夢か現か悪役令嬢!? 〜悪役令嬢に転生しちゃったみたいですが、ハッピーエンドを目指します!〜

猫兎彩愛

第1話

「レベッカ! 君との婚約を破棄させてもらう!」


 公爵様に告げられた婚約破棄。私はこれからどうなるの? あの忌々しいルナ嬢に公爵様を取られるなんて! 今に見ておれっ!


 これは、ある小説の悪役令嬢が婚約破棄され追い出されるシーン。主人公を虐めてばかりの悪役令嬢なんて、婚約破棄されて当然ね。


 そう思っていたのに……いたのに! 私は何で、レベッカなのーっ!?


 ❇


「やっと終わったぁ!」


 季節は真冬。仕事を終え、屋上のベンチの上で缶コーヒーを飲む。深夜だったからか、珍しく空気も澄んでいて綺麗な星空。仕事の疲れからか、私はいつの間にか眠ってしまっていた


「……さま、お嬢様…… 」


 何だか身体が重い。誰かが呼んでる? いけない、きっと寝てしまったんだわ。起きなきゃ。


 目を開けると、見た事の無い天井? 否、キラキラしたカーテンが目に入った。それに、フカフカでフワフワなお布団の上にいた。


 これは夢? ここ何処?


 眠い目を擦りながら、ゆっくり起き上がる。すると、それに気付いたメイドらしき人がこっちに来た。


「レベッカお嬢様、お目覚めですか?」


 レベッカお嬢様って誰?


「れべっかおじょーたま? あなたはだれ?」


 え? 何よこの声? 子供みたいじゃない。『たま』って何よ! 『たま』って!


「お嬢様? わたくしはメイドのサラでございます。早くお着替えしましょうね。はい、バンザーイ!」

「バンザーイ!」


 条件反射なのかつられて言ってしまい、両手を上げる。何だか恥ずかしい。

 サラは慣れているらしく、手際よく着替えさせてくれた。


 この至れり尽くせり感。私、お嬢様なの?


 気になりベッドから飛び降りて、大きな鏡の前に立つ。五歳くらいの金髪美少女がそこに居た。ドレスも可愛い。


 こ、これが私? 本当に? 


「可愛い! 素敵っ!」


 うん、これは夢だ。夢。


 夢と決め、開き直り楽しもうとしてた矢先、急にサラの笑顔が消え、何やら慎重に聞いてきた。


「お嬢様、きょ、今日のドレスは気に入っていただけましたか?」


 ん? サラ、何かに怯えてる?


「えと、ピンクのフワフワで可愛いです! ありがとうございます!」


 そう言うとサラはホッとした様子で、驚いた顔もしていた。


「え? あ、そ、そうでございますか? それは良かったです。えと、あの、私なんかに敬語など使わなくてよろしいですよ?」


 何に驚いているの? 子供らしくなかったのかな? だとしたら気を付けないと。それにしてもリアルな夢……違うのかな? もしかして、あのまま亡くなって今流行りの転生しちゃったとか?


 色んな事を考えていると、ぐーっとお腹がなった。恥ずかしいけど照れながら、サラの服の裾を引っ張って言ってみる。


「ねぇ、お腹すいちゃった」

「そうですね。お嬢様、お食事にしましょうね」


 美味しそうな食事が並ぶ。


「美味しそー! いただきます!」


 フォークを持って食べようとすると、


「お、お嬢様! お待ち下さい、私が」


 と、フォークを取り上げられてしまった。


 え? 何で?


 サラが、私から取ったフォークで『あーんして下さいね』と、食べ物を口へ運ぼうとする。何だか、それにはイラっとしてしまい、パンッと手を払い除けてしまった。


「自分で食べれるもん!」


 あーあ。子供みたいだな私……


 そんな風に思っていると、バーン! と部屋の扉が開き、偉そうな男性が入って来た。


「何事だ!」


 サラの顔がみるみる青くなる。


「こ、侯爵こうしゃく様っ!」


 侯爵様? サラの顔、青くなってるし。侯爵様って怖い人なの?


 恐る恐る侯爵と呼ばれた人の顔を見てみる。


 これが、侯爵様? 怒ってる様子だけど、綺麗な顔でかなりのイケメンね。それにしても、この顔何処かで?


「愛しの娘、レベッカに何をした!」


 思い出した! この人あの小説の悪役令嬢、レベッカの父! ん? ちょっと待って、さっきレベッカお嬢様って言ってたよね? まさか私、あの悪役令嬢レベッカだったの!?


「も、申し訳ございません! まさか、お嬢様がご自分で召し上がろうとするとは思わず……」


 サラの言葉に、侯爵は少し驚いたような顔をして私の顔を見たが、直ぐに笑顔になり私を抱き上げた。


「そうかレベッカ! 自分で食べれるようになったんだな!」


 そう言いながら、顔をスリスリ。


 何この溺愛っぷり。イケメンに顔をスリスリされるのは悪い気はしないけど。とりあえず謝らなきゃね。


「お父様、ごめんなさい。サラのおててパーンしちゃって、フォーク落としちゃったの」

「レベッカ、今お父様と? もう一度呼んでくれるか?」


 何故かかなり驚いた表情をしながらも、嬉しそうな侯爵。目を見つめ、もう一度呼んでみる。


「お、お父様?」

「レベッカっ! 何て素晴らしいんだ!」


 え? 五歳の子がお父様って呼んだだけで? むしろ今まで何て呼んでたの? 本当に甘いのね。


 レベッカはこんなに甘やかされて育ったんだ。だからあんなに自分一番の我儘で、平気で人を傷付けて、婚約破棄までされる様になったんだわ。だからサラもあんなに怯えていたのね。レベッカに何かあれば、きっと罰が下るのね。


