マダム・ウフのパンケーキ
文重
マダム・ウフのパンケーキ
何だか雲行きが怪しいと思ったら、若いカップルが席に着くや否や揉め始めたわ。それでもパンケーキの一片を口に入れると思わず彼女の頬が緩んでくる。彼氏のフォークが横から伸びてきたのでお皿を引っ込めようとしたけど、一瞬遅かったわね。彼氏も満足げに頬張ってる。あんなに喧嘩してたのに、食べ終わった2人は仲睦まじく手をつないで店を出ていったわ。
あの暗い顔した方、ご近所のお爺さんね。投資詐欺に遭ってほぼ全財産失って、家族にも愛想を尽かされたって噂だけど。コーヒー代は払ってもらえるのかしら? 「試食していただけますか?」とコーヒーにパンケーキを一切れ添えて出したら、ひどく恐縮しちゃって。一口食べたら何だか憑き物が落ちたような顔。「ごちそうさま」という声が少しだけ弾んでる。
その笑顔が見たかったのよ。私も同じだったから。今のあなたはかつての私。愛しい人も何もかも失って、卵(oeuf)1個で始めた二度目の人生だもの。
マダム・ウフのパンケーキ 文重 @fumie0107
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます