23:鍛冶屋探し

 ここ、王都ハイランドは、俺が見てきたどの街よりも栄えている。

 俺たちがさっきまで居たような喫茶店だって、街道沿いにずらっと立ち並び、他にも服の仕立て屋に靴屋に雑貨屋。それから、武器防具屋。

 武器屋も一応は目を通しておくとして、だけどもまずはこの街の鍛冶屋を見ておきたい。

 これだけ栄えた街ならば、いい職人との出会いもきっと期待できる。

 楽しみだな。


「ダイアお兄ちゃん。でもこんな広い街で、どうやっていい鍛冶屋さんを見つけるの? 大変じゃない?」


「いや、そうでもない。鍛冶屋なんて大抵は、こういった大きな街では、一つの区画に集まってることが多いんだ。鍛冶町なんて呼ばれてる地名があると思うから、まずはそこに向かおう」


 街というのは、職種や階級によって区画が分けられているものだ。日本でも大工が住むから大工町。武士が住むのは階級別に五十石町とか百石町とか。

 そのほうがお上は管理しやすいのさ。


 人に尋ねてみたら案の定、その区画はもはや鍛冶ギルドを組織していて、この街では冒険者ギルドに並ぶ勢力なのだとか。

 これは期待できるね。アナが扱える武器もきっとそこにある。


 さっそく鍛治町に出向き、そのうちの一軒にお邪魔することにした。ここを選んだ大した理由はなく、街の入り口の一番手近なところに入ってみただけだ。


 店の造りは古く、狭い。カウンターの奥にいた若い男性店員がすぐに俺たちに気が付いて挨拶をしてきた。


「いらっしゃい! 何をお探しで?」


「剣……いや、とりあえず一通り見てもいいか?」


「ええ、どうぞ! 必要なら声をかけてくださいな!」


 快活な声が好印象。だが、この男が槌を握ってるわけじゃなさそうだ。たぶん弟子だろうな。

 それは店内の武器防具を見ればすぐわかる。

 剣も斧も盾も、どれも無骨で、なおかつしっかりと職人の技術が見て取れる。ベテランの仕事だ。


――――

【無骨なロングソード】

種別:≪剣:B級≫

錬金効果:なし

スキル:≪無骨な一撃≫

パッシブスキル:なし

―――—


 うーん、無骨だ。好きだなあこういうの。

 この剣をどのように【アップデート】するかが、錬金術師の腕の見せどころでもあるんだよなあ。

 この店は、こういった職人の性質を現した製品がほとんどだ。


 ……だが、残念ながら、アナの技量についてこれるほどの武器は見当たらないな。

 良くも悪くも、無個性すぎる。アナの尖りまくった個性とは、これじゃあ嚙み合わない。


「他の店も見てみようか」


「うーん、そだねー」


「おや、目ぼしいものはなかったかい?」


 いきなり後ろから声をかけられ、ビクリと振り返る。

 気が付いたら、店員が後ろに立っていた。

 そう言われると、なんだか冷やかしに来たみたいで、なんだか申し訳ないな……。


「そうだな。それじゃあ、ロングソードを一本、頂くとしようかな」


「まいどあり!」


 金を払って俺たちは店を出る。まあこいつは、俺の錬金術でしっかりと俺色に染めてやるぜ。へへへ……。

 続いては、少し歩いて隣店。本当に鍛冶屋だらけの区域だな。面白い。あと、熱気がすごい。

 うーん、ここはなかなかの老舗のようだが、果たして……。




〇●〇




 ――公園を見つけたので、そこのベンチに腰を下ろす。

 太陽は沈みかけ、オレンジ色に染まり始めていた。それを眺めていると……どっと疲れがあふれてきた。


「ふぅ。こりゃ、思った以上に、長引きそうだな」


「やっぱり無理だよ……。【ノーザンサウス】以外は私、使えないよー!」


 途中から手に入れた、×印だらけの地図に目を落とす。立ち寄った鍛冶屋のところに俺が×を付けたんだ。残念な印だ。ご縁が無かった。そういうこと……。

 まだ数件残っているが、鍛冶町の鍛冶屋はほぼ見て回った。結果、ある程度の特徴やグレードの差はあれど、どこも似たり寄ったりな印象だったな。

 ……また明日、出向くことにするが、残りも期待しない方がいいだろう。

 どうしよっかなあ。


「見つからなかったら、どうしよう……近衛騎士になれないよ。ナージャと約束したのに……」


 悲しそうにうつむくアナが力なく言葉を吐き出す。

 今日で三日目。だというのに、全然手掛かりも掴めない。めげるのも無理はない。

 だけどこんなにしょげたアナを見るのも忍びない。彼女の為にも、まだできることはあるはずだ。

 アナを助けるためにやってきたというのに、そんな俺が諦めてどうするっていう話でもあるしな。


「まずはできることをやろう。明日はまた残りの店も見てみて、それでダメでも、ちょっと俺に考えがある。大丈夫。まだ二週間以上もあるんだ。なんとかなるさ」


 そう言うと、アナには元気を取り戻してくれた。

 俺に気を使ってくれてるんだろうな。赤いツインテがへにょんと垂れているから、感情が分かりやすい。


「……うん! そうだね! また明日も頑張ろー!」


「ああ、俺に任せとけ!」




 ――なんて強気な発言をして、翌日早速。残りの店舗に足を運んでみた!


