筋訳昔話 ~産女編~

@ritokitayama

筋訳昔話 ~産女編~


むかしむかしある所に、それはそれは身体がデカい卵売りのマッチョがいました。

頼光四天王が一人、坂田金時を思わせるような怪力で丸太のように隆起したセップスをしており、そのバルクはセパレーションが美しく分かれていました。

男は善良な若者でしたが、大層な変わり者で人里離れた山の中で1人暮らしておりました。


ある雨の降る夜のことです。

暮六つ時に男は、鶏からとれた採れた卵を3つをとても贅沢に使って無塩のゆで卵と雑穀が多く入った米を3合、根菜の味噌汁、漬物を食べました。


食事を済ませると男は雨の中だというにも関わらず、町に行くため人気のない道を降り始めました。

見せかけの筋肉だけでは、この時代を生き抜くことは出来ないのです。体力作りのために雨の日も雪の日も、日課として夜のジョギングに町へと行くのです。

走っていると、どこかから火のついたように泣いている赤子の泣き声と、それをあやす母親の声が聞こえるではありませんか。


「そこの方、この子が泣き止まなくて。どうか少しの間抱いてくれませんか?」

血に赤く染まった腰巻の艶のない黒く長い髪を顔に垂らした様相の女は言いました。


男は商人としての生業に必要な知識と、筋肉を鍛える為の日々の食事のPFCバランスや解剖学への知識は人一倍に豊富でしたが、その他の知識についてはとても疎かったのです。


「ああ、いいぞ。どうか任せてくれないか」


男は二つ返事で引き受け、渡された赤子を抱き上げました。

男にとって赤子の重さなどトレーニングに使っている米俵よりも軽いので屁でもありません。

ゆすっても泣き止むことの無い赤子を泣き止ませるために、抱き上げたままワイドスクワットを始めました。


「ははっ、これは大変に元気がいい赤子だな」


男の鍛え抜いた身体には、重量の軽い自重トレは負荷がなさすぎて10×3セットを軽くやり遂げられてしまう程に、物足りなさを感じてしまいました。

赤子はまだ泣き止みません。



その時でした。腕の方からかすかに伝わっていた重みが、たしかな重みへと変わっていきました。

一貫ほどの重さだった赤子が、二貫……三貫……と姿は変わらずに重みだけが増えていったのです。

男は身の入った自重トレができると重さが増えれば増えるほど喜びスクワットに身が入りました。



「赤子の重さが増していく程に身体に心地よい痛みが走る」

「いいぞ、赤子よ。泣き止むまで付き合ってやろう」



抱いていた赤子はついには米俵を優に超えるほどの重さになり、さすがの男の顔からも笑顔が消え、ついには歯を食いしばるほどの重さになりました。

それでも、男の筋肉はまだ戦えると言わんばかりにストリーションを浮き立たせて、自分が超えたことのなかった重さの赤子を抱えてスクワットチャレンジへと挑むことになりました。

この壁を越えれば自分はまた一段とデカいバルクを手に入れることが出来るのだ。

そんな思いがいっぱいで、もはや男にとってはこの赤子や女が何者なのかなんて、微塵も気になりません。


「一つ……二つ……三つ…………」

「四つ……五つ……六つゥ……!」


「ははっ……赤子よ、よく肥えているではないかッ……!」


はち切れそうなほどに肥大化したハムストリングス、大臀筋が悲鳴を上げている。

震えが止まらなくなった膝のまま、脚を限界まで追い込んでいきます。


「七つゥ……やっ……つう...…!ここのつゥ!!!」

「とぉーっ!!!」


スクワットの心地よいゆすりで赤子はようやく泣き止み笑い声が響き渡りました。

やりとげた満足感に流されることなく、抱いた赤子を落としてしまわないように大事に女に返します。



「この子が泣き止むまで面倒を見てくれてありがとう……お礼に、あなたの願いを何でも叶えましょう」

「あなたの怪力をより、一段と強くする力を授けましょうか?」


「いや大力はいらん。力とは授かるものではなく、自らを鍛え上げた結果の現れなのだからな」

「礼はいいのだ。それよりも御前さん、俺と一緒に暫くの間暮らさないか?」


「わかり……は、はい?」


男が言った言葉に、女は長く垂れた髪の間から目を白黒させた後に黙り込んでしまいました。


「何も嫁に来いとは言ってない。ここまで肥えた赤子を育てあげたのだ。御前さんの長い髪の艶は失割れて、身はやせ細ってしまっているではないか」

「この先更に大きくなる赤子を育てるには身体を丈夫にしなければいけないからな」

「俺と一緒に暮らして身体を鍛えないか?」

「自らの身体がデカくなっていくのは楽しいぞ?」


「い、いや。お気づきかもしれませんが、私もこの子も人ではなく……」


男は、両手で女の手を握り次の言葉をまるで言わせないかのような勢いで喋り続けます。


「俺は同じような肉体を鍛え上げる志しを持った仲間を探していたのだ」

「それにこれほどに肥えた赤子を常に抱えている女など俺は今までみたことなかった。その身体の下にはどんな筋肉が隠れているんだ?それをデカくしたいとは思わないか?」

「それに俺は、体をデカくするために雄鶏や年老いた雌鶏を殺生して肉を喰らっているのだ。どのみち地獄行きだ。御前さんの正体が死神でも何であろうが構わないさ」


男の目はかつてない輝きを放ちながら女の目を見つめてきます。

ギラギラとした輝きからは、本当に男がただ女の体を鍛え上げたいのであってその他は何も一切求めていない。狂気的なまなざしに見えてしまったのです。

きっと断ったとしても、何度も何度も出逢う度に誘ってくるのでしょう。

女は観念して、男の家に向かうことにしました。





あれから数年が経過しました。

男は一層の筋肉の成長のための研究を重ねた末に、牛の乳の油分を取り除き煮詰めて粉にしたもの……今でいう脱脂粉乳のようなものを発見した末、より一層筋肉の肥大化が進んでいきました。

赤子は成長を果たし、昔のように重くなることはなくなりましたが今は元気に毎日外を走り回っています。

女はというと……フィジークに目覚め、たんぱく質を摂取した体はハリのない体を劇的に変え、女性らしいしなやかなプロポーションと筋肉を両立させた美しいボディを作り上げました。


青空の下で男と女は自らのプロポーションをお天道様に見せつけて、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

めでたしめでたし

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