第5話 テンセイシャの武器
一夜明け目が覚めると体中が痛かった。マリアさんが毛布を一枚貸してくれたが、それでも寝たのはほぼ草の上。背中に首にあちこちが凝り固まっていた。
咲耶は早くも起きておりテルマと楽しそうに朝食を作っていた。最近向こうの世界では昼過ぎまで寝ていたというのに……。若者の柔軟性というのは恐ろしい。
「あっパパおはよー。てか寝ぐせ凄いけど」
咲耶にそう言われておれは一応髪を手櫛で整えた。転移したからだろうか、今のおれはボサボサの赤い髪に赤い瞳。おまけに筋骨隆々で思いっきりゲームの世界の戦士そのものだ。鏡で自分を見た時はかなり驚いた。
一方咲耶はというとこれまた真っ青な髪の毛に青い瞳。顔や体つきは変わってないのでおれから見ればコスプレしているような感じだが、本人曰く「これめっちゃかわいくない!? 私めっちゃファンタジーじゃん!」とかなりご満悦だった。
朝食を終えるとおれ達は街を目指した。どうやら魔王城に向かう道中では最後の街らしく、そこで必要な物を全て揃えるそうだ。
「すまない。おれ達お金を持ってないんだが……」
恥を忍んでそう申し出るとアレックスがおれの背中をバシッと叩いた。
「そんなの気にするな! おれ達のパーティーは王国公認だから金はたんまりもらってる。欲しいものがあったら遠慮なく言ってくれ」
「わぁ! アレックスさん
そう言って咲耶がアレックスの腕に絡みついた。思わずおれは「ぐぬぬ」と歯軋りしてしまった。こうなったらおれも一攫千金狙いで強い魔物を仕留めるしかない。すると横からテレマが肩をぽんぽんと叩いた。
「そんな険しい顔しないのカッシー。昨日カッシーが倒した魔物の素材はちゃんと取ってあるから。あれも売れば結構いい金になるんだよ~」
やはり魔物は金になるらしい。じゃあこっちで魔物狩りでもやれば食いっぱぐれることもないか。
そうこうしているうちに遠くに街らしきものが見えてきた。高い石壁で囲われ大きな門まである。中に入るには許可証が必要らしいが、そこは流石勇者パーティー。アレックスの顔を見るだけですんなり通すどころか大歓迎の様子だった。
都から離れているとはいえ、街はかなりの賑わいを見せていた。屋台のようなものが所狭しと並び、旅人や商人などが多く行き交っている。
「いい匂いだなぁ。ここは市場かなにかですか?」
おれがマリアさんに尋ねると彼女もくんくんと鼻を鳴らした。
「ここは自由に商売していい区画なんです。街の中心に行けばちゃんとしたお店もありますよ。せっかくなのでカシワギさんも武器屋で装備を揃えてみてはいかがですか?」
「武器屋あるの!? 行きたい! 行きたい!」
咲耶がピョンピョンと跳ねながらおれの手を引いた。そんなおれ達にアレックスが笑いながら言った。
「よーし! じゃあおれがとっておきの武器屋を紹介してやるよ。おもしろい武器と防具が置いてあるぜ」
そうして連れていかれたのは路地裏にあるちょっと怪し気な雰囲気の武器屋だった。中に入るとたくさんの武器や防具が飾ってあった。
「おーアレックスじゃねえか。剣でも刃こぼれしたのか?」
そう言いながら店の奥から出てきたのは背は低いががっしりとしてたっぷりの髭を蓄えた男だった。ぱっと目が合った瞬間、その厳つい感じにおれは思わず頭を下げた。そんな男の姿を見て咲耶がこそこそとおれに耳打ちしてきた。
「ねぇあれってきっとドワーフだよ。やっぱり鍛冶屋と言えばドワーフなんだね」
そう言いながらニマニマしていると男がギロっとおれ達を睨んだ。
「おい! そこの二人!」
咲耶がビクッとなっておれに抱きついた。そりゃこそこそ話してたら誰だって不愉快になるだろうさ。おれが娘の代わりに謝ろうとした時、鍛冶屋の男がドスの効いた声で話を続けた。
「おまえさん達もしかしてテンセイシャか?」
本当は転移者なんだがもう今さらだ。男の質問に答えたのはアレックスだった。
「おー流石トンカラ爺さん。よくわかったね」
「当たりめぇよ。しかも二人共ニッポンジンだろ?」
トンカラ爺さんと呼ばれた男の口から出た言葉におれは思わず驚いた。
「ああ確かにおれ達はニッポンジンだが、なぜわかったんだ?」
「こちとら伊達に百年も生きてねーよ。さっき目が合った時頭を下げただろう? ありゃオジギってやつだよな。ニッポンジンがよくやる仕草だ」
こんな異世界にまで日本の礼儀作法を知る者がいるとは驚きだ。やはりお辞儀は遺伝子レベルで日本人に染みついてるものなんだろう。
「ところでトンカラ爺さん。今日はこの二人になんかいい武器はないかと思ってきたんだが、良いのはあるかい? こっちのカッシーが剣士でそっちのサーシャが弓使いだ」
アレックスがそう言うとトンカラ爺さんはおれ達をジロジロと舐め回すように見てきた。咲耶が若干怯えている。
「ちょっと待っててくれ」
トンカラ爺さんはそう言って奥へと引っ込んで行った。そしてしばらくして戻って来ると手には弓と剣を抱えていた。
「これはうちのとっておきだ。こいつなら魔王だってイチコロだぜ」
いや魔王イチコロってチート過ぎるだろう……。まぁ言葉の綾だろうけど。
「おいおい、そんな強い武器ならおれが使いたいんだが?」
「これはテンセイシャが使っていたとされる武器だ。例え勇者のおまえさんでも使いこなせんよ」
そう言ってトンカラ爺さんは黒光りする弓を持ち上げた。
「これはかつて魔王を討ち、魔王になったと言われているリョフってテンセイシャが使っていた弓だ。リュウゼツキュウと呼ばれている」
リョフとはたぶん三国志に出てくる呂布のことだろう。というか魔王を討って魔王となったってどんだけだよまったく……。
「それって呪われてたりしないのか?」
咲耶が使う弓だけにちょっとだけ心配になってしまう。だがそんなおれを余所に咲耶は嬉しそうにその弓を構えていた。
「なんか凄いよこれ! 持っただけで力が溢れてくるっていうか、なんか早く戦いたくなってきちゃう!」
やっぱり呪われてるじゃねーか! 咲耶が戦闘狂になったらどうすんだ! 慌てておれがその弓を奪い取ろうとした時だった。突然その弓が妖しく光り出した。
「ほぉ。どうやら気に入られたようじゃな。テンセイシャの武器は主人を選ぶと言われている。もうそいつはお嬢ちゃんのもんだ」
「やったー! パパ見て見てー!」
咲耶は思いっきりはしゃいでいた。おれが買ってあげたリカーブボウの時より嬉しそうなのは気のせいだろうか。
「次はおまえさんじゃな。これはノブナガというテンセイシャが使っていたもんじゃ」
トンカラ爺さんは台に置いていた剣をすっと鞘から抜いた。それは剣というよりどう見ても日本刀だった。
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