第8話 踊り子

 佐々木と青木は、二人の部屋に戻った。

 満月の灯りが部屋に差し込んだ。

「僕たち審問官には、超越的な権利行使も許されている。諸外国では人権侵害との批判もある」

 青木は反論した。

「でも、真実の探究には必要だ」

「真実を知る手続きには正当性が必要だ」

「でも、俺は何が真実か分からない」

 青木は少し黙り、天井を見た。

「君は悪くない。君は何も悪くない」

「そうだな、俺はただの歯車だ。ただの歯車に意味はない」

 青木は、壁にかけてある銀の盾と銃を見た。

「なあ、佐々木、それは本物か試したことはあるか?」 

 佐々木は何も答えなかった。

「俺たちは狂っても、意味のあることをしよう」

 佐々木は首を縦に振った。



「なぁ、ちょっといっぺん死んでみないか」

「あぁ。そうしよう」

 机の上に、銀色の銃と弾丸が2つずつ。

 ゆっくりと、弾を装填し、二人は立ち上がって、それぞれの胸元に銃口に向けた。

 その時、青木の左腕が一回揺れた。佐々木は慌てなかった。

「大丈夫だよ」

 そう言いながら、佐々木は左手で青木の左腕を掴み、抱き合うように引き寄せた。

 銃声が響いた。

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月明かりの踊り子 水乃 素直 @shinkulock

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