第8話 神様、なんのお戯れですか?
「リン、何だか変だわ。貴女を見ると私、私……」
目の奥を完全にハートにしたキリアンが俺に近付いてくる。拒めずそのままベッドに押し倒される格好で、俺にのしかかったキリアンの爆乳が俺の胸に圧をかけてくる。
「キ、キリー! 当たってるってばぁ」
この状況が怖くなって、俺はキリアンに懇願する。懇願の仕方が独特で申し訳ないが、もう何を言えばいいのか分からなくなっていた。
無理やり言い寄られる恐怖を知り、俺は男に戻っても相手の同意がない限り襲わないと心に誓った。
それくらい怖かったんだよぉ!
「ふふ、当ててるのよ。分かってるでしょ? リン、あなた本当は男でしょう? 私は知ってるの。システムと少しだけ繋がっているから」
「ええ!? 初耳なんですけど~! それなら当てるのは男に戻ってからにしてもらえないかな?」
「でも、今は女のあなたが魅力的に見えて……いいじゃない、私が好きでしょう?」
だめだ、MAXなんじゃねーかと思うくらいしっかり魅了されている。これを解除する方法とかってあるんだっけ?
俺はとにかくゲームで得た知識をフル回転させるが思い浮かばない。なぜなら現在進行形で襲われているからだ。
ヤメロ、太腿に手を這わすな! 思考が乱れる!
ヤメロ、腰回りはくすぐったい、意識が持っていかれる!
ヤメテ、服の中に手を入れるとか、息が乱れる!
や、やめてぇ~! それ以上は十八歳以上しか読めない展開にッ!
「とうっ!」
手がブラにかかる前に、俺は拘束から華麗に抜け出してキリアンの
意識を手放したキリアンは、そのままベッドに突っ伏した。
「あ、危ないところだった。乱暴だけど許してね、キリアン」
意識を失ったキリアンと保健室で二人っきり。さっきは蹂躙されそうだったけど、スカートの中身を確かめたりとか、ちょっぴり触ったりとかしてもいいよな? 俺は襲われたんだし少しくらいご褒美……と考えたあたりで、先程の恐怖を思い出す。
同意のない行為はしないと誓ったんだった。しかもキリアンだって魅了にかかっていなければ、あんな行動は起こさなかったはず。
――俺はどうして、下半身でしか物を考えられないんだよ。サイテーだな、まあ下半身は今は無いんだけどな。
自虐を言いながら再度思考を巡らせる。このままでは普通に学園生活を送ることが難しい。出来れば爆速で
とにかく次の満月を待つ……としても、今日から満月まであと五日もある。授業を受けなければならないことを考えると、今の状況が良いとは思えない。
魅了が相手にかからないようにするには、どうしたらいいんだ?
思い出せ、思い出せ、思い出せ……あっ!
確か、魅了にかかってしまうというイベントがあったと思う。それの解除方法がもしかしたら役立つかもしれない。
その方法は、確か保健室の薬品を混ぜ合わせて作る気付け薬だった。
幸い、今いる場所は保健室。薬品は鍵がかかっている棚に置かれているが、俺は【万能鍵】というどんな鍵でも開けてしまうという最強のアイテムを既に持っている。
棚の鍵を開けて様々な薬品を手に取ってみると、小さなウインドウが開く。そこには薬を作るための素材と配合率が事細かに記されていた。
こういうのは本当に助かる。
おかげですぐに【気付け薬】という名前の魅了解除薬が出来たわけだが……。
く・さ・い!
百年の恋も冷めるようなエグい匂い……なるほど、ゲームでは匂いまでは感じないからな。確かにこれなら魅了が解けるだろうが、それ以外の何かを失うような気がしてならない。
このゲームの運営、ホンマにクソすぎる!
ごめんと思いながら気を失ったキリアンに嗅がせると、飛び起きて十分くらいむせていた。
おかげで魅了は解除できたが「リンから何か匂う」と顔をしかめたキリアンやその他の生徒の嫌悪の表情は、忘れたくても忘れられないほど脳裏にしっかりと刻み込まれた。
やっぱり体は臭くない方がいいよな。
これからは、面倒くさがって風呂に入らないとか言うのはやめよう、と誓った俺だった。
そんなこんなで、俺はシステムから課せられた「超モテモテ体質」を脱したわけだが、それが百パーセント脱したというわけでもなく……。
なんだかんだで攻略キャラは全体的に好感度が上がっているせいで、何かある度に誘惑してくるようになった。
……特に男キャラが。
女子キャラは早いうちにある程度の攻略をしておいたため、イベントがほぼ残っていなかったこともあり、あまり変わることはなかった。
しかし、ほとんど攻略していなかった男キャラからのアプローチが凄い。
何かある度に手を握ったり腰に手を回したり……
俺は女の子が好きなんだよ! 男なんて来なくていい、友情だけでいいんだよ!
夢のせいにしたけど一度ベロチューしたからなのか、特にセレストが積極的で気色悪かった。もう思い出したくないから日記には『セレストのヤロウがウザすぎてツラい』とだけ記している。それが日記の中にかなり書かれているのはまた別の話なんだが……記憶の底に封印したのでもうこれ以上は思い出したくない。
そんなこんなで五日が経過して、待ち望んだ満月の日がやってきた。
強制的に眠らされる時間になると身体が急に熱くなり、心臓がドクドク脈打つ辛さに耐えられずうつ伏せになった俺は、違和感を覚えて鏡を見た。
そこには、ぴっちぴちの女生徒の制服を着た、ムッキムキのイケメンが映っていた。
ぴえん。
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