「でも、ごめんなさい。サラに酷いことしちゃった。パーンって、手を叩いちゃったし」

「そんな事気にするな。そこのメイドが無理やり何かしたんだろう? 大丈夫だ。レベッカを傷付ける奴はお父様が叱っておこう」


 そう言いながら、サラの所へ行こうとする。サラは怯えている。


 ……駄目だ。この馬鹿親、どうしようもない。


 サラの前に立ち通せんぼする。


「ダメーーーっ!」

「お、お嬢様」


 サラは驚いているが、嬉しそうだ。侯爵……父は驚いていたが優しい顔になり、


「そ、そうか。お前がそこまで言うのなら違うのだろう」


 そう言い、去って行った。


「サラ、ごめんなさい。私のせいで」


 そう言うと、サラは優しい顔になり抱き締めてくれた。


「良いんですよ。お嬢様、有り難うございます」


 この一部始終を見ていた、周りのメイドや執事達がヒソヒソと話すのが聞こえてきた。私には聞こえていないつもりなのだろう。


「お嬢様がサラを庇った?」

「謝った、だと?」

「あの、我儘なお嬢様が?」

「頭打ったとか? あんなに優しい言葉を掛けるところを見たのも初めてだ」


 これは駄目だ。五歳とはいえここまで酷いとはね。何とかしないと。


 ❇


 午後、出掛けるという父に付いて、馬車に乗る。


「レベッカ、今日はレベッカの婚約者候補に会いに行く事になっている」

「お父様、婚約者って?」


 多分、レベッカに婚約破棄を言い放った公爵様だろう。今はまだ公子様かな?


「レベッカにはまだ難しかったかな? 婚約者というのは、大人になって結婚する人の事をいうんだよ。レベッカは可愛いから、きっと直ぐに気に入られる筈だ」


 まぁ、中身は二十五歳なんだけどね。直ぐに気に入られるって本気で言ってるの? あんなに執事やメイド達から評判悪いのに? まぁ、確かに容姿は可愛いけどね。


 まもなくして公爵邸に着いた。公爵様と男の子が迎えてくれた。ドレスの裾を持ち、丁寧に挨拶をする。


「初めまして、本日はお招きいただき有り難うございます。レベッカ・ローランスと申します」


 この挨拶に公爵様もにっこり。


「これはこれは、しっかりと教養が身に付いているようで素晴らしい。なあ、レオン?」

「はい、お父様。それに……」

「それに、可愛いだろう? 可愛さはこの国でもトップクラスと言われている。それがお前の婚約者になるんだぞ?」

「はい! お父様、嬉しいです! レベッカ、よ、よろしく!」


 レオン様か、可愛いなぁ。きっとレベッカなんかより、あなたの方が可愛いわよ。


「レオン様、よろしくお願いします」


 にっこり微笑みかけてみると、レオンが手を伸ばしてきた。


 ん?


「手!」

「手?」


 手を繋ぎたいのかな?


「繋いでやるから、手、出せよ」

「うん!」


 手を差し出すと、顔を真っ赤にしながら私の手を握る。


「案内してやるよ!」


 いや、もうレオン可愛すぎるんですが。


「ありがとう」

「お、おう……」


 レオンは、ずっと照れながら屋敷内を案内してくれた。


 その後、時々レオンの屋敷に遊びに行くようになり、レオンも何度も来てくれた。

 私は我儘を言い続けてきたレベッカとは正反対に、屋敷の皆とも仲良くし、レオンとの関係も良好。レオンも私にベッタリ。婚約破棄のの字も無いくらいに全てが順調だった。


 そう順調だった、のだ。あの主人公、が現れるまでは……


 私は十四歳で貴族学校に入学していた。卒業後には結婚も控えていたのに、十五歳になったある日、事は起った。ルナ嬢が転入してきたのだ。


「ねぇレオン、この後なんだけど私の屋敷に来るのよね?」

「え? あ、ああ……」


 いつもの様にレオンと二人きりで中庭に居る。いつもはレオンも私にベッタリなのに、今日は何故か上の空。そんな時、声が聞こえた。


「レオン様〜」


 手を振り、微笑みかける女子生徒。そう、ルナだ。中庭に私達が居る時は、絶対他の生徒は入って来ないのに、ルナは入って来る。レオンが私の婚約者と知りながらだ。


「ルナ嬢、どうした?」


 レオンがルナの所へ行ってしまう。


「レオン? 行ってしまうの?」

「ああ、レベッカすまない。また明日な」


 どうして? 今までこんな事無いはずなのに。やっぱり、ルナルートはどうしても変えられないって事?


 モヤモヤ考えていると、ルナが私に耳打ちした。


「どうしてまだレオンと仲良くしているの? 貴女も……もしかして転生者? まぁどう足掻こうと、私とレオンは結ばれる運命なんだから、諦めることね!」


 そう言い、レオンと一緒に去って行った。


 ルナ、今、私の事を転生者って? ルナもそうなの? だとしたら結末を知ってる? じゃあ、また婚約破棄されるの? 今まで頑張って来たのにそんな事って……


 その時、急に目眩がして目の前が真っ白になった。次に気が付いた時には、真っ暗な空、ベンチの上。


 ここ知ってる。私の勤めている会社の屋上だわ。

 今まで、夢を見ていたの? あんなにリアルだったのに? レベッカとして過ごしてきたあの十六年間は何だったの?


 落ち着かない気持ちのまま、空を見上げる。すると、流れ星が。


『もう一度レベッカになりたい。あのままレオンと別れたくない』とただただ願っていた――――




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