第154話 強キャラ女子ズの集い
「桐島くんがいないと私達って他クラスのテントにただ不法滞在してることにならない? 大丈夫かな?」
「自分のクラスのテントにいないといけないという決まりはなかったはずなので大丈夫です」
玲くんが男子100m走ために入場待機エリアに向かい、残された私と柚月ちゃんですが、玲くんがいないと確かに部外者のようなアウェー感がありますね。
ですが、体育祭の注意事項に他クラスのテントに行ってはいけないという記載はありませんでしたので、こうして私達がここにいても問題はないわけです。
玲くんのいる場所が私のいる場所。
ついでにおまけの柚月ちゃんもいるので、玲くんが競技に出ている間も寂しくありませんが……柚月ちゃんは周りの視線が気になるのかきょろきょろと周囲を見渡しています。
「やっぱり見られてるねぇ……陽菜ちゃん、目立ちすぎだよ」
「そうですか? 柚月ちゃんがかわいいからじゃないですか?」
「……そんなことないよ。お宅の彼氏くんだって辛辣なこと言ってたじゃん」
「玲くんには私がいますからね。あれはもう一般男子生徒の感性ではありませんよ」
柚月ちゃんは同性の私から見ても美人です。
きっとそれは玲くんも思っていることでしょう。
ですが、玲くんはかわいい女の子なら見境なく意識して、鼻の下を伸ばすような人ではありません。
玲くんがそういう人ならばもっと早く攻略できていたと思いますし、私にもっとデレデレしてくれないとおかしいです。
なので、玲くんの言葉を真に受けて自信喪失している柚月ちゃんはちょっと不憫ですが……まぁ、すぐに忘れて元気になるでしょう。
それが柚月ちゃんのいいところです。
若干挙動不審な柚月ちゃんの様子を楽しみながら、先輩方の100m走を流し見ていると、私達の隣に誰かが座ってきました。
「おっ、三上さんと町田さん2人だけ? 師匠は……あ、そっか。次、男子100m走か」
「えっと……師匠?」
「陽菜ちゃん、桐島くんのことだよ」
突然の師匠呼びに困惑していると柚月ちゃんが耳打ちして教えてくれます。
なるほど、玲くんが師匠……なるほど?
まあ、いいです。
確かこの方達は……玲くんと仲良くしてくれている女の子ですね。
何度か威嚇した記憶があるのでなんとなく覚えています。
一方的な威嚇ではなく、こうして話すのは初めてですね。まずはご挨拶でしょうか。
「ご存知だと思いますが改めて。三上陽菜です。玲くんと仲良くしてくれてありがとうございます」
「ご丁寧にどうもー。私は長谷部雫。こっちが平田汐莉と古川朱璃」
「よろよろ〜」
「師匠にはいつも良くしてもらってるよー」
長谷部さん、平田さん、古川さんですか。
玲くんを慕っているというのは本当みたいですね。
しかし、玲くん……女の子のお友達ばかりですね。
どうして玲くんの周りにはかわいい女の子が集まるのでしょうか?
ほいほいなのでしょうか?
