第9話 ぬか喜びってあとが辛いよな

 鏡に映ったイケメン、それは男主人公のリンゼル・レイヴンハートだった。

 俺でも惚れちゃう男主人公……流石にこの顔と身体に女子高生のコスプレはキツいが、めっちゃカッコイイじゃねーか!


 ムチムチの制服を何とか破らずに脱ぎ、はちきれる下着を脱いで鏡で自分をまじまじと見る。


「ふ、腹筋が割れてる! 俺、こんなに割れてる腹筋を見たことがねーぞ?」


 転生前は腹筋を一枚に割るスタイル……つまり全然腹筋が無かった俺は、自らの腹筋を触ってみる。


「カッチカチ! すげー! すげー!」


 胸も腕も脚も、カッコイイ筋肉がしっかり付いている。それなのにきちんと絵になる細マッチョ仕様で、テンションは上がるところまで上がった。


「これでこの世界の女の子は全部俺のものに出来ちゃうな! バグ最高!」


 ほれぼれする顔と身体をじっくり見て、ようやく気付く。俺、着る物が無い!

 必要以上にデカい股間についた分身イチモツを隠したくても、俺の部屋にあるのは全て女物の下着だけ。女リンゼルの持ち物は基本的にサイズが合わない。


 クローゼットを漁ると、運動着の中にハーフパンツを発見する。これを履いてみると奇跡のジャストフィットで、息子も安心して収まっている。女の時に少し緩いものが丁度良いサイズ感だ。


 下半身の一番の問題は解決したが、ハーフパンツ一丁で外をウロつくのは流石に無理だろうと考え、もう少し漁ってみたが身体に合うものが一切ない。

 悩んだ俺は、とりあえずシーツを身に纏った。シーツを巻き付けただけのスタイルはローマの戦士みたいで格好良く、思わず口元が緩む。


 イケメンは何を着たってイケメンだな。


 おそるおそる窓を開け、外を覗いてみる。深夜はシステム強制でキャラクターたちは寝ている時間で、人が歩いていることはないはずだ。

 しかし、こんなシーツを身に纏ったムキムキの男がウロウロなんてしていたら、いくらイケメンだったとしても、万が一見つかったら捕まってしまうのではないだろうか。


 少し不安はあったが、誰もいないのを確認して再び窓を閉めると自室の扉をそっと開く。廊下にも人の気配は感じられない。

 履物もサイズが合わないため仕方なく裸足のまま外に出てみる。裸足であることは逆に物音が立たないため、都合が良かった。


 暫く物陰に身を隠しながら歩いてみたが、誰にも会わないので次第に堂々と歩くようになり、気分が高揚してきた俺は寮の外に思い切って踏み出した。


 何と言う解放感……こんな変態としか思えない恰好でウロついても咎められることもなく、自由に動き回れる。


「ああ、システムよ……ありがとうございます」


 誰も起きてこないのを良いことに、カケラを探さないといけない使命をすっかり忘れ、俺は思う存分はしゃいだ。

 服が無いと困るので、一度寮に戻り因縁の相手であるセレストの部屋に忍び込み、Tシャツやスエットを拝借した。セレストは少々細身のため、今の俺では奴の服は少しキツい。そのため、ひとつくらい無くなっていてもバレないだろう緩めのものを選んで着替えた。


 Tシャツにスエット姿のまま町へ出かけ、服屋に侵入し何着か男物の服や下着を購入する。念のため言っておくが、金はレジの中に入れたので、窃盗ではないことを付け加えておこう。

 クエストをほとんどクリアしている俺は、今の時点でもそれなりの金を持っている。窃盗する必要はないからな。

 セレストのスエットはあとできちんと返すから窃盗ではなく借用だ。本人の了承を得てはいないが。


 こうして買い物を済ませて寮の自室に戻る頃には、既に夜が明ける時間になっていた。


「もう朝か。チキショウ、何を着ても似合う俺が悪いんだ! 様々な服を試着ファッションショーしていたのがマズかったな」


 夜が明ける前に自室に戻り、セレストから借用したスエットとTシャツを洗って帰すかそのまま返すかで悩んでいると、身体が急に痛み出した。


「な、なんだ……?」


 その場に倒れ、あまりの痛みに意識を手放した。


 目が覚めたのは翌朝だったが、身体に違和感があった。セレストのTシャツとスエットがゆるくなっていて、立ち上がろうとするとズレる。どうしたのかと起き上がって鏡を見ると、女のリンゼルに戻っていた。


「あああああああああ!!?」


 思わず大声を上げてしまい、その声で隣室のキリアンが驚いて俺の部屋の戸を叩く。


「どうしたの? 大丈夫? リン!」


「う、うん。大丈夫。ちょっと、名前を言えない黒い虫が走ったような気がして」


 そう言うと、小さくヒッと声が聞こえて明らかにテンションの下がったキリアンが再び声をかける。


「そ、それで……大丈夫なの? アイツは……」


 声が裏返っているのが女の子らしくて可愛いと思いつつ、俺は嘘を上塗りする。


「うん、大丈夫。見間違いだったみたい。起こしちゃってごめんね?」


 俺が謝ると、それなら安心とキリアンは自室に戻って行った。


 ふう、ヤバいところだった。俺がセレストの服一式を着ていることがバレたら、彼女認定されてしまう!

 ただでさえ、ただでさえヤツは調子に乗っていると言うのに。そんな屈辱耐えられん!


 女に戻ってしまったことと、カケラ集めのチャンスを棒に振ってしまったことで、暫くの間はショックで何も手が付かない日々を送ることになってしまった。


 半月後、セレストの服が無くなったというプチイベントが発生していたが、次の満月の夜にこっそり部屋に返却したことにより、セレストの勘違いということで幕を閉じたのだった。


 満月の夜に男に戻れるとか、それ制限時間あるとか、教えておいて欲しかった。

 ガクリ。



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