第3話 転生したら人生の難易度がハードだった

――――セーレン王国ドミナ辺境伯領 

    最東の小さな村


 ある夏の夜、外は鳴りやまない雷に照らされ、今にも魔王が現れそうな雰囲気に包まれていた。ガタガタと揺れる家、ゴロゴロと唸る怪物の咆哮のような音に村の住民は怯え、明かりを消しても眠ることはできない。

 そんな時、真夜中まで明かりがついている家から赤子の産声がかすかに聞こえてきた。その産声は雷雨の轟音に負けじと強く叫んでいるように聞こえる。

 

 その叫びは10分たっても止むことはなかった。

 すると家から一人の男が赤子を籠に入れ、雷雨から守るように大事に抱えて外に出てきた。男は風にあおられ何度も倒れそうになっても必死に耐えて、村に一つしかない協会にたどり着いた。

 

 男は協会の入り口のすぐそばに赤子の入った籠を優しく置き、手を合わせる。天に向かって祈り、もう一度赤子を強く抱きしめると紙きれを籠に忍ばせて協会から離れていった。

 

 男は泣き続ける赤子に何度も振り返るが、戻るそぶりは全く見せずただ進む。


 夜の村に残されたのは、暗黒の空に走る稲妻とたたきつけるような雨。

 そして一人の赤子の泣き声だけとなった。


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 「……んっ?」

 俺は意識が戻ると、なぜかびしょびしょのタオルに包まれていた。

 まだ視覚が完全ではないが、暖かな陽の光を感じることができる。

 ということは…


 「俺生まれたの?いつのまに!?」


 全く気付かなかった。起きたらびしょぬれ状態でおはようございます、だ。異世界ライフの幸先悪いっちゃあありゃしない。

 2度目の人生に不安感を募らせていると、扉が開くような音に続いて二人ほどの足音と声が聞こえた。

 「●▽◆★△◎」

 「○○×◇~」


 声の主はおそらくイケボの男性とまだ若そうな女性だと思う。新しい両親なのだろうか。

 だが…何と言っているのか理解が出来ない。

 そりゃそうか。異世界だもんな。

 

 異世界あるあるで、その世界の言葉が全てわかったりする機能が付いていないのかと期待したのだが…無かったな。


 もしかして異世界ライフって結構ハードなんじゃね、と思った。俺他言語学習するの苦手なんだよ。

 

 両親であろう人の足音が近づいてくると、腕に抱えられて家に入って行く。      

 俺は異世界の建築に期待を抱いた。未来的なのか、現代的なのか、それともあるあるの中世頃なのか。あとなるべく裕福な家庭で過ごしたいな、なんてことも考えた。


 そして扉を開けると

 甘い香りと、大勢の使用人さんの「お帰りなさいませ」という言葉が……

 

 聞こえなかった。

 

 代わりに聞こえたのは、数人の子供がはしゃぐ声だった。わー、というはしゃぎ声が近づいてくると思ったらいきなり俺の顔やらなんやらをペタペタと触り始めやがった。

 

 「やめろっ、おい!やめろってば!」


 そんなバリバリの日本語を喋ったところで相手に通じるわけがないと分かっている。異世界だからな!

 相手からしたらただ赤ちゃんが嫌そうに喚いているとしかおもわないのだろう。


 しかし、俺が日本語を発した途端にみんなの手が止まった。本当に、しーーーーんとなった。

 そんなに声がデカかったのかと、小さくまた日本語で「驚かしちゃってごめん」と言ってみた。

 

 伝わるはずのない事を言い続ける俺に自笑していると、聞こえるはずのない日本語が聞こえて来た。

 

 「この赤子…今喋ったよな?」

 「はい。今確かに……」

 「………。」

 

 うおぉぉっとおぉぉ⁈言葉分かる機能…いや、どちらかと言えば双方にとっての翻訳機能か⁈神すぎる。

 ありましたよ異世界あるあるのチート能力。英語が大の苦手教科の人にとってはありがたすぎる能力!

 

 俺の心が嬉し涙ボロボロ状態になった時久しぶりの感覚が頭に走った。


『管理者名:οオミクロンの干渉を確認。対象者に言語理解及び言語翻訳のスキルを6年間付与します』


 ふむふむそうかそうか…え?6年だけですか?一生じゃないの?まさかチートが時間制限付きだとは思わなかった。本当に神はケチしかおらんのか。

 ん?ちょっと待てよ。時間制限付きってことはよ、結局異世界語を勉強しなきゃいけないってことか⁈


 「Noーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 あまりにもショックすぎて絶叫してしまった。

 マジで言語の違いを生んだやつを一生恨む。

 

 「よーしよしよし。大丈夫だよー」

 「さーみんな戻って戻って」

 その絶叫が泣いていると勘違いされたのか、母はすぐにあやしてくれた。そして父は俺の兄弟であろう子供たちに声を掛け、残ったのは3人になった。

 

 「やっぱりさっきのは気のせいですかね?」

 「あぁ、そうだなそんなわけないもんな」


 そんなわけがあるんですけどね。と今すぐにでも声をかけたいし、この世界のことを聞いてみたい。でもそんなことしたら面倒なことになりそうなのは事実。


 まぁそんなことはどうでもいいことだ。この世界のことなんか今後いくらでも聞けるんだしな。

 でも目が見えるようになるまでは、とりま大人しくするしかないでしょ。


 って事で6ヶ月間、俺は普通の赤ちゃんとして生活することに決めたのだ。




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 ここで前回読者が気になっているであろう事を説明していきます。それはー…デレン!

『お腹の中でどうやって時間が分かるんですか』

 という事です。

 まぁこれは簡単な話ですよ。

 

 お腹の中にいるとね、外の揺れを直に感じるんですよ。しかも、大きくなればなるほど。それはそれは飛行機の着陸時に起きる揺れのようなレベルが何度も何度もね。きっつい体制のまま三半規管守り続けた俺を褒めて欲しいわ。

 んで外揺れが激しかったり活発がったりすると昼。

 揺れがおさまった思ったら夜。

 そんな感じで日にちを数えていたんです。


 でもなんかね、生まれる1週間前くらいから昼と夜の区別がつきにくくなったんだよ。夜でも動いていたりしてたからな…

 何が起きていたんだろうか?


 

 




 

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異世界ライフは楽しむものです~俺は世界を超越する~ SOMEONE @KaGeJiTsu

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