「ねーねー町田さん、三上さんのこの複雑そうな顔、どういう感情?」
「えっと……桐島くんの周りが女子ばかりで嫉妬してる顔かな」
「あーね。でもうちらそういうんじゃないから安心してよ」
「師匠と三上さん……もはやベストカップルすぎて推してるまであるからさ」
「師匠はね、男子っていうより師匠って感じだよね」
「それすぎる」
おっと、どうやら顔に出ていたみたいですね。
ベストカップル……いい響きですね。
私と玲くんを総称してくれるなんて……この人達、さてはいい人達ですね。
「お、三上さん彼ジャージじゃん。師匠にもらったん?」
「はい。身体を冷やさないようにと渡されました」
「師匠、そういうことしれっとやるからかっけぇんだよな~。ね、三上さんもそう思わない?」
「もちろんです。玲くんはいつでもかっこいいですよ」
「くぅ、惚気いただきましたー! この幸せそうな顔を引き出せる師匠……マジ師匠なんだけど」
玲くんが褒められたりするのは私としても嬉しいので、この三人……長谷部さん、平田さん、古川さんとの会話は楽しいですね。
この様子だと純粋に慕ってくれているだけだと思うので、柚月ちゃんほど危険度は高くなさそうです。
「三上さんはともかくとして、町田さんも師匠の応援?」
「一応そうなるかな」
「……ふーん、一応ねー」
「その含みのある間は何かな?」
柚月ちゃんは平田さんに突っつかれて楽しそうにしています。
玲くんのクラスの人とはそれほど関りがなかったはずですが、私と一緒に行動することが多く、玲くんのクラスに顔を出す機会も増えているので、柚月ちゃんもすっかり人気者ですね。
「てか、三上さんは知ってたの? 師匠が運動もできるって」
「そうですね。できる人だとは思ってましたよ」
「そっかー。一学期の体育とかはやっぱ手を抜いてたんかー」
「新体力テストで急に実力見せてきたからビビったよね」
長谷部さんと古川さんは顔を見合わせて頷いています。
確かに玲くんは目立ちたがる性格ではありませんし、疲れるのもあんまり好きではないはずなので、体育とかも流してそうです。
新体力テストは私との勝負もありましたし、本気で取り組んでくれて何よりですが、玲くんがすごいっていうのが周囲にバレ始めて、嬉しいと同時に私だけが知っている秘密が減っていくようで少し寂しくもあります。
そんな感傷に浸っていると、肩にちょっとした衝撃がありました。
隣に座る柚月ちゃんが平田さんとじゃれていて、こちらに倒れ込んできたみたいです。
「おーい汐莉ー。あんま町田さんにだる絡みすんなよー」
「にしししっ、町田さんかわいいね~」
「この子……意地悪な時の桐島くんに似た何かを感じるよ……」
「町田さんであそ……町田さんと遊ぶの楽しいね~」
「ほとんど言っちゃってるから!」
柚月ちゃん、楽しそうですね。
私もこの方達とは仲良くなれそうなのでよかったです。
仲良くなって、クラスでの玲くんの様子などを逐一教えてもらいましょう。
「お、君達。もうすぐ入場始まるよ」
古川さんの呼びかけで入場ゲートの方に目を向けると、男子100m走の参加者が並んで、入場のアナウンスを待っている状態でした。
「おし、せっかくだし師匠が何位になるか賭けでもすっか」
「面白そうだけどそれ、賭け成立しなくない?」
長谷部さんが突然そのような事を言い始めて、いいですねと言おうとすると、反対側の平田さんが柚月ちゃんで遊びながらツッコミを入れてきます。
柚月ちゃんは頬っぺたをむにむにされて面白い顔になっててかわいいです。
しかし、賭けが成立しないとはどういうことなのでしょうか?
「三上さんはどう思う?」
「無論一位です」
「町田さんは?」
「うーん、桐島くんが一位かなぁ」
「その心は?」
「……別に他意はないよ。ほら、あれだよあれ。知ってる人を応援したくなるあれだからっ」
「へー、まあ、そういうことにしといてあげる」
「そういう平田さんはどうなのかなっ!?」
柚月ちゃんは平田さんに回された腕を振りほどいて、私の背中に隠れて威嚇しながらそう聞き返します。
私としても、この三人の予想は気になるところです。
「そりゃ師匠が一位なんじゃないの? 雫と朱璃もそうでしょ?」
「そだね」
「だって師匠足速いし」
「ほら、成立しなかったじゃん。みんな師匠への信頼が厚すぎるって。町田さん、今からでも間に合うから変えない?」
「やだよ。私の一人負けになっちゃうじゃん」
平田さんに変更を促されて、ぶんぶんと首を横に振る柚月ちゃん。
一人勝ちの可能性をまったく考慮していないあたり、玲くんが一位になると信じているようで何よりですね。
よくわかっててえらいです。
「まあ、師匠だししゃーないか、師匠だし」
「だねー」
「あ、入場始まったよ」
いよいよですか。
残念ながら賭けは成立しませんでしたので、純粋に玲くんの走りを楽しむことにしましょう。
長谷部さん達が「師匠、がんばれー!」と声を出している横で、私も負けないように玲くんの名前を呼びます。
柚月ちゃんは声は出してませんが、控えめに手を振ってますね。
あ、気付いてくれました。
少し照れくさそうにしながら小さく頷いてくれたので私はもう大満足です。
さて、一位を取って帰ってくる玲くんを甘やかして、ついでに私も甘える準備をしておきましょうか。
◇
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