恋多き男の悩みごと

@kkkkee1

 

 彼女は美しかった。

 可憐で愛らしく、手に入れたいと思った。


 自分だけの物にしてしまいたい。

 他の誰の目にも触れずいつまでも私だけを見ていて欲しい。


 自分の思いが狂気を孕んでいることなど、初めから気が付いていた。

 だが、押さえ付けられるほど陳腐な感情でもなかった。


 だから彼女を誘拐することにした。


 想い人がいる彼女を振り向かせる事は難しい事だと思ったから。

 警戒心の薄い彼女を連れてくるのは容易い事であった。


 やはりいつ見ても彼女は美しい。


 陶器のように美しい肌、透き通る瞳、漆黒の髪は吸い込まれるような魅力があった。

 

 だから彼女の美しい黒髪で布を織ったし、美しい皮膚では革靴を作った。


 私が触れるたび愛らしい声をあげる彼女はいじらしく、血溜まりの中に横たわる姿もまた目を奪われるほど美しかった。


 でも、彼女はもうこの世にはいない。


 なぜこんなに頑張っているのに彼女たちは姿を消すのだろうか。

 なぜそんなに儚く脆いのだろうか。

 わたしが彼女たちをこの世に残したいと思えば思う程に悪臭の漂う肉片しか残らない。


 己の無力さに涙がとめどなく溢れる。


 でも、儚く一瞬のものであるから恋とは美しいものなのではないか。

 だからこそ、彼女たちは一層輝いてみえるのではないだろうか。

 これからも私は不毛な恋をするだろう。


 そんなことを考えながら夜はふけていく。


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