妄想パンプアップ
鳥尾巻
男子高校生は焼きそばの夢を見るか
ここはとある男子高の、とある教室の一角。
「健康促進部」に所属する5人の高校生が、ババ抜きに興じながらダラダラとお菓子を摘まんでいた。もともと名ばかりの部だが、健康を促進するどころか脂肪と糖たっぷりの駄菓子は不健康そのものであるし、彼らの若さを以てしても覆せるものではなかった。
「あー、焼きそば食いたい」
右隣から抜き取ったカードを眺め、2年で部長のマシロがボソリと呟いた。色白な細面に黒縁眼鏡を掛けた糸目の少年。
その隣にいる副部長のタクマに、ジョーカーを引かせるようにさりげなくカードの位置を変えるところからして、わりと計算高いところはある。
迂闊にそれに乗ってしまうタクマは、筋トレが趣味で、金髪頭と厳つい体躯に似合わず、とても素直かつ繊細である。涙目になりながら隣のマシロを横目で睨む。
「マシロ容赦ねえわ~」
「戦いに情けは無用」
「くっ……早く引けやっ!トオル」
タクマは盛り上がった上腕二頭筋をさらに盛り上げて左隣のトオルにカードの背を向けた。
モリィッと音がしそうな腕をドン引きの表情で眺めたトオルは、神経質そうな細い指を伸ばして無難なカードを抜き取った。マシロやタクマと同じ学年で、やせぎすで茶色の天パ、海外ドラマと映画オタク。
タクマは悔しそうに唇を噛んでトオルを見た。
「なんでや!なんでババ引かんの!?」
「いや、見えてたし」
「ああっ!」
まるで乙女のようにカードを抱きかかえたタクマだが、ハンバーグの如き僧帽筋が盛り上がるばかり。トオルはそんな彼を無視して、後輩に自分のカードの束を差し出した。
「次の方どうぞ」
「あ、はい」
丁寧だが素っ気ないトオルの態度に、少しびくつきながら手を伸ばしたのは細くて小柄な1年生。名前はホソキ。彼はカードをシャッフルすると、すぐさま隣の1年生に回した。ぽっちゃり体型で童顔の彼は、フトシ。
「マシロ先輩、文化祭ってやるんですか?」
フトシは手札を出すと同時にポテチにも手を伸ばす。
折しも季節は秋。文化祭シーズンである。校門のポプラも色づいて、地面に黄色の絨毯を広げている。
福福した頬についたポテチのカスを指摘するべきか否か悩みながら、マシロは「うーん」と考え込んだ。
「文化祭かあ……焼きそば食いたいな」
「屋台、ですか?」と、ホソキ。
「でもタクマがやったら、本物の的屋に見えそうだよなあ」
言いながらトオルは割箸でチョコチップクッキーを摘まみ、一口齧る。手が汚れるのが嫌らしい。それを聞いたタクマは名案を思い付いたように目を輝かせる。
「あ、じゃあ、いっそのこと極道喫茶とかどう?マシロは漢服とか似合いそう」
「誰がチャイニーズマフィアや。漫画やドラマで流行ってても反社は学校側の許可下りるかどうか……」
「それもそうだよね。闇金ウシ〇マくんみたいな奴いたら、女の子が寄り付かなさそう」
「うっ、それは嫌や」
「飲食系は却下だね。準備めんどくさそう」
ショボンとハンバーグを下げるタクマを見て、トオルが少しだけ勝ち誇ったように笑う。マシロはカードを選別しながら、眼鏡の奥から全員をぐるりと見渡した。
「じゃあ、誰か他に提案ある?」
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