文化祭の裏で交わす言葉

@penta1223

文化祭の裏で交わす言葉

春の陽ざしは、まるで若者の心をくすぐるように町を照らしていた。梓は、毎朝の通学路で桜の花が舞う景色に心を奪われていた。そんなある日、彼女の目に飛び込んできたのは、隣のクラスの彼、純であった。


「おはよう、梓。」純が彼女に向かって微笑んだ。梓は、その笑顔に目を奪われ、照れくさい気持ちで返事をした。「おはよう、純。」


毎日のように二人は通学路で出会い、お互いのことを少しずつ知っていくようになった。純は音楽が好きで、休み時間にはクラスのピアノを弾いていた。その優しいメロディーは、梓の心に深く響いていた。


ある日、純が梓に誘ってくれたのは、学園祭の実行委員会だった。「一緒に何か楽しいことをしようよ。」彼の瞳には期待と興奮が宿っていた。梓は、彼との時間を楽しみにしていたので、迷わずに受け入れた。


学園祭の準備が進む中、二人はさらに互いの距離を縮めていった。夜遅くまで残って飾りつけをしたり、お昼には一緒に弁当を食べたりと、毎日が特別なものになっていた。


しかし、ある日、梓が純の前に立っている女の子と楽しげに話しているのを目撃する。その子は純の幼馴染みで、とても仲の良い友達だった。梓は、彼らの関係を知ってはいたが、その日を境に何かが変わった気がした。


純との会話も、以前のような自然さがなくなり、少し緊張したものに変わっていった。梓は、自分の心に湧き上がる嫉妬や焦燥感を抑えきれず、純に対して冷たくなってしまった。


学園祭の日、二人は約束通り、実行委員として学校を巡って楽しんだ。しかし、梓の心はどこかに行ってしまっていた。純が何度も彼女のことを気にかけてくれても、梓は彼の気持ちに答えることができなかった。


夜、桜の木の下で、純は梓に語りかけてきた。「梓、君と一緒にいる時間が本当に楽しかった。でも、最近、君の様子が変わった気がする。」


梓は涙を流しながら、自分の気持ちを打ち明けた。「純、私…君のことが好きだから…。」


純は驚きの表情を浮かべたが、すぐに彼の瞳には涙が溢れていた。二人は桜の花が舞う中で、お互いの気持ちを確かめ合った。しかし、それは彼らにとって、切ない結末を迎えることとなるのだった。


桜の花の下、梓と純は互いの気持ちを確かめ合ったが、純の表情には何か言えないものが宿っていた。梓は気づきつつも、そのまま彼の温かい抱擁に身を委ねた。


学校が終わる頃、梓は友人からある噂を聞かされた。純が幼馴染の女の子と将来の約束をしているというものだ。梓はその話を信じたくなかったが、何となく納得する部分もあった。


翌日、梓は純を校庭の隅で待ち受けた。「純、君とあの子、本当に約束してるの?」純はしばらく沈黙を守った後、ゆっくりと頷いた。「小さい頃、お互いに両親の事情で難しいことがあり、二人で助け合ったんだ。そのときに、大人になったら必ず結婚するって約束をしたんだ。」


梓はその言葉を聞き、涙がこぼれそうになったが、純のために我慢した。「でも、梓、今の僕の気持ちは本物だよ。君のことを心から愛してる。」


夕方、二人は近くの公園のベンチで座って、静かに時を過ごした。純は、幼馴染との約束の詳細やその背景、そして自分の気持ちを語った。彼女とは家族同士の約束だった。しかし、純は梓に対する気持ちが本物であること、彼女を好きでいることも強調した。


梓は純の手を握り、微笑んで「純、君の過去の約束を尊重する。でも、私たちの間にも新しい約束をしよう。」純は驚いた表情で梓を見た。


「私たち二人だけの秘密の約束。ここで過ごす時間、二人の間だけの特別なものにしよう。」梓はそう提案し、純もそれを受け入れた。


それから、二人は公園のこのベンチを特別な場所として、時折こっそりと会うようになった。そこでは、他の誰とも共有しない、特別な時間を刻んでいった。


しかし、その秘密の時間も長くは続かないことを、二人は深く感じていた。純の幼馴染との結婚の日が近づいてきたからだ。


ある日、梓が純に手紙を渡した。「純、これを読んで。」純はその手紙を受け取り、後で読むと約束して二人は別れた。


純が手紙を開いたのは、その夜の自室だった。字を追っていくうち、彼の瞳から涙が溢れ出した。


手紙には、梓の真摯な気持ちが綴られていた。彼女は純への愛を確かめるような言葉で表現していたが、最後の部分で、彼女は彼との関係を終わらせる決意を告げていた。


「純、私たちの関係はここで終わりにしよう。君の未来や約束を尊重すると言った私の気持ちは変わっていない。だから、幸せを掴んでほしい。私は君のことをずっと応援しているから。さよなら、愛してる。」


純は涙を流しながら、その手紙を何度も読み返した。彼女の決意や愛情が伝わってきて、彼の胸は痛みとともに満たされていった。


数年後、春の日の午後、梓はかつての学校の近くの桜の木の下で立っていた。彼女は成長し、美しい女性になっていた。その場所は、彼女にとって特別な場所だった。


突然、後ろから声が聞こえてきた。「梓、久しぶりだね。」


振り返ると、そこには大人になった純が立っていた。彼はまだ変わらず、優しい目をしていた。梓は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔を見せた。


「純、どうしてここに?」梓が問いかけると、純は深く息を吸った。


「実は、幼馴染との結婚は、お互いの幸せを願って解消したんだ。そして、君を探していた。」


梓は驚きの表情を浮かべたが、純の真剣な眼差しを受けて、彼の気持ちを理解した。


二人は再び桜の花の下で、深く愛を確かめ合った。過去の約束や過ち、そして時の流れが二人を離しても、真の愛は再び彼らを引き寄せたのだった。


「ありがとう、梓。もう離さない。」純は梓の手を強く握った。梓も純の手を握り返し、満面の笑みで答えた。「私も、純。」


桜の花が舞う中、二人は新たな未来への第一歩を踏み出した。

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