腕相撲秋場所
「じゃあさあ、なにやるの?決まんないじゃん」
トオルは机に頬杖をついて不貞腐れている。確かにこのままでは何も決まらない。マシロは一瞬考えて、タクマを見た。正確には、タクマの筋肉を見た。
「腕相撲は?タクマが横綱な。んで、挑戦者を募る」
「野郎しか集まんなさそう」
「そこは他の奴で段階作ってだな。タクマはハンデをつけるんやて。上手くいけば女子の手を握れるかもしれんぞ」
「そうか!」
途端に顔を輝かせ、椅子を蹴散らして立つタクマ。しかしすぐに乙女のように顔を覆ってクネクネし始める。
「いや、でも、ほら、恥ずかしいやん」
「ばっかもーーーん!!」
突然の喝。マシロは両手を握りしめ、天井を仰ぐ。糸目から涙がツーッと流れ落ちる。そう。ここは男子高。対外試合がある訳でもない彼らが、外の生徒と交流が持てるのは文化祭くらいしかない。
「貴様ら、この男ばかりの砂漠でたとえわずかな可能性でも女子との繋がりを得たいとは思わんのか!!」
「そ、そうですね」
「声が小さーーーい!!」
「すんませんしたーーー!!!」
突如始まった男塾劇場に、1年も慌てて唱和する。マシロはシャツの袖を捲り、さして筋肉もついていない生白い腕を振り上げた。
「よおし!そうと決まったら腕立てと腹筋300回ずつだ!!スクワットもやる!!」
「スクワット腕相撲に関係ないだろ!」
「つべこべ言うな!やるなら上半身を支える足腰もだ!腹筋いくぞ!1!2!3!」
「よっしゃ~!!面白くなってきたぁ~~!!」
「ひいいいい」
はっきり言って喜んでいるのはタクマだけである。繰り返すが、健康促進部とは名ばかりの部だ。言い出しっぺのマシロでさえ、10回で顔を青くしている。
フトシは一度も腹筋が出来ずに床と一体化し、トオルとホソキは3回で腕をブルブル震わせながら沈んだ。
「298、299、300!!……あれ?みんなどした?」
全員床に転がっているのにやっと気づいたタクマが不思議そうな顔をする。額に光る汗が眩しい。これぞ青春だ。
マシロは昭和の漫画でよく見る休日の父さんのように、すっかりくつろいだ姿勢で頭を支えながら呆れ返っていた。
「……タクちん、バケモンか」
「なんだよ!マシロがやれって言ったんやないか」
「だからってほんとにやるか~?」
「やるよ!楽しいやんか!筋トレ!」
「そら、タクちんはな」
マシロは冷めた目をして立ち上がり、シャツの埃を払った。下校を報せる校内放送が、今日も流れ始めた。無言で後片付けをして帰り支度をした5人は、トボトボと教室を出る。
校門で別れる間際、マシロはフトシとホソキに告げた。
「あのな。入学式の時聞いたかも知らんが、うちの学校、文化祭無いで」
「えええええええええええ!!??」
1年生の悲鳴を聞きながら、マシロとタクマとトオルの3人は、ハイタッチで悪戯の成功を祝った。こんな時ばかりは団結力が最高に良い、しかし人の悪い先輩達である。
〈終〉
妄想パンプアップ 鳥尾巻 @toriokan
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