貴方との別れ・私と貴方の違い

 病院のとある一室に貴方は寝ていました。白髪混じりの髪を、近くの窓から吹き入る風になびかせながら。

  あぁ。貴方はこれ程までに年老いてしまっていたのですね。私は、命の長さを、生命力を体で感じることが出来ます。だから、貴方がもう少しで命尽きることを悟りました。

 なので、私はもう貴方に見てもらうことを諦めました。

少しでもそばに。残りの少ない時間を共に過ごしてあげたい。それが、私が貴方にしてあげられる最後のことだから。


 ある日。貴方は、珍しく起き上がることが出来ました。窓の外を眺めています。鳥を眺めているのでしょうか、それとも木に残っている葉でも見ているのでしょうか。取り敢えず、貴方の前にまた立ってみましたが、やはり貴方は気づかないようです。

 貴方は、もう少しで逝ってしまう。残りの時間は少ないのに、私が出来るのはただ居るだけ。


  そして、桜が散る日。遂に貴方はこの現し世から離れてしまいました。

 最後まで何もできなかった。してあげられなかった。ただ、その想いだけが、心の穴をどんどん広げていきます。


 貴方は、まだ覚えていましたか?

 まだ貴方が幼い日、共にご飯を食べたり、遊んだりした少女の存在を。ある時から、その少女が居なくなって戸惑った様子でしたね。

 私は、ここに居たのに。


 人は、年を重ねると怪ものの類いが見ずらくなると言いますが、本当にその通りでした。

 それは、双方どちらにとっても悲しい事なのだと思います。


  だから、もし、次の生を選べるのならば、私は貴方と同じ人を選ぼうと思います。


 だってそうすれば、貴方と同じ景色を見たり、感じたり出来ます。それに心を知ることも出来るからです。


 でも、一番の理由が別にあります。



 それは、『貴方と同じように、貴方と共に、この現し世で息をしてみたいと思ったから』ということです。


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きみと息をしたくなる 十六夜 水明 @chinoki

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