きみと息をしたくなる
十六夜 水明
貴方という人と私の想い
貴方と出会ったのは、まだ貴方が幼い時─────。
貴方は、それは大きな大きな大樹の下で泣いていましたね。
「お母さんが遠くへ行ってしまった」と。
幼い貴方は、分からなかったのでしょう。自分の母親が死んだということを。
貴方は、「お父さんは、いつも夜遅くに帰ってくるんだ」と、私に言いました。
その時の貴方の顔は、『心』というものを知らない私も、このときばかりは目を背けたくなるものでした。
まるで、寂しいと言っているその顔は、日に日にやつれていきましたね。
なので、今まで人という存在が嫌いだった私も、仕方がなく貴方の相手をしたのです。一緒に遊んだり、ご飯を食べたり。誰かと何かをすることが初めてだった私は、その天にも昇るような想いを知ることが出来ました。
でも、その分、独りぼっちに戻った時の心の穴は前よりも大きく感じます。
あっという間に年を重ねる貴方は、ある日を境に私のことを見なくなってしまった。どれだけ、私が声をかけても、近くにいても、貴方は私の存在に気がつかないのです。
昔は、幼い日の貴方は、あんなにも私にかまってくれたのに。
そう思う度に、心にポッカリと空いた穴は少しずつ大きくなっていくばかり。それが、なんという心の形なのかは、分かりません。
それまで、毎日が彩り溢れた世界が一変し白黒の色がないものに成り果ててしまいました。
しかし、私は諦めません。
いつか、また貴方が私のことを見てくれる日を夢見て。どれだけ待たされてもいい。その時が来ることを私はただ待ちます。それがいつになったとしても。
それから数年して、貴方は伴侶を得ました。少し悔しいですが、貴方は、私のことを見ないので仕方がないことです。
あれ? なぜ悔しいのでしょうか。私には、よく分からない心の形です。その気持ちには、取り敢えず蓋をして置きましょう。貴方が私のことを見るようになったら貴方に聞いてみるとしましょう。
ですが、貴方は私を見ないままどんどん年老いていきます。少し心配です。このまま、私のことを見ることなく、この現し世を去ってしまうのかもしれないと。
悲しいことに、その心配は本当のことになろうとしていました。
貴方が倒れたのです。
しばらくの間、貴方に近づいていなかった私も、流石にまずいと思い貴方の伴侶とその子供たちにくっついて病院という施設に入りました。
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