最終話 やられ役と負けヒロインの同盟は永遠に……

 人はなぜ勝ちたいと思うのだろう。


 勉強で勝ちたい。運動で勝ちたい。果ては恋愛にまで勝ち負けの優劣をつけようとする人もいる。


 しかし、勝つ事だけが全てじゃないぞ。むしろ真に美しいのが負けというまである。


 いつかやられ役の属性を持つ俺が、それを皆に見せつけてやろう。


「ふあ~」


 Eクラスにも日常が戻ってきた。

 今は休み時間だが、やはりこのクラスは騒がしい。


「あ、そうだ! コミュ障ちゃん。この前はありがとな」


 コミュ障ちゃんへのお礼をまだしていなかった。

 本来なら、一番にやっておかなければならなかったことだ。

 彼女のおかげで命が助かったんだからな。


「……っ!」


 俺に礼を言われたコミュ障ちゃんは一目散に逃げだした。

 ああ、今は属性が直ったから、彼女はいつも臆病な姿へと戻ったんだな。


 もう二度とコミュ障ちゃんの声は聞けないのかもしれない。綺麗な声だったから、少し残念だ。

 あの時、本名くらいは聞いておけばよかったかな。


 俺の隣にはひねくれ女子がいる。

 しかし、俺たちは全く会話をしない。

 まあ、テスト勉強の時が特殊で、この光景が普段の状態である。


「あ、あのさ。また、あたしの力が必要になったら、言いなさいよ。頼み方次第では、聞いてあげるような気がしないでもないかもしれないわ」


「……分かった」


 いや、何を言ってんのか全く分からんけど、言いたいことは分かった。

 本当にひねくれた言い方しかできないんだな。


 考えたら、『ひれくれた言い方しかできない』というのも、かなり不幸だよな。

 昨日のこいつの本心を聞いた後なだけに、ちょっとかわいそうな気もする。

 まあ、なんかあったら、こいつを頼ってやるか。


 解説者に紫苑にミミにボマーちゃん。

 彼女たちもいつも通りの日常を送っている。


「鎌瀬君、もっと君について解説させてくれよ」

「鎌瀬君、いつ私の犬になってくれるの?」

「鎌瀬さん、次の放置プレーはまだですか?」

「爆破したい爆破したい爆破したい」


 心なしか、やたらと絡んでくる機会が増えた気がする。

 ああ、サチの能力のせいか。負けヒロインの力で俺に女の子が寄ってくるようになっているんだった。

 一つ言えることは、俺の周りにもちょっとした変化があったって事だな。

 それと、そこのボマーちゃん。爆破は怖いからやめてね!


「ふふふ、本当にこのクラスは可愛い人だらけですね♪」


 小悪魔もEクラスに遊びに来る頻度が増えている。このクラスは完全に彼女のお気に入りだな。


「というか、舌なめずりがこえーよ!」


「先輩。油断したらすぐに私が落としちゃいますから頑張ってくださいね」


 いったい何をどう頑張れというのだろうか。 


「いたわね! やられ役!」


 そして小悪魔の隣には支配者がいた。しかも目的は俺らしい。


「よう、支配者。もう体調は大丈夫なのか? この前は悪かったな」


 勝負だったとはいえ、ちょっと言い過ぎた。

 思った以上に傷ついていたらしいので、一応は謝っておく。


「そ、それはもういいのよ。…………あ、いえ、よくないわ。お詫びに今度この学園を支配するのを手伝いなさい!」


「え~」


「拒否は許さないわよ。貴方、私に支配されているのを忘れてないでしょうね!」


「げっ」


 そうだった。まだ効力が続いてんのかよ。


「ち、仕方ない。分かったよ。手伝ってやる」


「ふふふ、いい返事ね。いつかこの学園の奴ら全員を私の子分にしてやるわ!」


 支配者の子分となった俺は、彼女が学園を支配するのを手伝う事になりました。

 これだけでまた新たな物語が出来る予感である。

 でも、やられ役の俺が手下とか、支配するのにどれだけかかるんだか。

 かなり根気強く頑張る必要があるだろうが、そこは支配者の根性次第か。


「ああ、いたわね。やられ役」


 今度は生徒会長まで現れた。


「この前は悪かったわね」


 かなりしおらしい態度となっている。前回の件の事を気にしているらしい。


「そうだ。今度『破壊王』がEクラスに転入する事になったわ」


「待てい! 封印はどうした!?」


「あの子、何故か心変わりして、破壊の力を正しく使うつもりらしいわ。だから、もうすぐ封印は解かれる」


「そ、そうなのか」


 なんか知らんが反省したらしい。

 それは良かったが……


「ただし、条件としてEクラスに所属させる事。それと、あの子は貴方がお気に入りみたいだから……よろしくね」


「…………嘘だろ」


 なぜ俺なんだ!?

