第4話
最近、里香の様子がおかしい。
里香は、確かに外では黙ってしまう、そういう女の子だったけれど、友達はいた。全くいない、というわけではなくて、一緒に何度も遊びに行く親友が欠けていた、というだけだった。
けれど最近は、それすらない。
親じゃないのに、心配だった。
祥平君、キモイとか言われても、心配だった。
僕は、里香を心配することで、まともになっているのだと思う。里香を心配していないと、腫れあがって、どうしようもない鬱屈とした感情を抱えている。これがぼくの問題なんだってことも重々承知している。
だから、有理のように普通の会社でまともに働いていくことができないのだ。これは、あいつからも言われていることだった。
「おやつ食べる?」
僕は頻繁に里香に声をかける。
高校生の里香からしたらマジできもい奴だと思う、けど、
「うん、食べる。」
にこやかな顔を浮かべて食卓に着き、僕が作ったドーナツを手に取る、小動物のような様子が、やっぱり僕をまともにしていた。
僕は、誰かの世話を焼いていたかった。
なぜか、そうしていないと苦しくなる自分に気付いていた。
「私はもう、出ていく。」
「え?」
僕らは仰天した。
「マジ?大学受験するの?一人暮らしってこと?」
「うんそう、ダメかな?」
ダメとは言えない、むしろうれしいことだった。
お金は、僕と有理の二人がいるから何とかなるし、内にこもりがちだった里香が一人暮らしだなんてうれしい、の一言に尽きてしまう。
「良かったな、祥平。おまえずっと里香のこと気にかけていたもんな。」
「そうだよ、ごめんね祥平君。祥平君の時間奪ってるって分かってた、けど外が怖かったから、甘えてたの。」
「…ああ。」
僕は、うろたえた。
うれしいことを、喜べない。
感情はとどまっていった、そして静かに、部屋を出た。
どういうことなのだろう、里香には、何があったのだろう。
ただ単純に成長するにあたって、心境が変化しただけと考えるのが普通なのに、僕はおかしい。
これから、どうしようだなんて、変なことばかり考えている。
僕は、だって僕は分かっていた。
自分が普通じゃないってことくらい、歪んでいた。
分かり切っている、という程歪んでいた。
なぜ歪んだのかは、分からない。けれど僕はいつも、どこか歪な感情を持っていて、それをどうすることもできない。
馬鹿らしかったけれど、全身で暴れてみてもどうしようもできないそれに、振り回されていて逃げられないことが、ちゃんと分っていた。
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