第5話

 ああ、これでやっと肩の荷が降りたって、思える。

 光紀はぼんやりとしながら全員の写真を見つめる。

 なんだかんだ言って、本当の娘だからね、金銭的な援助は怠らなかった。しかし、ちゃんと育てていく自信もなかったし、関わっていたら仕事すらまともにやっていけず壊れていくことは分かっていたから縁戚に世話を頼んだ。

 が、それはあまり果たされていなかった。けど、祥平君と有理君が上手く、立ちまわって妹の面倒を見てくれていた。

 とてもありがたかった。

 けど、私は病気になってしまった。

 一度は、里香と一緒にどこかへ行ったり、もし、もし良いって言うんなら、一緒に暮らしたかった。

 けれど、もうそろそろ尽きてしまう人生のことを考えると、黙っておくのが筋なような気がした。

 「…有理君、祥平君。」

 「お久しぶりです。」

 有理君とは会っているけれど、祥平君には会っていなかった。

 昔から、ちょっと苦手だった。

 祥平君はいつも怒っているような感じがあって、私は叱られた子供のような気分になるしかなかった。

 私は、上手くやっていくことが難しい人間だったから、それを見透かされているような気分になってしまって、ぞんざいに扱ってしまったかもしれないという罪悪感があった。

 けど、有理君はそんなことなくて、今だって申し訳ないけど、治療費とか、里香に残すお金とか、やりくりする上で生じる欠損金のようなもの、それを一時的に埋めるためにお金を借りている。

 マジで、良い奴だなあ、とは思っていたけれど、ついこの前私の体調が芳しくないことがバレてしまった。

 そして、

 「里香に会った方がいいです。」

 と言われた。

 え、マジ?この子本気で言ってんの?私、無理に決まってるじゃない。

 里香は、もうどういう子どもなのか分からない。

 私の中にはいつも、こちらを睨んでいる寂しそうな娘が、一人黙りこくっている姿しか浮かばない。

 無理だ、けど。

 「じゃあ、会わせて。」

 最後なのだ、少しくらいいだろう。

 もう嫌われたって、終わるのだから。

 私は、そう言って彼らに頼んだ。

 「里香、もうすぐ来るから。」

 有理君はそう言った。

 私は、緊張した。

 そして、

 「そんなに緊張しないで、里香、いい子だから。」

 「そう?」

 私は不安げな顔でそういう二人を見た。

 二人とも、穏やかそうな顔で笑っていた。

 

 「祥平君。」

 明るい声が聞こえる。

 ああ、そうだ。きっとこの子だ。

 私はずっと固まっていた心がほぐれていく様子を、感じていた。 

 きっと大丈夫、なぜかそんな風に思えていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

これからきっと @rabbit090

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る