第2話 勇者達との出会い


 抱き起した咲耶の顔は蒼白く、血の気が失せていた。


「おいっ咲耶! しっかりしろ!」


 咲耶はぐったりしたまま動かない。おれは少しパニックになり彼女の体を強く揺さぶった。


「ダメですよ、そんなに揺すっては。おそらく気を失ってるんでしょう」


 気付けばおれの横に一人の女性が立っていた。金色の髪に白い修道着のようなものを着ている。咲耶とやったゲームのキャラクターでいえば僧侶という感じだろうか。


「ヒール」


 手にしていた杖をかざしながら彼女がそう唱えると、咲耶の傷がみるみる治っていった。ほっとしておれも腕の力を緩める。冷静になって考えてみると、娘の顔をこんな近くで見るのはいつ振りだろうか。


「大きくなったもんだ……」


 咲耶が小学校に上がるまでは、よくこうやってだっこしながら寝ていたっけ。そしていつも目を覚ますと「パパー」と言っておれに抱きついてくれた。


「う~ん」


 寝起きのような声を出して咲耶が目を覚ました。おれは昔のように娘に優しく微笑みかけた。


「ちょっと! パパ何してんのっ!!」


 咲耶が両手でおれを押しのけた。もの凄い衝撃を感じておれは軽く後ろに吹っ飛ぶ。いつのまにそんなに力が強くなった!? おれが唖然としていると、さっきのイケメンが声をかけてきた。


「あんた達親子だったのか。おれはアレックス。一応勇者と呼ばれている」


「ああ……おれは柏木だ。って勇者!?」


 アレックスと名乗った男を見ると、まるでマンガで出てきそうな勇者然としている。


「カシワギ? 珍しい名前だな。それで、そっちのお嬢さんは?」


 イケメンに見つめられ、咲耶は少しキョドっている。


「わ……私はサーシャよ」


 咲耶がゲームで使っていた名前だ。確かにそれだとなんとなくしっくりくる。まだ今がどういう状況なのかわからないが、娘の適応能力の高さに驚く。


 アレックスが笑顔でおれ達に握手をしてきた。どうやら挨拶はこの世界でも一緒らしい。彼に続き、咲耶を魔法で直してくれた女性もやってきた。


「はじめましてカシワギさん。サーシャさん。私は聖女のマリアと申します」


 さっきは混乱して気付かなかったが、マリアさんはかなりの美人だ。それこそまさにアニメの世界のお姫様のようにキラキラと輝いて見えた。おれが彼女に見とれていると咲耶が肘でおれの脇腹を小突きながら小声で言ってきた。


「ちょっとパパ見過ぎだから」

 

「んっ……ああすまん。でもすごい綺麗な人だな。やっぱりこれ夢なんじゃないか?」


「なんで私とパパが同じ夢見るのよ。そっちの方が変でしょ? これはたぶん転生したんだね」


「転生?」


「そう。ラノベとかマンガで見たない? 死んだら生まれ変わるやつ」


「いやでもパパは死んだ覚えはないぞ……」



「おーい! アレックスー! あいつらどっか行っちゃったよー!」


 おれ達がこそこそと喋っていると、彼らの仲間だろうか、マリアさんとは別の女性が駆け寄って来た。


「やっぱり逃げたか。まったくどいつもこいつもいい加減な奴ばっかりだ」


 アレックスは少しイラついた感じでそう言った。走ってやってきたもう一人の女性が息を切らしながら答えた。


「どーするぅ? もう三人で先進んじゃう? ってあれ? この人達はだぁれ?」


 不思議そうな顔でおれ達ふたりを見るその女性は、咲耶よりも小柄だが出るとこは出て、マリアさんと同じくこちらもたいそう美人だ。黒を基調とした服を着ており、小さな杖を手にしている。おれは咲耶に小声で訊いてみた。


「あれってやっぱり魔法使いとかか?」


「うんたぶん。ロリ巨乳といえば魔法使いのテンプレだよね」


 二人でまたひそひそ話をしていると、その女性が覗き込むような姿勢でにっこりと笑いかけてきた。


「私はテルマ! 二人は親子なんだってね~よろしくね」


「あ、ああ。おれはカシワギだ。こっちは娘の咲、サーシャだ」


「サーシャよ。よろしくテルマ」


 おれはまだまだ照れがあるが、咲耶はすっかり馴染んできている。ううむ、やはり昭和生まれにこの展開はきついな……。


「そろそろ日が暮れる。おれ達は野営を張るつもりだが、カシワギ達もよかったら一緒にどうだ?」


 アレックスの申し出を喜んで受けた。なにより咲耶がとても楽しそうだ。


「パパ! 野営だって! やっぱり魔物の肉とか食べるのかなー!?」


「えっ!? あれ食べるのか? 腹壊しそうなんだが……」


「だってアレックスが解体してるよ。私も手伝ってこよー」


「おいおい! 迷惑掛けるなよ! まったくあいつは……」


 おれが呆れて走っていく咲耶の背中を見ていると、マリアさんが微笑みながら話し掛けてきた。


「仲がおよろしいんですね」


「いえいえ。いつも言う事聞かないんで困ってます。あっそういえば先程はありがとうございました。娘の傷を治して頂いて」


「あれくらいは造作もないことです。ところでお二人はどこかへ旅でもしてらっしゃるんですか?」


「ええっと……」


 おれが答えに窮していると咲耶が大声でおれを呼んだ。


「パパー! ご飯できたってー!」


「えっ! 早っ!」


 おれが驚いているとマリアさんが笑いながら言った。


「テルマの魔法だと一瞬で焼けますからね。じゃあとりあえずはご飯にしましょうか」


 おれはマリアさんの後ろに付いて歩いて行く。ほんのりと肉の焼ける良い匂いが鼻をついた。おれは思わずゴクリと唾を飲んだ。





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