「ここで六軒目。最後の鍛冶屋だ」


「お腹空いたし、ここ見終わったら一先ずご飯にしようよー」


「お、そうだな」


 もはや目当ての武器がないことを前提とした気楽な会話の後、入店。

 おじさん店主が一人でやっているらしく、店番も担っていた。

 ふむ。武器の種類は豊富だな。一件目の鍛冶屋のような、無骨な印象を受ける武器ばかりだ。

 しかしやはり、アナに見合ったものはないな……。

 そんな中、うーんと唸っていると、店主が声を掛けてきた。


「あんたらだろう。最近、鍛冶屋を練り歩いてる奴らってのは」


 げ。そんな噂が立ってるのか。

 やましい事は何もないが、あまりいい目立ち方ではないよな。鍛冶屋の連中にとっては、冷やかされてるようなものだしな。

 一件目ではロングソードを買ったが、立ち寄った全店舗で購入しているわけではない。


「いやあ、この子に合う武器を探しているんだが、なかなか適当なものが見つからなくてね」


「ふん。まあそうだろうな」


 別に嫌味を言ったつもりじゃないが、言い終えてから、「鍛冶屋のレベルが低い」と言っているようなものだと気づき、取り繕うとしたのだが、意外にも、店主はすんなり俺の言葉を受け入れた。


「あんたが持ってるその剣。ゴルドーさんのとこから買ったものだろう。あの人はこの街で一番の鍛冶屋だ。その剣を持っていながら、他の鍛冶屋も練り歩いてるってんなら、そりゃ、それ以上は見つかるわけねえだろうよ」


 ゴルドーさんが誰かは知らないが、店主が指すのは、鍛冶町に来て一件目で購入したロングソードだった。

 そうだったか……。まあ、これまで見てきた中で、確かにあの店が一番よかった。

 しかし、そうれが分かれば、まだ手はある。


 つまり、直談判だ。

 腕のいい鍛冶師に直接依頼して、アナの武器をオーダーメイドしてもらう。もうこれしかない。

 すると、店の奥からトタトタと駆けてくる足音が聞こえてきた。


「トンラさん、今、オヤジの話してた? どうしたの? 何かあった?」


 店の奥ののれんをくぐってひょっこり顔を出したのは、青髪の少女だ。

 短髪で、ダボっとしたタンクトップの下からは、胸にサラシをあてているのがわかる。

 話からして、彼女はゴルドーさんとかいうこの街一番の鍛冶屋の娘さん……なのかな?

 なら失礼のないようにして、ちょっと紹介してくれないかなー? なんて下心を、隠し切れないながらも、話しかけてみる。


「はじめまして。俺はダイアという錬金術師だ。こっちはルイジアナ。彼女は今度、近衛騎士団への入団試験を受けることになったんだけど、試験用の武器が必要なんだ。聞けばゴルドーさんは、この街一番の鍛冶屋らしいと、今しがた、話を聞いた。よければ彼女に一振り、打ってくれないかと思ってね」


 それを伝えると、なあんだ。と息をついてから、彼女はさらっと返答した。


「へえ。でも無理だよ。だってオヤジ、忙しいもん」


 街一番の鍛冶屋だ。そりゃ忙しいとは思うが、それをどうにかしてほしい。

 娘のお願いとかで……。


「きみ、どうやらゴルドーさんの娘さんだろ? どうにか融通利かせられないかな? ほら、女性が活躍するチャンスだし! 応援するといいことあるぞ!?」


「はあ? 何それ。ウチには関係ないでしょ。オヤジも頑固者だから、そういった筋を通さない話は、好きじゃないんだよね」


「だからさー。そこをなんとか、ね? 頼む! どうしてもゴルドーさんの剣が必要なんだ!」


「てかそれ、他店で言う!? 鍛冶屋バカにしてんの!? もういい帰れよ! 試験落ちちまえバーカ!」


「はあ!? な、ええ!? ひどくないか!? なんでそんなこと言うんだ!」


 ほら見ろ! アナもショックを受けてちょっと涙目になってる!

 酷いことを言う娘だな! 俺も許せなくなってくるぞ!?


「よその店にキミがいるんだから、ここで言うしかないだろ!」


「はあ!? ウチがどこに居ようがあんたにもオヤジにも関係ねーだろ! ぶん殴るぞ!」


 よその店にいる逆鱗に触れたらしく、カウンターを飛び越えて、彼女は俺の胸倉を掴んできた。喧嘩っ早い。

 というか、この娘の手――!?


「ちょっと待て! お前、なんだこの手は!」


 掴みかかる手を振りほどいて、逆に掴み上げる。

 その手は、幾重にも連なる火傷や傷がまざまざと見えて、とてもでこぼこと、可愛い顔からは想像もできないほどゴツく仕上がっていた。


「あっ! な、なんだよ! 放せよ!」


 放せと言うが、俺はすっかり目を奪われ、狼狽した。

 これが女の子の手か? おしゃれもしたいだろうに、きっと、鍛冶屋に生まれたからといって、それを継ぐべく、無理をしたのだろう。それが街一番の鍛冶屋の元に生まれたからには、なおさらだ。

 なんて……。


「なんて、美しい手だ……」


「へ?」


 これぞ職人の手だ。手を見るだけで、どれほど本気で、どれほど真剣に、努力を積み重ねたのか理解させられる。


 ……決めた。

 この娘に、アナの武器を打ってもらおう!

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追放された錬金屋さん、しっかり貰ってた転生チートで神器量産中~村に置いてきた習作が【成長】して村人全員S級冒険者になってました…え?俺も?~ 好芥春日 @konogomikasuga

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