甘い夢

高黄森哉

夢のような話


 昔、ある国の人々は、とても苦しい生活をしていました。どれだけ、苦しいかというと、ここでは、書けないくらいです。なぜ、苦しいのかというと、食べ物がなかったからでした。


 この国は、水もなく土も良くない、荒れた土地しかありません。そのうえ、今年の夏は寒くて曇りばかりだったため、穀物をほとんど収穫できませんでした。今は、残り少ない倉庫の穀物を、死なない程度に少なく食べて、暮らしています。


 ある日、人々は中央の公園に集まって祈りを捧げました。どうか、食べ物をください、神様、私たちに食べ物を恵んでください。すると、ある少年の下に、風が吹いて、耳元でささやき声がしました。


 なにが食べたい。


 少年は、お菓子が食べたい、ととっさに言いました。彼はいままで、ほとんど、お菓子を食べたことはありません。一度だけ、誕生日の日に、一かけらのクッキーを、食べたくらいです。だから、お菓子が食べたい、と答えたのです。


 少年がそういうと、広場のはるか上空に、雲がぐるぐると集まりだしました。そして、お菓子の雨が降ってきます。はるか上空から降ってきたのに、頭にあたれど、痛くはありません。ふわふわと、綿あめのような速度で、落ちてくるからです。


 人々は久々の食事に、涙を流しました。たくさんのお菓子をかき集めて、頬ばりました。食べきれない分は、倉庫にしまっておきます。雲からの来たお菓子達は不思議と腐ることはありませんでした。


 これで、冬を越せる。来年こそは、暖かな夏になるだろう。国民は、そんな希望を持っていました。とても、甘い夢のようなお菓子を口に含みながら、そう考えていました。倉庫のお菓子は魔法で減ることはありませんでした。


 そして春が来ました。中央公園は植物が生い茂り、鳥が鳴き、蝶が舞い、池には冬眠していた魚達が泳いで。花が咲き、カエルが跳び。その風景に、人間だけが、欠けています。


 公園だけではありません。この国には人っ子一人いません。皆、死んだのです。糖尿病で死んだのです。甘い甘い夢を食べ過ぎて、健康の均衡を崩して、悲惨に手足が壊死して、死んだのです。

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甘い夢 高黄森哉 @kamikawa2001

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