親友へ託したモノ

 篝は寝たきり状態が続き、食事もろくに取れなくなっていた。


 抗がん剤が効かなくなってきた。


 それは、自分の死へのカウントダウンだ――


☆☆☆


 連休初日、篝は輪にある提案をした。


「叔母ちゃん……私、やりたいことあるの」


「うん。何でも手伝うよ。何でも言って?」


「葉月へ手紙を書く。もし私があの世に行ったら、葉月へ渡してほしい。お盆まで生きられるか……分からないよって、先生に言われたから――」


「分かった。明日必要なもの用意して持ってくるから、それまで書くこと考えときな」


 そう決めたものの、翌日篝は朝から体調が優れず、書き始めることができなかった。手紙を書く件については、輪が看護師さんへ伝えてくれていた。


「私がいない間、篝ちゃんを手伝ってあげてください……」


そう言う輪の声も震えていた。輪も、覚悟していたのかもしれない。


 翌々日から、篝は手紙を書き始めた。何度も書き直した。大型連休を利用し地元へ帰ってきていた愛里加も心配で駆けつけ、篝を手伝った。


 連休終盤、葉月へ送る手紙が完成した。


――――――


 葉月へ



 この手紙を読む時には、私はもうこの世にはいないでしょう。


 去年の秋、内定が決まる最後の面接試験の前に、私は倒れた。そして、白血病だと診断された。この半年ぐらい連絡ろくにできなかったのは、そんなことがあったからだよ。


 病気のこと、葉月へ先に言いたかった。でも、それができなかった。本当に、ごめんなさい。ごめんなさいの一言じゃ、葉月はきっと、許してくれないよね。でも、転校が決まった時、私へ先に言いたかったって言ってたから、お互い様なのかも。


 入院してる間、葉月にずっと会いたかった。おじいちゃんおばあちゃん、叔母ちゃんはもちろん、愛里ちゃんや大学の友達もお見舞いに来てくれたけど、葉月に会えなかったのが、寂しくて仕方なかった。


 年明け、会う時に……大遅刻だけどはっきり言おうかと思ってたけど、葉月は仕事の都合で帰っちゃって、残念だったよ?


 そういえば、入院してすぐ、葉月のお父さんとお母さんも来てくれたよ。葉月のお母さん、泣きそうになってたのよく覚えてる。葉月の分まで、心配してくれたのかな。


 入院したての頃に比べて、薬の副作用で髪の毛抜けるし食べた物全部吐いちゃったから、痩せてか弱くなってしまったけど……。それでも、必ず元気になって葉月との約束を果たすために、毎日頑張ってきたよ。


 親愛なる友、葉月へ。


 出会ってから約10年、他所からやってきた私と仲良くしてくれて、本当にありがとう。葉月のおかげで、明るくなったねって叔母ちゃん、喜んでたよ。


 私はこの先、もう生きられないかもしれない。だから、葉月へお願いがあります。


 私の分まで、これからもたくましく生きてほしいです。


 私を受け入れてくれたその優しさで、人生のパートナーを手に入れて、その方と幸せになってください。葉月からの嬉しい報告、天国からいつでも待っています。


 葉月と共に過ごしてきた日々は、私には勿体ないぐらいの宝物です。


 改めて、今まで本当に、ありがとう。



 篝より


――――――


 そして翌日、輪と愛里加に見守られ、篝は天国へと穏やかに旅立っていった――


☆☆☆


 篝の1周忌を機に、葉月は帰省した。転校先の同級生で、今は同じ職場で共に働き、恋人となった友野柚希とものゆずきからの提案で、一緒にこの地にやって来た。


 東京へ戻る前、輪は葉月へあるものを手渡した。


「篝ちゃんが、生前書いた手紙。渡すタイミングなくて今になっちゃったけど、帰ってからゆっくり読んでね……」


「はい、ありがとうございます……」


「いつでも帰ってきてね。篝ちゃんも待ってるよ……」


輪に見送られ、葉月は柚希と一緒に飛行機へ乗り込んでいった。


(あの時は、篝も一緒だったよなぁ)


葉月はそうぼんやり思いながら、2人が乗った飛行機は空港を出発した。


 東京に着くと、外はすっかり夜になっていた。葉月は柚希が1人暮らししているアパートに泊まることにした。


 葉月が先に風呂に入り、その後に柚希が入った。柚希が風呂に入っている間、輪から渡された、篝からの手紙を封筒から出し、読み始めた。


(輪さんとお父さんお母さんからちらっと聞いてはいたけど……篝、あの時来れなくて、本当に、ごめんなさい……)


 葉月は手紙を読み終わった途端、勝手に涙が出てきた。それとほぼ同時に、柚希が風呂から出てきた。


「どうした葉月?」


「あっ……」


きょとんとしていた柚希も手紙を読み、葉月が泣いていた訳は何となく分かった。


「なるほどねぇ……」


「ゆずくん?」


 少し間が開くと、柚希は葉月を抱き寄せ、こう誓う。


「僕の両親へ挨拶まだしてないから、こんなこと言うのもどうかなと思うんだけど――」


「うん?」


「葉月のことこれからも、幸せにしてやるから。そして、いつになるか分かんないけど……いつか結婚、しよ?」


「いいよっ! ゆずくんにずっとついていく!」


 篝もこの先長く生きたかったはず。幸せになりたかったはず。葉月は自分に託してくれたんだと、手紙を読んで改めて知った。


 柚希と共に、篝の分まで逞しく、幸せに生きる。それが、葉月の新たな目標になった――



―完―



――――――――


【作者より】

特別編、このような内容でまとまりました!

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

親愛なる友へ送る手紙 はづき @hazuki_com

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