第16話 フランジーヌの家へ

 リフルとフランジーヌは帰路についていた。

 その最中、ソフィーからの話を整理していた。


「つまり、さっさとその問題児である生徒たちのところに行って、ボコボコにすれば良いんだよね?」


「良くないわよ。そもそも、貴方ちゃんと今回の内容を聞いていたの?」


「うん。徒党を組んで、ヤンチャしてるんでしょ?」


 複数人による授業妨害、破壊行為、いじめなどなど。

 罪状をあげればキリがない。だが、今のところお咎めはない。

 貴族の子どもだけで構成されているせいなのか、学園側からの介入はなし。それ故に、生徒会が対応を求められることとなった。

 生徒会といっても、あくまで生徒。慎重な対応が必要なせいで、初動が遅れている。


「だから何の関係もない私が行って、現行犯で制圧してくればいい。……口で言うのは簡単だね」


「本当よ。何で断らなかったのよ。もし負けたりしたらどうするの」


「あ、心配してくれるんだねフランちゃん」


「! べ、別に貴方のことなんて心配してないわよ。ただ、貴方が負けたらこのわたくしの名前に傷がつくのよ」


 リフルは静かに笑った。

 別に負けてもフランジーヌの名前に傷はつかない。何せ、フランジーヌ自身が「関係ない」と言えば、それで終わりなのだから。

 でも、彼女はこの問題を自分事として考えてくれている。

 それが、リフルには嬉しいのだ。


「ところでフランちゃんは、今回の貴族たちのことは知っているの?」


「えぇ。と言っても、リーダー格のみだけど」


「教えて教えて!」


「良いけど、その前に場所移動をするわよ」


「え、ここでも良くない?」


「どこの誰に聞かれるかわからないからよ。良い、覚えておきなさいリフル。貴族の悪い話をしたいのなら、絶対誰にも聞かれない場所ですることね」


 リフルにはその言葉が何故出てくるのか、分からなかった。

 しかし、目の前にいるフランジーヌはそういった経験を経て、今の彼女になっている。

 聞いておいて、損はない。


「わかったよ。じゃあ、どこで話す?」


「私の部屋」


 リフルの動きが止まった。なんなら、一瞬心臓が止まりかけた。

 今の言葉を反芻するリフル。何度も言葉を飲み込み、ようやくその言葉の意味を理解し、歓喜に狂った。


「うおおおおお!! やったぁあ! フランちゃんの家だぁぁぁぁお!」


「ちょ、リフル! 声が大きい! 暴れまわるのを止めなさい!」


「だってフランちゃんの家にお呼ばれってぇぇ! やった! 嬉しい!」


 二人の前に馬車が到着した。フランジーヌ家の紋章が刻まれている。

 嬉しさのあまり、リフルはフランジーヌの手を引く。


「ほらフランちゃん、お迎えが来たよ。さぁ行こう!」


「何で貴方が仕切っているのよ!」



 ◆ ◆ ◆



 ダルタンクラインの屋敷は、非常に大きかった。

 アマリアの家も大きいとは思っていたが、それを上回っていた。


「でっっか」


「あまりはしたない言葉遣いをするんじゃないわよ。このわたくしの友人ということならば、品定めの目があるんだから」


「フランちゃんはやっぱり優しいね」


「な、何がよ」


「だって、黙って私が無礼を働くのを待っていれば良かっただろうに、わざわざ教えてくれるんだからさ」


「ばっ馬鹿言わないで! 貴方はわたくしを守ると公言しているのよ。それは巡り巡ってわたくしの評価に繋がるの。それだけよ」


「へぇー」


「……何よ、その目は」


「いいや、ぜんっぜん言い訳になってないなって」


「ここで帰る?」


「悪ふざけが過ぎました」


 土下座する勢いで、リフルは頭を下げた。

 折角の自宅訪問チャンス。これを逃せば、次はいつになるか分からない。リフルはこの瞬間を逃すつもりはなかった。



「「お帰りなさいませ」」



 使用人たちが出迎える。

 きっといつもこうしているのだろう。フランジーヌは一人ひとり丁寧に目を合わせ、会釈する。


「お嬢様、その方は?」


 先頭に立っていた老執事とリフルの目が合った。


「あっ」


 戦闘訓練を積んできたリフルの瞳に、老執事の纏う戦気が映り込んだ。


「……ほう」


 老執事も同時に、リフルがただの女生徒ではないことを見抜いた。

 彼が注目したのは、リフルの鍛えられた四肢である。運動用の筋肉ではない、戦闘用の筋肉なのは一目瞭然。

 老執事は元々、傭兵上がりの人間だ。故に、同類・・の気配には敏感だった。


わたくしの友人です。部屋に案内するから、何か適当に用意をお願いします」


「左様でしたか。それならば、すぐに用意させましょう」


 老執事は実に穏やかな笑みで、主の言葉を受けた。

 リフルが何者か――老執事は一旦、頭の片隅にその疑問を置いておくことにした。


「ついてきてください」


「お、お邪魔します」


 流石のリフルも、ここでふざけられるほど呑気ではなかった。

 フランジーヌに連れられるまま、リフルは部屋へ向かう。


「静かね。緊張しているの?」


「……流石にね。私だってふざけられるところと、そうじゃないところの見極めはついているつもりだよ」


「意外ね。てっきり脳が筋肉で出来た子だと思っていたのに」


「えー、それどういう意味!?」


 すると、フランジーヌは微笑を浮かべ、こう言った。


「調子出てきたんじゃない?」


「うっ……そこでそのセリフはずるいよ」


 まだまだフランジーヌには勝てない。

 そう思ったリフルである。

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