ハッピーエンド
ハッピーエンド(?)
異世界に転移した瞬間、俺は拍手とともに迎えられた。
「きゃー、勇者様よ!」
「魔王を打ち倒してくれてありがとう!」
「これで世界の平和は保たれた!」
大勢の人々が歓声をあげ、俺に向かって手を振っている。
それ自体はうれしいのだが、問題は俺は特に何もした覚えがないということだった。
飛び交う花びらに塗れつつ王宮にたどり着くと、今度はこの国の王様が直々に出迎えてくれた。
「勇者よ……。此度の働き、誠に感謝する」
頭を下げる王に申し訳ない気分になってきた俺は慌てた。
「いえいえ、そんな大層なこと、私は何もしてないんですが……」
「そのように謙遜せずとも良い」
王も大臣も兵士たちも皆が私に注目し、敬礼した。まるで国全体が俺を英雄として扱っているようだった。
どうしたらいいんだ、俺は。
まだ十分前ぐらいにこの世界に来たばかり俺は困惑するしかなかった。
「どうだ、勇者よ。今後、この世界に残る気はないか?」
よほど気をよくしたのか、王は気前よくこんな提案までしてきた。
「実は、末娘の結婚がまだでな。もしお前さえよければ、領地と城を与えて……」
「けっ、結構です!!」
あまりの急展開に、俺は普通に断ってしまった。
「そうか……。それでは不満だったか」
王は少し寂しそうな顔をした。
同時に、周りの家来たちが少し嫌そうな目で俺を見つめた。
やばい、なんとか適当に逃げ口上を言わなくては。
「元の世界においてきた家族が心配なのです。もう何年も会っておりませんので……」
俺は頭をフル回転させたが、こんな言い訳しか思いつかなかった。
これで大丈夫だろうか。
「よかろう。故郷が恋しいと思うのも当然のことだ」
王は微笑むと魔法使いたちを呼んで、俺が元いた世界につながるポータルを開かせた。
「勇者よ、またいつでも戻ってくるがいい。それまでしばしのお別れだ」
こうして、異世界転移からわずか二十分で、王は俺を元の世界へ送り返した。
数日後、高校の友達と帰り道に話していた時。
「でさー、俺、こないだ異世界に召喚されたんだけどさ、すげえVIP待遇だったんだよねー」
「嘘つけよ」
「ホントだって。国中が俺に感謝して、王が娘と結婚させてくれる、とか言い出してさ」
「寝言は寝て言え」
もちろん、誰も俺の話なんて信じなかった。
それでもいい。
たった二十分ではあったが、異世界であった出来事を思い出して、俺はハハ、と笑った。
【短編集】こんな異世界はイヤだ! 中原恵一 @nakaharakch2
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