第2話



異世界メチャ売れ商会。

入社初日。

火魔石は1個も売れなかった。

全くもって売れなかった。


俺はかなり落ち込んだ。

なんだろう、商売を甘く見ていたのだ。ゴリゴリに売り飛ばして、成績も給料もアップ!そう思っていたのに・・・。


その日の帰り道。

同じ場所で同じく火魔石を売り込んでいた同期の男がいた。

俺と同じ様に落ち込んだ顔をしていたので、話しかけてみた。


「売れた?」

「売れない」

「魔石ってこんなにも売れないものなのか?」

国民の全員が魔石を持っているように思える。それぐらい普及しているものだ。生活必需品なのに、売れない。


「どうやら、ウチが仕入れる魔石がダメみたいですよ」

同期の男が言う。

俺も客から聞いた言葉だ!

「それ!俺も聞いたぜ?」

「売れないもの、売れって言われてもねぇ・・・」

「よし!明日のミーティングの時に先生に話をしてみよう!粗悪品だって客が言ってた!ってな!」

「そうですね」

「お前、名前は?」

「私の名前はエチゼンです」

「エチゼン!よろしくな!俺はシスル!明日、抗議するぞ!売れば売るほど、ボーナスも貰えるからな!」


強い仲間が加わった。エチゼン。明日はコイツと共にミーティング時に上司である先生に訴えかける。

作戦をふたりで企てた。


そもそも、粗悪品を売ろうって考えがおかしい。

めちゃ売れ商会には意識を正して欲しいもんだ。





「ふぅ~、疲れた」

ベッドに横たわる。どふっ、っと俺の体重が布団にのし掛かると、布団は埃やダニを吐き出した。


カビ臭い建物の一室。

ここは〝るろうに荘〟と呼ばれる場所だ。身寄りも金も無い、俺たち流れ者の為に存在するアパート。生活が安定するまではタダで借りる事が出来る。


夜になった。窓から月を見ている。雲で隠れたり出て来たり、忙しい。


(早く、稼いで・・・このアパートから出なきゃなぁ・・・)


働かなければ、金は手に入らない。この世界で生きていく為に、スキルの無い俺には金が必要だ。だから、働かなくちゃならない。


火魔石が売れねぇ!なんて言ってる場合じゃ無い。売って売って、稼いで稼いで・・・独り立ちしなきゃならねー。


燃える決意と反比例し、俺は静かに眠り始めていた。流石に疲れていたのだ。

気疲れというやつか。





翌日。

いつもより、2倍増しの気合を入れる。るろうに荘から歩いて30分ほど。

異世界メチャ売れ商会の建物に入る。


この仕事は、朝に販売チームでミーティングをし、各自販売に行き、そのまま帰る、というシステムになっていた。


「おはようございます!」

気合を入れて部屋に入る俺。ミーティング部屋は、とても静かであった。なんというか、漏れ出している・・・負のオーラ的なものが・・・。


周りのメンバーに話しかけようにも、皆が話しかけんなオーラを出している。あっ、そういえば昨日のアイツは・・・?エチゼン。


ファっ!?エチゼン!?

いない。


後にわかる事だが、エチゼンは初日で仕事をバックれていた。


「さぁ、ミーティングを始めますか」


先生が現れた。壇上に立ち、人数を数える。

「6人だな。2人脱落・・・と」


どうやらここは、初日で2人辞める職場のようだ。






「さて、では昨日の成果報告からお願いしますね」

壇上の先生が部下たちへ偉そうに指を差し、成績の報告を求め始める。


まずは、ひとりめの報告だ。

次に俺の順番が来るっぽい。


「昨日は・・・実家に帰って、父と母から、計20個、買ってもらいました・・・」


ま、マジ?