 いや、サチの能力か。破壊王も女の子だからな〜。

 頼む。俺に関わるのは男の子だけにしてくれ!


「呼んだっすか〜」


「おお、雑兵」


 俺の心の友、雑兵である。

 あれから俺たちはこうやってよく駄弁っている。

 属性が壊れた時の台詞は忘れて欲しいと土下座されたので忘れる事にした。


 ちなみに炎使いもたまにEクラスに訪れる。

 そしてボマーちゃんと何処かへ行く。

 なんでも人のいない空き地でどれだけの爆発を起こせるか日々追求しているらしい。

 いつか地球が爆発しないか心配である。


「鎌瀬君。モテモテだね。羨ましいね。やれやれだぜ」


「お前にだけは言われたくないぞ。優斗」


 優斗も属性が戻ったので、何事もなかったかのように、今はヒロイン達に囲まれていた。

 羨ましい奴め……と言いたいが、最近は俺も似たような立場になりつつあるので文句は言えない。


「ねえ、鎌瀬君。久しぶりに勝負しない?」


「アリスか。怪我は大丈夫みたいだな」


「おかげさまでね」


 話によると属性が戻った瞬間、アリスの傷は手品のように綺麗さっぱりと治ったらしい。

 いつもの日常が戻ったという事は、俺はアリスに負ける日々に戻るという事だ。

 近頃は自然に負ける事が多かったので、アリスとの勝負も久しぶりだ。


「あのさ。私、最近おかしいんだ。君と一緒にいると、変に胸がドキドキする」


「あー。それな」


 『ランクが高い美少女ほど俺に惚れてしまう』。属性開放したサチの力だ。

 ただ、それを言うと、俺が記憶を失っていないことが神にバレるかもしれない。


「もしかしたら、何者かに攻撃を受けているかもしれないぞ」


 とりあえず、誤魔化した。というか、嘘じゃない。


「いやいや、『主役』の私にそんな攻撃は効かないよ。無効化できるし」


「ああ、それもそうか」


「ま、気が向いたらまた勝負してよね。君との勝負は楽しいし、君は……私の目標だからさ」


 ちょっとだけ照れた表情で席に戻るアリス。

 やっぱりあの時の約束は忘れていなかったか。


 ん? 待て。アリスは他人の能力が効かない。

 これは主役の力だから間違いない。


 だったら、俺に対してドキドキするってのはどういう事なんだ?

 サチの能力は無効化できるはずだろ。


 まさか、アリスが俺の事を好きになりかけているのはサチの能力は関係なく、ガチだった?


 いや、主役のアリスがこんなやられ役に素で惚れるはずはないか。

 サチの能力が強すぎるのだろう。


「ふふ、どうでしょう。真相は謎なのです」


 隣にはいつの間にか俺の顔を覗き込んでい笑っているサチがいた。


「ねえ、かーくん。私ね、最近すごくいい事があったんだ。なんと、好きな人に告白できたんだ。しかも、両思いだったんだよ!」


「そりゃよかったな。目標達成じゃないか」


「でも、その人、忘れちゃってるみたい」


「そ、それはけしからん奴だ」


「そうだね〜。忘れちゃったのかな〜。それとも、忘れちゃった『フリ』なのかな〜。どっちかな~」


 サチが笑顔のままグルグルと俺の周りを回っている。

 こ、こいつ。全て気付いているのか!?


 ふと思う。


 これまでの全てがサチの計算ではないのかと。

 これが腹黒ちゃんの正体なのか!?


「真相はこの同盟を続けていけば、分かるかもね」


「そうだな」


 時間はたっぷりある。死亡フラグは回避したんだからな。

 クズのやられ役に設定された俺が負けヒロインと同盟を組んで勝利し、見事に死の因果を歪めたのだ。

 一時的とはいえ、負けヒロインの告白までこぎつけた。


「かーくん、大好き。今度こそ、きちんとキスしようね!」


 満面の笑みとなるサチ。久々に見た心からの笑顔の気がする。


 まだ俺たちの同盟は終わらない。

 やられ役と負けヒロインの日常は、永遠に続いていくのだ。


 さあ、始めるか。


 やられ役の俺が勝利し、負けヒロインの恋を実らせる新しい作戦を……


「さ、かーくん。同盟活動を始めよう」


「そうだな。じゃあ、次の作戦は……」



――――




 神様からクズのやられ役に設定されてしまった俺、負けヒロインと同盟を組んで死亡フラグを回避します……終わり☆


 最後まで読んでくれたあなたに心より感謝を!!!

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神様からクズのやられ役に設定されてしまった俺、負けヒロインと同盟を組んで死亡フラグを回避します でんでんむし @dendenmusi3

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