第3話


翌日の朝。

異世界メチャ売れ商会。

2階、中央の間。ミーティングの時間が始まる。


そこに集まったのは、5人。

先生が壇上に現れ、数を数える。


「ふむ・・・1名の脱落者・・・さて、各自、昨日の報告を願おう」

ここは2日にして3人が辞める会社。


「ちょっと待ってくれ先生!話を聞いて欲しいんだ!」

俺はビシッと手を挙げた。


「また、君か。30個売ったら、話を聞くと言ったが・・・意見するということは、30個売ったのかな?」


売ってるわけがない。

30個も売れない。自爆営業をする金も無い。


「昨日はゼロです」


あっさりと、昨日の火魔石の販売成績を報告した。


「ぜ、ゼロぉ?その癖に私に意見しようと?」

「いや、違うんです!#相談__・__#です」

「相談?」


今日は働き出して3日目。初日に言ってた。相談や報告の為に朝のミーティングの時間を設けていると。モノは言い様だ。相談って名目なら聞いてくれるはずだよな、先生?



「先生の魔石の売り方を学ばせて欲しいのです!お願いします!」




その一言に、先生は苦い顔をした。火魔石自体の文句が通らないのなら、売り方を聞くしかない。もちろん、この先生と呼ばれるやつはこんなに偉そうな態度を取るんだから・・・


もちろんアンタは売れるんだよな?

俺の言葉の裏はそういうことだった。

先生はそれを読み取ったから、苦い顔をしていたのだ。


ふふふ・・・どうだ!?

この粗悪品は誰が売っても売れねーんだよ!



「ははは・・・いやぁ・・・僕にもそういう時期があったなぁ・・・」

遠くを見るような目で、先生が語る。


「売り方のスタイルは、自分で探し出すものですよ。今すぐに売れないかもしれません。それでも、積み重ねていくのです」

「自分で探すもの・・・?」


「おっと・・・すみません、上長の会議と被っていました。私はこちらで・・・」


俺からのレスポンスを無視するように、先生は去っていく。


卑怯者だ。逃げやがった。





「あの・・・」

昨日、俺と話をした同期の女が話しかけてきた。

「ああ、君は昨日の」

「今日はありがとうございました」

「なにが?」


別に感謝されることなんて言ってない。


「貴方のお陰で、今日は先生に報告せずに済みました」


なるほど。そこかよ。


「つーかさ、どうすりゃ、売れるんだろうな」

「あの・・・私・・・辞めようかなって思ってます」

「この仕事?」

「はい・・・」


諦めるには、早くね?と思ったが、俺には彼女を引き留める義理はない。そもそも、自分の売上も無いというのに他人の心配をする暇もないのだ。


「そっか・・・」

「このままだと、給料はマイナスになってしまいますし・・・」

「マイナス?そりゃ、自分で買ってたら、金は無くなっちゃうよね」


「それだけじゃありません・・・火魔石販売は、売れば売るほどボーナスはつきますが、売れなければ、売れない程に給料はマイナスになるんですよ」


んー?


え?


売れないと、給料がマイナス!?


「ちょ、何だそれ?」

「話を聞いてなかったのですか?」

「うーん、都合の悪いことは聞こえていなかったような・・・」





女の説明を・・・というか、改めてこの仕事の小難しいルールを思い出しながら、俺は魔石を売る為に街へ繰り出した。


日常生活にも役に立つ、火魔石。

1つ250エーツで販売する。

1つ売ると、50エーツの歩合給が手に入る。これは、基本給とは別だ。


ここまで聞けば、聞こえは良いのかもしれない。しかし、実はこれにはカラクリがあった。俺たちは250エーツで販売する火魔石を200エーツで仕入れている扱いになる、というのだ。


その理由はよく分からん。


とにかく、言えることは、売れなかった火魔石の仕入れ価格200エーツ×仕入れ数分を毎月支払わなければならない。

何故か毎月の仕入れの数は200個と決められている。


基本給が15万エーツ。そこから、魔石の仕入れ費用200×200=4万エーツを支払う。この理屈よく分からんが、とりあえず・・・


実質の基本給は11万エーツなのだ。

まず、この仕入費用を取り返す為には、火魔石を800個売らなければならない。


そして800個を越えてからが、売れば売った分だけ金が入っていくという仕組みだ。


まず、800個売らなきゃならないし、そのハードルはめちゃくちゃ高い。


「火魔石、いかがっすかー?」


声を張り上げて、街行く人に興味を持ってもらおうと頑張ってみる。しかし、見向きもされない。





その日も1つも売れないまま、夜を迎えてしまった。時間帯がいけないのかもしれない、そう思って俺は少し遅い時間帯に露店街で販売をしてみたりもしたが、効果はなかった。


るろうに荘に到着する。へとへとの身体で、肉体労働よりも肉体労働な気がするし、精神的に疲れると、身体の疲れが倍以上な気もする。


こんなにもモノが売れないと、自分がダメな人間なのだと思い知らされる。


こんな感じなら、肉体労働の方が良かったのか・・・?なんて思ってしまう俺。


「シスル!元気なさそうだね。こんな時間まで仕事?」

「まぁな・・・」


目の前に現れたのは、俺と同じ流れ者のセイタだ。セイタは小柄で年齢も俺より下で、まぁざっくりいうとガキって感じがする。


「今はどんな仕事を?」

「これ売ってんだよ」

俺はカバンから火魔石を取り出してシスルに見せた。

「魔石売ってるんだ!みんな買うから大売れじゃ無い?」

「これ、いくらだと思う?火魔石だけど」

「50エーツくらいっしょ?」


「250エーツな」


「えっ・・・」

その金額に引いているシスル。


「全然売れねーよ」

「何でそんなに高いの?」

「うーん・・・」

「機能的に凄いの?その魔石?」


「いや・・・」


あれ、粗悪品なのに

どうしてこの魔石はこんなに高いんだ?





シスルと別れた後、自分の部屋で眠る。真夜中にパチリと目が覚めてしまう。成績不振で、眠れないのかもしれない。


先程言われた事が気になった。どうして、メチャ売れ商会の魔石は高いのだろうか?


どうして・・・


あくまでセイタの話だが、普通、あの手の火魔石は50~100エーツで買えるという。どうして俺はそれを200エーツで購入し、250エーツで売らなきゃならんのだ。



ん?



そもそも、どうして200エーツで買うんだ?理由が分からない。元からどうしてこんなに高い仕入れの値段なのだろうか。

給料からマイナスされるわけだし。仕入れの値段は安い方がいい。そもそも、他から高くても100エーツで仕入れられるというのに・・・。



ん?



ー〝営業スタイルは自分で模索するものですよ〟ー



そう言うことかよ、先生・・・


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暗闇労働譚 -異世界にもブラック企業はある- @harusumi

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