親愛なる友へ送る手紙
はづき
篝の異変
篝が大学2年に進級した頃、葉月の両親が帰ってきた。詳しい事情は分からないが、父方の祖父母が営む会社の後を、息子である葉月の父親が継ぐそうだと、後日葉月から電話した際に聞いていた。
(――ということは、葉月は1人暮らしすることになったんだ。仕事も順調みたいだし、私も頑張らんとなー)
篝はそう気合を入れて、日々の大学生活を送っていた――
☆☆☆
それから約2年半後。篝は就職試験を順調に通過し、最終面接を控えた4年生の11月。筆記試験や2度の面接は地元で受け、最終面接は本社がある東京にて行われる。
その日の午後は卒業論文作成に向けた研究・準備で2コマ連続でゼミナールが行われる。篝は1番乗りでゼミ室に入った。前半の1コマを受けて、移動のため途中退席する予定でいたのだった。
(何だか……頭がくらっとす――)
席に着く前に、篝はその場で倒れてしまった。
数分後、篝と同じゼミメンバーの
「――か…篝っ!? しっかりして!?」
紅音が必死に声をかけても、応答がない。
紅音の声に気づいたのか、隣の部屋にいたゼミの先生が出てきた。
「新滝さん、どうしたんですか!?」
「先生、篝が…。は、早く救急車呼んでください!!」
紅音に急かされ、先生が慌てて電話をかけ救急車を呼んだ。
救急隊員が到着するころ、他のゼミメンバー達が続々やってきた。担架に乗せられ運ばれていく篝を見て、皆して何があったのかと先生や紅音に詰め寄るばかりで動揺を隠しきれなかった。
先生が篝の叔母、
「……皆さん、秋川さんがあのような状態になったことで大変驚かれたと思います。皆さんに急で大変申し訳ないのですが、本日のゼミナールは休講とさせていただきます。後日補講の案内を出します。私はこの後秋川さんが運ばれた病院に顔出してきますので、皆さんはお気をつけて帰宅お願いします」
(何も、できないなんて……)
先生から休講の知らせを受けた紅音達だったが、紅音だけが悔しさをあらわにしていた。彼女は渋々、帰宅せざるを得なかった。
同じ頃、ゼミの先生から連絡を受けた輪は、在宅でやっていた仕事を切り上げ、篝が運ばれた病院へ向かった。
「すみません、先程この病院に運ばれた秋川篝の叔母です。姪が通う大学から連絡がありまして――」
受付にてそう伝え、少しばかり待たされた後、輪はとある診察室へと呼ばれた。篝がいる病室へ行く前に、診療を行った病院の先生からお話があるようだ。
「姪は今……大丈夫なんでしょうか?」
「はい…意識不明の状態で運ばれ、現在も変わらずですが…。最近篝さんに変わった様子はありましたか?」
「いえ、特に何も……。身体測定があった時も、何も問題なかったので……」
「そうでしたか……篝さんが目を覚ましましたら、改めて診察と血液検査を行います。結果によっては入院となりますので、そのつもりでお願いしますね」
「分かりました。これから本人と会ってきます。1人のままだときっと寂しいですし、暫くの時間付き添いますので、目を覚ましたらすぐ看護師さんに連絡しますね」
そう言って診察室を後にした輪は、看護師さんの案内で篝がいる病室へと向かった。
やがてゼミの先生が病院に到着し、病室に入ろうとする輪のもとへと歩いてきた。
「こんにちは、先程お電話した○○大学の
「いつも姪がお世話になっております、叔母の水野です」
簡単に挨拶を済ませると、一緒に病室へ入った。そこにいたのは、昏睡状態の篝だった。
(篝ちゃん……元気になるよ……ね?)
輪は、病床で眠り続ける姪の姿を見て、心苦しくなっていた。
金村先生は輪の様子を伺い、篝が明日に控えていた最終面接の件について輪に報告する。
「篝さんが受ける予定だった明日の面接のことなんですが。こちらに来る前に、自分の方で事情を応募先の企業様へお話して、辞退する旨をお伝えさせていただきました」
「すみません、わざわざありがとうございました……。本人に伝えるので」
「はい。自分はここで失礼します。近々またお見舞いに顔出すので、そのようにお伝えください」
金村先生は一礼して大学へと戻っていった。
その日の夜、篝が目を覚ました。
「――あれ?」
「篝ちゃん、起きたねぇ。よかったわ……」
輪の方を向き、そして辺りを見回し、自分が置かれている状況をようやく理解できた篝。
「重い貧血で、倒れたのかな……?」
「そうかもね? 病院の先生がね、目覚ましたら診察と血液検査をやるって言ってたよ」
輪はそれだけ言うと、看護師さん宛に目を覚ましたことをナースコールで報告。
「あとね、ゼミの先生が来てたよ。申し訳ないんだけど、明日の最終面接は辞退ってことで連絡したって。ここまで篝ちゃん、ホントに頑張ってたのに悔しいよね。まずは体を治して、1からまた頑張ろう。最後に先生、近々また顔出すって言ってたからね」
「……うん。しょうがないよね。分かった」
篝はすんなりと受け入れ、前を向こうとしていた。
(早く元気になって、就職して、葉月との約束さえ果たせば、何も問題ないんだ)
そう思っていた。そう思うしか、今の篝にはできなかった。
翌日。輪は仕事を休み、篝は診察と血液検査に臨んだ。日が暮れる頃、結果が出た。篝と輪に待ち受けていたのは、思いもよらないものだった。
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