第6話 俺だけしかスキルの書は使えないらしい
「【ノアズ・アーク】、ですか?」
俺はヒスイの呟きに力強く頷く。
なんか語呂が
たしかノアの方舟だっけ? 詳しい話は知らね。
「さて。まずはヒスイのこの本を読んでもらいたい」
「? はい」
俺はヒスイにスキルの書を手渡す。
俺が読んだ後の使い回しだが、これを読めば彼女もスキルを獲得できるはず。
しかし、ヒスイはスキルの書をパラパラと捲り、首を傾げた。
「も、申し訳ありません、ノア様。文字が分からないです」
「え、あれ?」
読めない? なんで? 鑑定さーん!!
『解答:ヒスイはスキルの書を読めません』
いや、そういうことじゃなくてね?
もしかしてスキルの書を読めるのって、[ショップ]で購入した俺だけ?
『解答:正解です』
おいこら!! 駄目じゃん!! 奴隷をスキルで強化して戦わせようって作戦がいきなり頓挫したじゃん!!
こりゃ困ったぞ。
『提案:スキル[貸与]の習得を推奨します』
ん? 貸与? もしかして、スキルを付与したりできるの?
『解答:はい。スキル[貸与]は対象の人物や物体にエクストラ以下のスキルを付与できるスキルです』
よし!! それだ!!
俺は早速[ショップ]を開いて、スキルの書一覧から[貸与]スキルを探す。
「うっわ、高っ!!」
「? あ、あの、ノア様?」
「あ、ご、ごめんごめん。何でもないよ、あははは」
ヒスイがいることも忘れて思わず声を出してしまった。
しかし、この金額はヤバイ。
九尾狐を倒して少なからずポイントは入ったが、そのポイントが余裕で消し飛ぶような値段だ。
う、うーん。
まあ、先行投資だと思って割り切れば、ギリギリ納得できる金額かなあ?
俺は悩みながらもスキル[貸与]の書を購入した。
そして、そのページをパラパラと捲ってスキル[貸与]を習得する。
「よし。ヒスイ、ちょっと来てくれ」
「は、はい」
俺の前にちょこんと座るヒスイ。
おお、初めて見た時から思っていたが、近くで見るとより可愛い娘だな。
いかんいかん。
余計なことを考えるのは後にして、俺はヒスイの頭に手を置く。
そして、スキル[貸与]を発動した。
対象はヒスイ、貸し出すスキルは……[全能力上昇]だな。
「!?」
ヒスイが目を見開く。
同時に、俺はまるで大岩をいくつも肩に乗せたかのような倦怠感に襲われる。
これは「全能力上昇」を失ったからだろうか。
『報告:スキル[貸与]の効果により、エクストラスキル[全能力上昇]をヒスイに付与しました。エクストラスキル[全能力上昇]を貸し出したことで、ステータスが大幅に低下します。再びスキルの書を読み直すことで、貸したスキルの再取得が可能です』
合ってた。
スキルを貸すと俺は使えなくなるのか。まあ、当然っちゃあ当然よな。
しかし、スキルの書を読み直すことで再び習得できるのはありがたい。
俺はヒスイに努めて笑顔で話しかける。
組織のボスが気怠そうな表情をしていたら示しが付かないからな。
「調子はどうだ?」
「な、なんだか、力が奥底から湧いてくる気がします!!」
どれどれ、少しヒスイのステータスを覗いてみようじゃないか。
ステータス
名前:ヒスイ 女 Lv1
種族:エルフ
職業:ノアズアーク構成員
体力:10(+100)
魔力:10(+100)
筋力:10(+100)
知力:10(+100)
耐久:10(+100)
敏捷:10(+100)
幸運:10(+100)
所有スキル一覧
エクストラスキル
・[全能力上昇]
ユニークスキル
・[竜紋]
気になるところがいくつかあるなあ。
まず職業がノアズアークの構成員ってところ。何それカッコいい。
俺なんて学生のままなのに。
いや、それよりも気になるのはヒスイの持つユニークスキルだな。
たしかヒスイが奴隷に堕ちた理由が彼女のユニークスキルだって鑑定さんが言ってた。
少し詳しく鑑定してみよう。
[竜紋]
分類:ユニークスキル
効果:自らよりも弱い魔物を寄せ付けず、強い魔物を呼び寄せる。また、獲得経験値が半分になり、レベルアップ時のステータス上昇が倍になる。
おお!! 成長系スキルか!!
獲得経験値半分は重いが、ステータスの上昇が倍になるのは[全能力上昇]と相性がいいな。
何より前半の部分。
弱い魔物は寄せ付けず、強い魔物を呼び寄せるとか最高だな。
強い魔物なら倒した時に得られるポイントもきっと多くなるはず。
今から楽しみだな!!
ん? まだ[竜紋]について何か書かれてるな。
補足:この紋章は、かつて世界を滅亡寸前まで追いやった邪竜が自らを打ち倒した英雄を認めた証明。その印は、輪廻の輪を巡った後も英雄の魂を宿す者に備わる。
えっと……? 鑑定さん、どゆこと?
『解答:ヒスイはかつて異世界を滅亡寸前まで追いやった邪竜を滅ぼした英雄、その転生体です』
何その経歴。
いや、前世のことだから今のヒスイとは関係無いんだろうけど、凄いな。
しかし、かつて世界を救った英雄が配下とか、かなり熱い展開なんじゃない?
良い。凄く良いぞ。ニヤニヤが止まらない。
「ノア様? いかがなさいましたか?」
「あ、いや、何でもないよ」
どうやら顔に出てしまっていたらしい。
秘密結社の首魁として、表情には常に気を付けないとな。
さてさて、ヒスイを戦わせる目処は立った。
「問題は装備だな」
「装備、ですか?」
装備はとても大事だ。
個々人で違うものにしてオリジナリティーを出すのも悪くない。だが、やはり秘密結社は統率感のある格好の方が様になるだろう。
マントは絶対に必要だな。
こう、激しく動いた時に風でなびいて絶対にカッコ良くなる。
マントの下の装備は、革鎧が良いだろうか。
問題はその色。
漆黒というのも厨二心をくすぐられるが、純白も捨てがたい。
いや、魔法少女の獲物を横取りするわけだし、ダークな感じがする漆黒の方が……。
でも妖魔退治は良いことだし、正義を演出するためにも純白も……。
うーむ。迷う。迷うぞ!!
「……よし、決めた」
ここは間を取って灰色にしよう。
悪にも染まらず、正義にも染まらず、ただ戦い続けるだけ。
故に黒でも白でもなく、灰色。
この世から妖魔を駆逐するその日まで、みたいなノリで行くのはどうだろうか。
……いい。凄くいいぞ。
俺は[ショップ]を開いて、灰色のマントと革鎧を購入した。
マントはグレイウルフ? とかいう魔物の素材から作ったもので、魔法攻撃に微かな耐性があるらしい。
鑑定さん曰く、性能の割にはお値打ちとのこと。
「さて、準備は整った。早速、今日からハンティングに行こうか」
「は、はい!!」
ヒスイが明るく返事する。
っと、妖魔狩りに出る前にスキルの書を読み直してまた[全能力上昇]を習得しないとな。
ここからが俺たちの戦いだ!!
―――――――――――――――――――――
あとがき
打ち切りです。
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俺だけ異世界転移を拒否したらっ! ナガワ ヒイロ @igana0510
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