その報告に俺は虚をつかれた感覚に陥る。

その手があったか・・・と。家族に買ってもらう、というやり方か。

でも、流れ者の俺には家族や親族なんかいないからそれは無理か。


「ふむ。ちょっとたりない気がしますが・・・初日にしては素晴らしい成績ですね」先生がまずまずの顔をしている。

「ありがとうございます!」


「では、次」


壇上から指名される。

俺の報告の番だ。1個も売れなかった俺の・・・報告。


「はい、その・・・あれですね。昨日は露店街に行きました。露店街で声をかけて、販売しました。はい」

「何個売れましたか?」

「まぁ軽く50個は売り出す気合いで、30個近くは売れそうな雰囲気で・・・」

「何個売れましたか?」

「そうそう!そうだ!言われたんですよ!めちゃ売れ商会の魔石は粗悪品って!それでいて、高いって!」

「何個売れましたか?」


「・・・ゼロです」


「その異様に#立つ弁__・__#が商売に活かされることを期待しますよ」

先生の嫌味にイラッとする俺。


「なぁ、先生?聞いてる?粗悪品らしいぜ、この火魔石は。そんなの売れって言ったって、無理があるだろ?」


先生は俺の話を無視して、他の人員に報告させはじめた。残りの4人の人員たちは皆等しく、5個と報告している。


「なぁ!俺の話を聞けよ!」


「貴方だけですよ。0個は」

先生は俺を嘲笑っている。

「だーかーら!粗悪品なんだから、0個になるのはしゃーねーだろ?」

「それでも貴方以外は、1個以上は売ってますが?」


確かに、それは事実であった。


「ぐぬぬ・・・」


お前だけ成績不振の無能だからな!と言われてる気がした。俺は顔が赤くなる。


「意見を通したいのなら、30個は売ってきて下さいよ」

高笑いしながら、先生は消えていく。残されたメンバーはそれぞれ魔石を売りに散らばる。


馬鹿げた提案だ。

売れない理由を改善する為に意見する。

その意見をする為に、売れないものを売らなきゃならない?


矛盾じゃねーか・・・。


でも、こんな事で折れる俺じゃねぇ。

ここで折れる男は三流だ。俺は違う。


売るぜ!


今日も200個近くの魔石を持って、街へ繰り出す。カバンは重いけれど、前職ではもっと重いものを持っていた俺からすれば、屁でもない。


クソだったはずの仕事が役に立つこともあるのだな、と思った。





露店街は今日も活気に溢れている。多くの人が練り歩き、賑わっていた。今日も俺はそれを売ろうと意気込む。粗悪品の火魔石。どうやっても売れる気はしない。


場所を変えてみるか。

俺はそう思った。

把握できていないだけで、露店街には魔石を売っている店があって、皆がそこで火魔石を買っているかもしれないからだ。ここで戦っても、粗悪品は売れるわけがない。


そういうわけで俺は王都内を転々と練り歩いた。王城の前。いつしか俺が仕事した大きな塔の前。はたまた、職業安定所の前。飲食店街。

色んなとこを練り歩き、声を張った。安く無いのに、安いよ安いよ〜!なんて声を張り上げた。



が。しかし。



(ヤベェ・・・30個どころか、1個も売れねぇ)



胸がキュッとなる。

明日の報告でも、また0個なんて恥ずかしくて言えない。俺はショックだった。皆が5個は売っていたという事に。やる気はある方だ。負ける気はしなかったのだが・・・。


「あっ・・・」


人気の無い路地に、同期の女がいた。

コイツも朝の報告では5つの火魔石を販売したという。

こんな所で?売れたのか?

俺は恥を忍んで、この女に売り方のコツを聞く事に決めた。


「貴方は・・・朝の・・・」

女は俺を見るなり、少しビビっているようだ。

「頼む!教えて欲しいんだ。どうやれば売れるんだ?この場所がいいのか?」


「いや・・・その・・・」


「みんなすげーよな。俺は今時点でも0個だぜ?どうすればいいんだろう」


「ごめんなさい」

「え?教えてくれない的な?」

「そうじゃなくて・・・教えられないというか、教えようがないというか・・・」

「ん?」


「私の昨日の成績の5個は、自分で買った数字だから・・・」


「え?自分で?」


「私たちは同期4人で集まってたの。0個じゃヤバいよねって。だから、自分たちでとりあえず買おうって結託したの」

「なるほど・・・」


前世の記憶は無いのだが、何故か〝自爆営業〟という言葉が思い浮かんだ。自分で買うか、家族に買ってもらうか。

そうでもしなければ売れない。火魔石。何故なら粗悪品だから、だ。


「でも、このままじゃ、働きに出たのに金は無くなってく一方だって・・・私はそう思って、塞ぎ込んでいたんです」


「やっぱり・・・やるしかない。俺、明日、抗議してみるよ」



ムカつくぜ。あの野郎。先生め・・・



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