第17話 デザートは漢らしさたっぷり

「ここがわたくしの部屋よ」


「ふわああああ! いい匂い!!」


 リフルは入室した瞬間、拝んでいた。この高ぶる思いを表現する方法が、これしか思いつかなかったのだ。

 しかし、言葉に出すのは頂けない。フランジーヌが怒ってしまった。


「は、恥ずかしげもなく言うんじゃないわよ!」


「ごめんねフランちゃん。でも、思ったことは言いたいから、私」


「キメ顔で言っても、何も響かないわよ」


「ちぇ、引っかからなかったか」


「はぁ……やっぱり調子が狂うわ。はやく話をしましょう」


 フランジーヌはそもそもが合理的な人間だ。こうしてリフルの冗談・・に付き合っているだけ、すごいと言えるだろう。

 対するリフルはなんとなく彼女がそういう人間だと理解していた。だからこそイタズラをしていたのだ。

 互いが互いの思惑を理解している。しかし、それは互いに指摘しない。単に、それが居心地の良い環境だったのだ。


「さて、それじゃあ今回の主犯と思われる貴族の話をするわね。まず彼の名前はコーナ・ポスティベート。騎士の家の生まれよ」


「騎士の生まれなのに、やってることは山賊みたいなんだね」


 本来捕らえる側の人間が、捕らえられる側の行動をしている。リフルはこの矛盾に、思わず笑いそうになってしまった。

 貴族はフランジーヌやアマリアのように、良い人間ばかりではない。それは重々承知しているが、それでもリフルは笑うしかなかった。


「貴族って言っても、やっぱり人間ってことか」


「それ、わたくしの前だけにしておきなさいよ。余計な敵を作ることになるわ」


「肝に銘じておくよ。それでそのコーナ君はなんでそんなことをしているのかな?」


「さぁね。道を外した者の考えなんて、分からないわ。ただ――」


「ただ?」


 フランジーヌは少し悩んでしまった。これは憶測だし、言わなくてもいい事だろう。何より、不確かな情報は対応を誤らせる。

 彼女の悩みを察したのか、リフルは彼女の手を握った。


「大丈夫だよ。フランちゃんの考えは、あくまで考えだよ。それで私は間違えないし、間違えても文句は言わないから」


「……何よ、それ」


「守りたい人の考えは手に取るように分かりますよーだ」


「馬鹿にしないでちょうだい。はぁ、それなら話を続けるわよ」


 フランジーヌはコーナの行動に対し、こう予想を立てていた。


「噂だけど、コーナはポスティベート家の基準では、あまり能力が高くないようなの」


「フランちゃん的にはどうなの?」


わたくしもしっかり見ているわけではないからなんとも言えないけど、少なくとも落ちこぼれという部類に入る人間ではないと思う」


「なるほど」


 ポスティベート家には優秀な騎士が多い。

 彼らには彼らなりの誇りがあり、コーナはその重圧を感じているのだろう。

 ストレスによる非行、そう言ってしまえば簡単だ。だが、リフルは単純にそう言い切りたくはなかった。


「……頑張っているのに認められないって、辛いよね」


「何か言ったかしら?」


「ううん。まずはコーナ君に会いに行くところから始めないとなって」


「確かに、それが早いかもね」


「よし、ひとまずの方針が決まったところで、休憩にしよう。デザート出しても良いよ」


「何でゲストである貴方がそんなに偉そうなのよ……」


「だってフランちゃん、ぐだぐだ言うより、直球でお願いされた方が良いでしょ?」


「はぁ……何か食べたいのある?」


「あ、それじゃあさ!」


 リフルの要望を聞いたフランジーヌは言葉では表せない表情になっていた。

 しかし、もはや突っ込むのも疲れたので、彼女は言われた通りの物を用意してやることにした。


 四十分後。


 リフルの前に置かれた皿には、とても美味しそうな骨付き肉・・・・が何本も転がっていた。


「わーい! フランちゃんありがとう! コックさんもありがとうね!」


「……あの、フランジーヌお嬢様、本当に良かったのでしょうか?」


「ええ、ありがとう。ほら、見てご覧なさいあの子の顔を」


 主に促されるまま、コックはリフルを見た。

 両手に骨付き肉を持ち、ジューシーな赤身肉を頬張るその姿はとても幸せそうで。

 コックは苦笑いとともに、達成感に満ちた。

 デザートに骨付き肉を所望する人間の顔を見たいがために、手ずから料理を運んだ甲斐があったというものだ。


「またよろしくお願いしますね!」


「はい、またのご注文をお待ちしております」


 ここまで美味しそうに食べてくれる人間など、そうはいない。

 コックは無意識に最敬礼をした後、静かに退室した。


「まさかわたくしの部屋で骨付き肉を食べる者がいるとは思わなかったわ」


「フランちゃんも食べる? ほら、おいしーよこれ」


「いらないわよ。日々の食事管理は徹底しているの。間食なんてもってのほ、むぐっ」


 フランジーヌの口に、骨付き肉が突っ込まれた。


「今日くらいは良いんだよ。ほらどうどうどう? 美味しい?」


「当然よ。わたくしの家のコックなのだから」


「よし、まだまだあるからこのまま二人で一気に完食だ!」


わたくしはもう結構よ。これから馬車馬のように働くんだから、貴方がたくさん食べなさい。その方が絶対良いわよ」


「へへ、やっぱりフランちゃんは優しいね」


「! そ、そんな事を真顔で言わないの! だいたい貴方は――!」


 フランジーヌの怒声はしばらく廊下に響いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【百合作品】 リフル・パーネンスは追いかける 右助 @suketaro07

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