第10話 魔王退治
扉が開くとそこは何もない広い空間だった。床も壁も天井も真っ白で、部屋の中心にぽつんと玉座に座る魔王がいた。
「どういう事だ……」
おれは自分の目を疑った。てっきり魔王は巨大で禍々しい、いかにも悪魔のような姿を想像していた。だが目の前にいる魔王はどう見ても……妻の真樹にそっくりだった。
他の四人を見ると全員が驚いたような顔をしている。そして咲耶は驚いた顔から徐々に眉間に皺を寄せていた。
「げっ……なんで森川がここにいんのよ?」
森川とは確か咲耶の担任の先生の名前じゃなかっただろうか? もしかしてみんなそれぞれ魔王の姿が違って見えているのか?
「どうやら幻影魔法を使っているようね。みんなにはたぶん苦手な人、あるいは恐怖を感じる人物に見えてないかしら?」
テルマがそう言うとみんな頷いていた。確かにこちらを見据えながら睨みを利かせている
魔王はゆっくりと立ち上がると手を前にかざした。その瞬間、正面から殴られたような衝撃が襲ってきた。
「ぐはっ!」
五人同時に吹き飛ばされ壁へと叩きつけられた。
「ぐ……大丈夫か!? 咲耶!」
起き上がりながら咲耶を見ると、彼女はすでに弓を構えていた。
「うん! 平気!」
どうやら武器に宿っていた呂布が一瞬現れ、衝撃から守っていたようだ。なんて使える奴なんだ。それに比べおれの武器ときたら……。
ようやく立ち上がるとすでにアレックスとテルマは攻撃を仕掛けていた。
「うぉぉりゃああーーー!!!」
アレックスが大剣で切りかかるが見えない何かに弾かれてしまう。
「メガフレア!!」
テルマの放った魔法で魔王は炎に包まれる。だがそれもすぐに消え失せた。
「なんて強さだ……マリア頼んだ!」
アレックスが声を張り上げるとマリアさんが杖を構えた。
「女神の光よ、彼に力を――」
マリアさんが持つ杖が光ると同時にアレックスの体が光り輝いた。再び剣を振り下ろすと空間に亀裂のような物が走った。
「サーシャ! 同時に行くよ!」
テルマが魔法を放つと同時に咲耶が矢を射る。二つの攻撃が更に亀裂を広げ、まるでガラスのように目に見えない何かが砕け散った。
「カッシー!!」
アレックスが叫ぶよりも先におれの体は動いていた。魔力を込めながら魔王目掛けて刀を振り下ろした。その瞬間、真樹の顔をした魔王と目が合った。
「うっ……!」
おれは思わず手を止めてしまった。その一瞬の隙を突いて魔王の手が怪しく光った。そしてその指先に光が集まり、小さな球体となっておれに迫ってきた。
「危ないっ!!」
球体がぶつかる寸前、アレックスがおれの盾となり目の前に立ち塞がった。
おれ達は折り重なるようにして吹き飛ばされた。地面をごろごろと転がりようやく止まる。
「大丈夫か!? アレックス!」
アレックスはすでに気を失っていた。魔王が再び両手を広げるとその両手の平が光り出した。さっきの攻撃と同じ魔法だ。だが球体の数がみるみる増えていく。
その時だった、咲耶が弓を構えながら叫んだ。
「パパっ! あいつの頭上に袋を投げてー!!」
おれは咄嗟に腰にぶら提げていた袋を放り投げた。袋は曲線を描きながら魔王の頭上へと飛んで行く。片目を閉じた咲耶がそれを鋭く射抜いた。
ヒュン――
矢は袋を突き破り中から黄金の大豆がばら撒かれた。星屑のように散らばった豆は眩いばかりの光を放つ。その光は魔王の体を貫き、その体から煙が上がり始めた
咲耶がおれをちらりと見た。そしておれも娘を見た。
「「オニハソト! フクハウチーー!」」
二人の声が重なる。魔王を貫いた光は更に広がりその体を飲み込んでいった。
「ギャアアアアアー!!!」
魔王の断末魔が響き渡った。そしてその声は光と共に消えて行く。
魔王の姿は跡形もなく消え失せていた。
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