、次に優梨が大泣きすることがあったら、絶対言おうと思っていたことがある。……その機会はなかったけどな」
「……なんて言ってくれるつもりだったの?」
「お前さ、いっつもおじさんやおばさん、希ねーちゃんの顔見て、言葉を選んでたろ? それでうまくいかなくて、なんでこんなになんでもできないんだろうって、嫌われちゃうって、嫌な子だって泣きそうな顔してた」
目頭が熱くなって、わたしは泣かないように目に力を入れた。
「お前は何もできなくない。嫌う奴には嫌わせとけ。お前は嫌な奴じゃない。俺はお前が好きだから。他の誰に好かれなくいい。俺がいるから。それから、お前はいい子ちゃんを装っているじゃなくて、元からいい子なんだ。だからそれを卑下することない」
じんわりと健ちゃんの言葉が染みてくる。
「お前はおじさんにもおばさんにも、希ねーちゃんにも、もっと思ったままに言っていいんだ。どう思われるかなんて気にするな。そのままぶち当たれ。お前の考えることは真っ当だ。普通のことだ。だからためらわなくていい。言わずにいて自分を傷つけるな」
我慢していた涙が溢れ出した。
「おじさんに言いたいことは?」
「……もっと帰ってきて。お姉ちゃんをちゃんと見て。お姉ちゃんの気持ちをちゃんと受け止めて」
「おばさんに言いたいことは?」
「な、なんでお姉ちゃんの味方ばかりするの? なんでわたしばっかり我慢しなくちゃいけないの?」
「いいぞ。希ねーちゃんには?」
「バカ姉。お父さんもお母さんもお姉ちゃんには激甘なのに。愛情を注がれているのに、気づかないバカ姉。汚い言葉を使って罵らないで。その度に悲しくなるから」
「帰ったら、ちゃんと言え」
「うん。でも帰れるのかな?」
健ちゃんに抱きしめられた。
「絶対、帰れる!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます