第3話

 そういうのもいいね。

 にっこりと笑って私を見ている。

 いい加減にして欲しい、そんなの欲しいだなんて、言ってないじゃない。

 「分かったよ、だからそんなに怒らないで。」

 「分かってない、私が嫌だっていうの、知ってるでしょ?」

 同級生だっていう建前だけで、私に関わらないで。

 拒絶はするなって、よく言われるけれど無理だった。私は他人が怖かった。愛想笑いを浮かべて拒絶する癖がついたころにはもう、心がボロボロになっていることに気付いていた。

 「じゃあ。」

 そう一言言って、その場を去る。

 不毛だ、と思った。

 けれど、この不毛さでさえ、きっと私をいつか襲いに来るのだろう、と踏んでいる。

 だって、人って、外で誰かと関わっていないときっと死んでしまう。

 それって分かり切っていることで、でもできない、したくない。

 私に中のわがままが、そのままずるっと、外へとあふれ出して、また私は溺れてしまうのだ。


 「里香、どうしたの?学校は?」

 祥平君は、心配そうな顔を浮かべて私に聞いている。

 なんて答えよう、友達にあなた嫌い、なんて言って逃げてきただなんて、決して言えない。それに、その子に悪気があったわけではなくて、最初は私と仲良くなろうとしてくれていたのに、うまくできなくて、愛想の悪い対応を取っていたら、呆れられてしまった、そして、それが嫌がらせにつながった。

 けれど、その子の立場から言ったら、それは当然だよね。

 分かってる、分かってるからこそ、苦しい。

 「ごめん、帰ってきた。」

 「…そう。」

 祥平君は、アルバイトをしている。しかも深夜の仕事が多いから、昼間はこうやって、ぼんやりと私の相手をしてくれる。

 「まあ、平気だよ。なんか飲む?」

 「うん、コーヒーにする。」

 「分かった。」

 私達はきっと、兄弟ではないから、血がつながっていないから、こうやって穏やかに会話ができるのだと思う。

 居心地はいいけれど、何かが違う。

 その内きっと、誰かが何でもない、と言い切ってしまえばそれで済むような、そんな関係なのだ。

 私は分かっていた、多分、全部分かっていた。

 「ねえ、里香ミルク入れる?」

 「少し、お砂糖もお願い。」

 「おう。」

 はあ、私って、私って。

 どうしようもない、私はずっとこの気分にさいなまれたまま生きていくのだと思う。

 ぼんやりと、目を閉じる。

 けれどそこには、何も広がっていない。

 「…里香、寝ちゃったのか。」

 毛布を掛ける音がする、温かみが広がって、しかし私はまた、溺れてしまう。

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