オレンジのカキのタネ5つ

「謎解きゲームとかどう?」


 急に立ち上がったトオルが生き生きとした声を発した。怪訝な顔をする部員たちを見渡し、自分のアイディアを語る。


「謎解きというか、スタンプラリーみたいにするのは?例えばシャーロックホームズの名言を書いた紙を持って、校舎の各所に置かれたヒントを巡るみたいな。それがどの事件のものか全部当てた人に賞品出すとかね」


「……ん~。それなら賞品と紙と鉛筆、スタンプ、あと机?看板もか。俺らは交代で座ってのんびりしてればいいもんな」


 マシロは顎を摩りながら頷いている。タクマも同意しかけたが、1年の2人は戸惑っている。


「あのう……そんなにホームズに詳しい人います?」と、ホソキ。


「ボク、読んだことも見たこともないです」と、フトシ。


「3択とかにすればいいんじゃない?」


「当てずっぽで書くやつとかいそう」


「そこはスタンプ捺せばいいじゃん」


 トオルは何としても自分の案を通したいらしく、強く拳を握りしめる。彼がそんなにシャーロキアンだったとは知らず、マシロとタクマもポカンとしている。


「英語で書いてもいいよね。例えば『オレンジの種5つ』だったら『You must act,man,or you are lost.(行動あるのみ、それが男だ、でなければ敗北するしかない)』とか、かっこよくない?」


「それじゃ子供が読めんやろ。俺も読めん」


「いや、そこは読めよ。高校生やろ」


「英語嫌いなめんな」


「んなこと偉そうに言うな」


 マシロは冷静にタクマにツッコんだが、彼も「渋すぎるのではないか」と思い始めた。それにやるとしても、他の部員はそこまで詳しくないので、調べるのも大変そうである。


「でさ、ここを『ベーカー街221B』にして、みんなホームズとワトソンの仮装するとか。いっそ顔嵌めパネル作って記念撮影スポットにする?」


「いやいやいやいや、めんどいわ」


 興奮して歩き回り始めたトオルに、マシロとタクマが同時にツッコむ。5人しか部員がいないのに、どんどん話が大きくなっている。そもそも楽が出来るように、スタンプラリーにしようとしたのではないのか?と、トオル以外の誰もが思う。オタク気質の彼は、妄想で突っ走ることも多い。


「なんだよ、つまんないな」


「賞品は何にするんだよ」


「……カキのタネ?」


「苦労して校舎中歩き回ってカキのタネ?まさか5粒とか言わんやろな」


「ホームズファンなら喜ぶはずだ!!」


「だからそんなガチ勢いませんって」と、ホソキ。

 

「絶対ありえないっすね」と、フトシ。


 食いしん坊の彼が言うと実感がこもっていて説得力がある。全員に反対されたトオルはしょんぼりと肩を落とし呟く。

 

「That when you have excluded the impossible,whatever remains,however impossible,must be the truth.(不可能を全て除外した時、最後まで残ったものがなんだろうと、どれほどあり得ないことだろうと、それが真実だ)」


「お前、それ言いたかっただけやろ」

 

「日本語でプリーズ」


 ウルウルと両手を組んで前腕に筋と血管を浮き上がらせるタクマに、トオルは疲れたような溜息をついた。

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